日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 転覆事件一覧 >  事件





平成14年神審第92号
件名

漁船第十住吉丸転覆事件

事件区分
転覆事件
言渡年月日
平成15年3月26日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(村松雅史、阿部能正、小金沢重充)

理事官
加藤昌平

損害
転覆、のち廃船

原因
漁具の積付け不適切

主文

 本件転覆は、漁具の積付けが適切でなかったことによって発生したものである。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年9月30日14時40分
 石川県金沢港西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第十住吉丸
総トン数 6.98トン
全長 15.60メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 120

3 事実の経過
(1) 第十住吉丸
ア 来歴
 第十住吉丸(以下「住吉丸」という。)は、昭和57年8月に進水した一層甲板のFRP製漁船で、平成12年11月平野勝正が中古購入後、かけ回し式底びき網漁業に従事していた。
イ 船体構造等
 船体は、登録長11.89メートル、型幅3.07メートル、型深さ0.86メートルで、上甲板下は船首から順に、船首倉庫、魚倉、機関室、船員室、舵機室及び船尾倉庫に区画され、上甲板上はほぼ中央部が船首側の機関室囲壁と船尾側の操舵室とに区分され、機関室囲壁の前方が長さ約6メートルの前部甲板、操舵室後方が長さ約5メートルの後部甲板となっており、高さ約1メートルのブルワーク下部には両舷各6個の放水口があり、船体両舷側には空所が設けられ、乾舷は約0.1メートルであった。
 また、漁ろう設備は、船首ローラーが船首部両舷に各1基、揚網機が前部甲板左舷側に1基、ドラム式ウインチが機関室囲壁両舷側壁に各1基、えい網索の巻き取り用ロープリールが後部甲板右舷側に1基、同左舷側に前後して2基がそれぞれ設置されていた。
ウ 空所
 空所は、操業時の浮力及び復原性保持の目的で、船体両舷側に長さ14.75メートル高さ0.70メートル幅0.15メートルのものが設けられており、容積はそれぞれ約1.5立方メートルであった。
エ 放水口
 放水口は、両舷左右対称に片舷6個ずつ設けられ、ほぼ中央の機関室囲壁前面横のものは高さ23センチメートル(以下「センチ」という。)幅27センチのT字型で、他の5個は高さ5センチ幅8センチであった。
オ 船尾倉庫
 船尾倉庫は、後部甲板下に前後の長さは約1メートルで、幅は両舷にわたる約2.7メートルのものが設けられ、同倉庫には操業時の船体傾斜を防止する目的で、バランス調整用の約500キログラム(以下「キロ」という。)のチェーンが右舷側に置かれていたが、中央部に仕切り板はなかった。
(2) 住吉丸の漁具
 住吉丸の漁具は、袋口径約4メートル長さ約50メートル重量約250キロの漁網と、袋口の両端にそれぞれ長さ約1,700メートル重量約1,530キロのえい網索を連結したものであった。
 操業時以外、漁網は前部甲板左舷側の揚網機と付近甲板に、えい網索は後部甲板の右舷側と左舷側後方のロープリールに分けて収納されていた。
(3) 住吉丸の運航模様
ア 出航から僚船の漁具積込みに至る経緯
 住吉丸は、船長H及び甲板員1人が乗り組み、操業の目的で、角氷240キロを載せ、船首0.3メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成13年9月29日23時00分石川県金沢港を発し、翌30日01時00分同港北西方12海里付近の漁場に至り、操業を開始した。
 12時30分H船長は、近くで操業中の僚船第5昭与丸(以下「昭与丸」という。)から乗組員が負傷したので操業を中断して緊急帰航するため、海中に放置した漁具を僚船第八宝伸丸(以下「宝伸丸」という。)と共に回収してほしい旨の連絡を受け、直ちに自船の漁具を収容し、魚倉に漁獲物180キロを積み、昭与丸が漁具を放置した地点(以下「漁具放置地点」という。)に向かった。
 H船長は、13時30分金沢港西防波堤灯台から286度(真方位、以下同じ。)12.0海里ばかりの漁具放置地点に到着し、昭与丸の漁具がほとんど自船のものと変わらないことから、宝伸丸に片方のえい網索を、同船よりやや船型が大きい自船にもう一方のえい網索と漁網を積み込むこととして、その作業に当たった。
イ 昭与丸の漁具積込み
 H船長は、漁具放置地点において、船首を北東風に立てて、機関を種々使用し、昭与丸のえい網索を船首ローラーを経てウインチで巻き、空いている後部甲板の左舷側前方のロープリールに巻き取り、次いで、左舷側から風浪を受けるよう、船首を135度に向けて漂泊し、自船の漁網を右舷側に寄せ、昭与丸の漁網を揚網機で巻き揚げ、前部甲板左舷側に積付けを開始した。
 14時30分H船長は、昭与丸の漁具の回収を終えたところ、船体が左舷側にかなり傾いていたので、前部甲板上にある容量約0.5立方メートルの移動式活魚水槽(以下「活魚水槽」という。)を右舷側に寄せて海水を張り傾きを直そうとしたものの、左舷側中央部放水口の下縁が海面に没して、上甲板に海水が少々流入する状況となり、住吉丸は同舷側に約6度傾斜したままの状態となった。
 しかしながら、H船長は、金沢港が近いので、このままなんとか航行できるものと判断し、船体の安全性を損なうことがないよう、えい網索の一部を右舷側に移動して船体の傾きを直すなど、漁具の積付けを適切に行わず、片積み状態のまま14時35分漁具放置地点を発進した。
ウ 発進後本件発生に至る経緯
 発進時、H船長は、船首が135度に向いていたので、微速力で右回頭して堪航状態を確かめることとし、手動操舵により右舵少しを取り、機関を微速力前進にかけ、2.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、大きく右旋回しながら進行した。
 その後、H船長は、住吉丸が漁具片積み状態による船体の歪みで、左舷側の空所と上甲板との継ぎ目に隙間を生じ、上甲板に少々流入していた海水が同隙間から左舷側の空所に浸入することとなり、同舷側に徐々に傾斜が増したものの、右舵による内方傾斜や風波により船体が動揺していることもあって、このことに気付かなかった。
 こうして、住吉丸は、船首が金沢港へ向いた14時40分少し前、H船長が舵を中央に戻し機関を半速力前進の5.0ノットに増速したとたん、傾斜が増大したところに波の衝撃を受け、活魚水槽、漁網及びバランス調整用チェーンなどが一挙に左舷側に移動して大傾斜し、14時40分金沢港西防波堤灯台から286度12.0海里の地点において、船首を106度に向け、原速力のまま、復原力を喪失して左舷側に転覆した。
 当時、天候は晴で風力3の北東風が吹き、波高は1メートルであった。
 転覆の結果、住吉丸は金沢港に引きつけられたが、のち解体されて廃船となり、また、乗組員は海中に投げ出され、甲板員は付近にいた僚船松栄丸に救助されたが、H船長(昭和45年10月24日生、一級小型船舶操縦士免状受有)が行方不明となり、のち遺体で収容された。

(原因)
 本件転覆は、石川県金沢港西方沖合の漁場において、緊急帰航する僚船の漁具を積載する際、その積付けが不適切で、左舷側に傾斜したまま発進して回頭中、漁具片積み状態による船体の歪みで、左舷側の空所と上甲板との継ぎ目に隙間が生じ、同空所に海水が浸入して左舷側に大傾斜し、復原力を喪失したことによって発生したものである。

 よって主文のとおり裁決する。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION