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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 転覆事件一覧 >  事件





平成14年神審第117号
件名

プレジャーボートNo6イイダ転覆事件

事件区分
転覆事件
言渡年月日
平成15年3月12日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(黒田 均、前久保勝己、小金沢重充)

理事官
加藤昌平

受審人
A 職名:No6イイダ船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
航海計器や機関に濡れ損

原因
潮流に対する配慮不十分

主文

 本件転覆は、潮流に対する配慮が不十分で、渦や激潮が発生する危険海域への接近を中止しなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年8月16日11時00分
 鳴門海峡

2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートNo6イイダ
全長 10.37メートル
登録長 8.89メートル
2.49メートル
深さ 0.60メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 110キロワット

3 事実の経過
 No6イイダ(以下「イイダ」という。)は、船内外機を装備したFRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、友人2人を同乗させ、船首0.3メートル船尾0.7メートルの喫水をもって、釣りの目的で、平成14年8月16日06時00分兵庫県姫路港の定係地を発し、鹿ノ瀬西方で釣りを行ったのち、10時00分鳴門海峡西方の徳島県亀浦港に向かった。
 A受審人は、各人が救命胴衣を着用しないまま、同乗者を船尾甲板に配置して操舵と見張りに当たり、全速力で淡路島西方を南下し、10時40分丸山埼沖合にあたる、孫埼灯台から352度(真方位、以下同じ。)3.3海里の地点に達したとき、大鳴門橋を見に行くことを思いつき、針路を中瀬の少し西方に向く163度に定め、機関を減速して10.0ノットの対地速力とし、手動操舵で進行した。
 ところで、鳴門海峡における潮流は、同海峡の南北両側における高潮と低潮とがほぼ逆となっているため海面に大きな水位差を生じ、極めて速い流れや渦を形成しており、北流時においては、門埼と飛島とを結ぶ線を通過すると急に流速を増し、本流区域の海面は平滑であるものの、その両側は渦のほか海底の起伏により海面が高起する激潮が発生し、その最大なものは中瀬北西方で本流東側に生じていた。
 10時53分少し過ぎA受審人は、孫埼灯台から008度1.1海里の地点に至り、その後渦や激潮が発生する中瀬北西方の危険海域に接近する状況となったが、渦の中に入らなければ接近しても大丈夫と思い、同危険海域への接近を中止するなど、潮流に対する配慮を十分に行うことなく、同じ針路で続航した。
 11時00分少し前イイダは、中瀬北西方でクラッチを中立として惰力前進を続け、11時00分孫埼灯台から081度870メートルの地点に至り、163度に向首したまま行きあしがなくなったとき、約1.5メートルに高起した激潮を左舷に受け、右舷側に大傾斜して復原力を喪失し、瞬時に転覆した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の中央期にあたり、転流後2時間で、付近には約5ノットの北流があった。
 その結果、航海計器や機関に濡れ損を生じた。
 A受審人は、船外に脱出し、海中に投げ出された同乗者とともにイイダの船底にはい上がり、付近にいた漁船に救助された。

(原因)
 本件転覆は、鳴門海峡において、大鳴門橋を見に行く際、潮流に対する配慮が不十分で、渦や激潮が発生する危険海域への接近を中止せず、海底の起伏により高起した激潮を左舷に受け、右舷側に大傾斜し、復原力を喪失したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、鳴門海峡において、大鳴門橋を見に行く場合、渦や激潮が発生する危険海域への接近を中止するなど、潮流に対する配慮を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、渦の中に入らなければ接近しても大丈夫と思い、潮流に対する配慮を十分に行わなかった職務上の過失により、海底の起伏により高起した激潮を左舷に受け、右舷側に大傾斜し、復原力を喪失して転覆を招き、航海計器や機関に濡れ損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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