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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 火災事件一覧 >  事件





平成14年函審第39号
件名

漁船第二寶漁丸火災事件

事件区分
火災事件
言渡年月日
平成15年1月9日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(安藤周二、工藤民雄、古川隆一)

理事官
杉崎忠志

受審人
A 職名:第二寶漁丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
機関室、船員室及び操舵室等に延焼、のち沈没

原因
集魚灯用安定器の点検措置不十分

主文

 本件火災は、集魚灯用安定器の点検措置が不十分で、変圧器が過熱短絡して発火し、周囲に燃え移ったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年7月20日02時00分
 北海道松前港西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第二寶漁丸
総トン数 9.94トン
登録長 13.95メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 250キロワット

3 事実の経過
 第二寶漁丸(以下「寶漁丸」という。)は、昭和55年3月に進水した、いか一本釣り漁業及び敷網漁業に従事する一層甲板型FRP製漁船で、上甲板の上方に42個の集魚灯、左右舷側に各5台のいか釣り機が装備され、ほぼ中央部に操舵室、その船尾側に機関室囲壁及び船員室、上甲板下の船首方から順に、倉庫、1番ないし3番魚倉、機関室、集魚灯用安定器(以下「安定器」という。)を設置した区画(以下「安定器室」という。)、4番及び5番魚倉等がそれぞれ配置され、機関室には、集魚灯用電源設備として、主機の動力取出軸によりエアクラッチを介して駆動される電圧220ボルト容量100キロボルトアンペアの交流発電機及び配電盤が据え付けられていた。
 安定器室は、機関室に隣接して船員室下方に位置し、長さ2.7メートル幅2.5メートル高さ1.3メートルの区画の壁面に合板が張られ、船員室の船尾側引き戸から木製床面のハッチを経て出入りするようになっており、左右舷側に各二段の鋼製枠が設けられていて、同枠上に合計21個の安定器が5センチメートル(以下「センチ」という。)の間隔で設置され、配電盤から操舵室に取り付けられている分電盤を経て安定器の入力側に至る電路及び出力側から集魚灯に至る電路にはキャブタイヤケーブルが配線されていた。また、安定器室は、船尾の左右舷側に通風筒があり、右舷側通風筒には電動式送風機を内蔵し、同機により換気されていた。
 寶漁丸は、北海道松前港を根拠地とし、同港沖合の漁場において、例年6月初めから翌年1月末までのいか一本釣り漁、2月初めから5月末までの敷網漁の漁期に操業を繰り返しており、漁期を終える際に漁具や船体等の整備を行っていた。
 ところで、安定器室には、平成5年5月寶漁丸の購入される前からエバ電子株式会社製造のEL-2202HD型と呼称する、出力2キロワット放電管2灯用の安定器が設置されていた。安定器は、縦22センチ横30センチ奥行き49センチの箱形のもので、2組の定格入力電流20アンペアの変圧器、コンデンサ等の電気部品が組み込まれていたが、長期間使用されているうち、変圧器の発熱や湿気の影響を受け、同部品の劣化が次第に進行していた。
 A受審人は、寶漁丸の購入時に船長として乗り組み、操船のほか主機や集魚灯用電気設備の運転保守にあたり、平素、操業の際には、安定器室の温度が上昇することから、送風機を運転したうえ船員室の床面のハッチ及び引き戸を開放するようにしていた。また、A受審人は、集魚灯が点灯しなくなる都度、業者に依頼して安定器の電気部品を取り替えるなどの修理を繰り返し、同11年5月下旬に箱ごと取り替えていた。そして、安定器室の船首側には、購入時以来の安定器8個が設置されていた。
 ところが、購入時以来の安定器は、電気部品の劣化により絶縁抵抗が低下し、集魚灯の光力が弱まる状況になった。
 しかし、A受審人は、同14年6月初めいか一本釣り漁の操業を開始したのち集魚灯が点灯しなくなり、同月5日安定器1個を取り替えた際、同灯の光力の弱い状態になっている数個の安定器があったが、点灯しているものは大丈夫と思い、絶縁抵抗の計測を業者に依頼するなど、安定器の点検措置を速やかにとらなかったので、購入時以来の安定器の絶縁抵抗が低下していることに気付かず、そのまま操業を続けた。
 こうして、寶漁丸は、A受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.6メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、7月19日16時00分松前港を発し、同港西方沖合の漁場に至ってシーアンカーを投入し、19時30分主機のクラッチを中立にして回転数毎分1,200にかけ集魚灯を点灯し、安定器室の送風機を運転した後、船員室床面のハッチが閉じられたまま、操業中、前示安定器の変圧器が絶縁不良により過熱短絡して発火し、周囲のコンデンサやキャブタイヤケーブル等に燃え移り、翌20日02時00分松前小島灯台から真方位041度5.4海里の地点において、A受審人が操舵室で船尾下方の異音を聞くと同時に集魚灯が消えたのを見て船員室に急行し、同室床面のハッチを開き、安定器室の火災を発見した。
 当時、天候は晴で風力2の東風が吹き、海上は穏やかであった。
 A受審人は、操舵室で集魚灯の電源を切り、船員室に再び赴いたところ、持運び式消火器を用いようとした乗組員から消火できない旨の報告を受け、僚船に無線で救助を求めた後、同室船尾側の炎を見て危険を感じ、乗組員を船首甲板に避難させ、02時30分来援した僚船に乗組員全員で移乗して救助された。
 寶漁丸は、機関室、船員室及び操舵室等に延焼し、05時35分前示地点で沈没した。

(原因)
 本件火災は、安定器の点検措置が不十分で、集魚灯を点灯していか一本釣り漁の操業中、変圧器が絶縁不良により過熱短絡して発火し、周囲のコンデンサ等に燃え移ったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、操船のほか主機や集魚灯用電気設備の運転保守にあたり、集魚灯の光力の弱い状態になっている安定器がある場合、これが長期間使用され変圧器の発熱や湿気の影響を受けていたから、電気部品の劣化を見落とさないよう、絶縁抵抗の計測を業者に依頼するなど、安定器の点検措置を速やかにとるべき注意義務があった。しかし、同受審人は、点灯しているものは大丈夫と思い、安定器の点検措置を速やかにとらなかった職務上の過失により、購入時以来の安定器の絶縁抵抗が低下していることに気付かず、そのまま操業中、変圧器が絶縁不良により過熱短絡して発火し、周囲のコンデンサ等に燃え移って安定器室の火災を招き、機関室、船員室及び操舵室等に延焼し、沈没するに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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