(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年10月30日15時55分
高知県宿毛湾
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船玉龍丸 |
漁船照福丸 |
総トン数 |
6.6トン |
4.4トン |
登録長 |
12.63メートル |
9.95メートル |
幅 |
3.29メートル |
3.68メートル |
深さ |
1.38メートル |
0.90メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
279キロワット |
漁船法馬力数 |
|
130 |
3 事実の経過
玉龍丸は、つぼ網漁業に従事する、全長14.60メートルのFRP製漁船で、船体中央部の少し後方に操舵室を有し、操舵室の後方には、船尾端から約1メートル前方の両舷側に高さ約60センチメートル(以下「センチ」という。)のビット(以下「船尾ビット」という。)が各1基設けられていた。
また、照福丸は、主に定置網の運搬及び設置作業などに従事する、全長15.15メートルのFRP製漁船で、船体後部に機関室囲壁を有し、船首端から約11メートル後方の同囲壁前面と同端から約2メートル後方の油圧式クレーンとの間が作業甲板となっており、同甲板におけるブルワーク高さが約50センチで、作業甲板の前方には、船首端から約1メートル後方の両舷側に高さ約30センチのビット(以下「船首ビット」という。)が各1基設けられていた。
B受審人は、つぼ網を設置するため、玉龍丸の作業甲板に重量1.1トンの同網を載せ、海技免状に制限があるのでA受審人に協力を依頼し、同受審人が船首0.5メートル船尾1.5メートルの喫水となった玉龍丸に、B受審人が船首0.3メートル船尾0.4メートルの喫水となった照福丸に、それぞれ1人で乗り組み、平成13年10月30日15時45分高知県宇須々木漁港を発し、港外に出たら照福丸が玉龍丸に曳航される予定で、宿毛湾南方の沖ノ島西岸付近の漁場に向かった。
ところで、曳航索は、直径2.4センチの合成繊維索を使用し、緩衝用として、内径約30センチ外径約50センチのゴム製タイヤを同索の中間に介し、1本の曳航索の長さが約15メートルであった。
普段から、B受審人は、つぼ網を載せた照福丸が玉龍丸に曳航される際、同様の曳航索を使用し、同索が過大に緊張しないよう、玉龍丸の機関回転数を半速力の毎分1,600以下とし、回転数を徐々に上げてもらうようにしていた。
15時50分A及びB両受審人は、宇須々木漁港港外の桐島南方沖合500メートル付近に至って停留し、玉龍丸の船尾ビットから照福丸の船首ビットに曳航索を各舷1本ずつとり、約10メートルの長さに調整して係止し、曳航準備を終えた。
15時53分B受審人は、曳航作業を開始することとしたが、A受審人が初めて同作業に当たるのに、同人の内航船の経験が長いのであえて打ち合せることもあるまいと思い、玉龍丸の機関を急激に増速したり、全速力にかけたりしないよう、機関使用の打合せを十分に行うことなく、右手を上げ、曳航開始の合図を行った。
一方、合図を見たA受審人は、機関使用の打合せを十分に行わないまま、機関を前進にかけて発進し、回転数を全速力の毎分2,000まで急激に上げ、船首を210度(真方位、以下同じ。)に向け、照福丸の曳航を開始したが、その後、機関回転計を注視することに気をとられ、曳航状況の監視を十分に行わなかったので、間もなく曳航索が過大に緊張して右舷側の同索に使用していたタイヤが裂け、左舷側の曳航索1本で引くようになったことから、照福丸の船首が右旋して曳航方向から開き、同船を横引きする状態になったが、これに気付かないまま進行した。
こうして、照福丸は、左舷側に大傾斜して復原力を失い、15時55分池ノ島灯台から245度1.2海里の地点において、290度に向首したとき転覆した。
当時、天候は晴で風力3の西風が吹き、転覆地点付近の波高は約1メートルであった。
B受審人は、照福丸が大傾斜した際、バランスを崩して落水したが、しばらくして同船の転覆に気付いた玉龍丸に引き揚げられた。
転覆の結果、照福丸は、機関に濡れ損を生じたが、のち開放整備された。
(原因)
本件転覆は、高知県宿毛湾において、曳航作業開始にあたり、機関使用の打合せが十分でなかったことと、曳航を開始した際、曳航状況の監視が十分でなかったこととにより、右舷側の曳航索が切断し、照福丸が玉龍丸に横引きされ、復原力を失って発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、高知県宿毛湾において、曳航索を各舷1本ずつとって照福丸の曳航を開始した場合、同船に異常がないことを把握できるよう、曳航状況の監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、機関回転計を注視することに気をとられ、曳航状況の監視を十分に行わなかった職務上の過失により、右舷側の曳航索が切断したことも、照福丸を横引きする状態となったことにも気付かないまま曳航を続けて同船が転覆する事態を招き、照福丸の機関に濡れ損を生じさせるに至った。
B受審人は、高知県宿毛湾において、玉龍丸と照福丸との間に曳航索を各舷1本ずつとって曳航作業を開始する場合、A受審人が初めて同作業に当たるのだから、急激に増速したり、全速力にかけたりしないよう、機関使用の打合せを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、B受審人は、A受審人の内航船の経験が長いのであえて打ち合せることもあるまいと思い、機関使用の打合せを十分に行わなかった職務上の過失により、照福丸が玉龍丸に急激に全速力で引かれ、右舷側の曳航索が切断し、横引き状態となって照福丸が転覆する事態を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。