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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 転覆事件一覧 >  事件





平成14年仙審第51号
件名

プレジャーボート神明丸転覆事件(簡易)

事件区分
転覆事件
言渡年月日
平成15年1月30日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(大山繁樹)

副理事官
宮川尚一

受審人
A 職名:神明丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
操舵席の囲い板と風防ガラスを破損、船外機を濡れ損
船長が溺水により入院加療

原因
いそ波の危険性に対する配慮不十分

裁決主文

 本件転覆は、沿岸部のいそ波の危険性に対する配慮が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年7月14日10時00分
 宮城県仙台市長浜海岸沖合

2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート神明丸
全長 7.36メートル
全幅 2.01メートル
全深 0.76メートル
機関の種類 電気点火機関(船外機)
台数 2
出力 36キロワット及び29キロワット

3 事実の経過
 神明丸は、採介藻漁業にも使用されている和船型のプレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、友人2人を同乗させ、魚釣りの目的で、船首0.1メートル船尾0.45メートルの喫水をもって、平成14年7月14日08時05分宮城県宮城郡七ヶ浜町松ヶ浜漁港を発し、09時ごろ同県仙台市長浜海岸沖合の釣り場に到着し、釣りを開始した。
 ところで、長浜海岸は東に面した遠浅の海岸で、サーフィンで賑わうほど大きな波が発生しやすいことから、乾舷が低く波に揉まれやすい本船のような和船型の船は、沿岸部のいそ波の危険性には十分に注意する必要があった。
 また、A受審人も同乗者も、出港時は救命胴衣を着けていたが、釣り場に到着したときに脱ぎ、その後は着用しなかった。
 A受審人は、当初、閖上港導流堤灯台(以下「閖上港灯台」という。)から023度(真方位、以下同じ。)4,400メートルばかりの地点で、海岸線から300メートルばかり沖合に錨泊してイシモチ釣りをしたが、その後、対象をスズキに変更することとし、錨を揚げて海岸線沿いに北へ移動し、09時50分同灯台から024度5,800メートルの地点に至り、機関を中立運転として漂泊し、スズキ釣りの準備に取りかかった。
 釣り場を移動する際、A受審人は、いそ波発生水域を避けて今回も海岸線から300メートルばかり沖合の場所を釣り場に選定したが、漂泊開始後、投錨して圧流を防止するとか時々機関を使用して沖出しするなどの、沿岸部のいそ波の危険性に配慮した措置を講じなかったので、折からの東寄りの風とうねりにより船体が海岸線の方に圧流され、次第にいそ波が発生している水域に接近することとなった。
 A受審人は、やがて自船が、ほぼ北北東を向いたまま海岸線から200メートルばかりのところまで圧流され、周囲の所々に砕け波を認める状況となったが、スズキ釣りの準備に没頭していて、そのことに気付かず、依然としていそ波発生水域を回避する措置を講じなかった。
 10時00分少し前A受審人は、操舵席の左舷側甲板に立って、前部甲板の同乗者が仕掛けを作成する様子を見守っていたとき、右舷船尾方向から来た砕け波によって船体が大きく左舷側に傾斜したことから、バランスを失って海中に転落した。
 神明丸は、その後急速に海岸線に向かって圧流され、船体が大波に揉まれ、海水の打ち込みが激しくなり、10時00分閖上港灯台から022度5,800メートルの地点において、大傾斜して転覆した。
 当時、天候は曇で風力2の東風が吹き、海上には南東からのうねりがあった。
 転覆の結果、友人2人も海中に投げ出されたが、自力で海岸に上がり、船体は砂浜に打ち上げられた際、操舵席の囲い板と風防ガラスを破損し船外機を濡れ損した。A受審人は付近にいたサーファーに救助されたが、溺水により5日間の入院加療を要した。

(原因)
 本件転覆は、宮城県仙台市長浜沖合において、乾舷の低い和船型ボートで漂泊する際、沿岸部のいそ波の危険性に対する配慮が不十分で、風浪に圧流されていそ波発生水域に入り、大波による大傾斜と砕け波の打ち込みにより、復原力を喪失したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、宮城県仙台市長浜沖合において、乾舷の低い和船型ボートで釣りをする場合、いそ波発生水域に入ると大傾斜や砕け波の打ち込みの危険性があったから、同水域に入らないよう、投錨して圧流を防止するとか時々機関を使用して沖出しするなど、沿岸部のいそ波の危険性に十分配慮すべき注意義務があった。しかるに、同人は、投錨せずに漂泊状態のまま仕掛けの付け替えに没頭し、沿岸部のいそ波の危険性に十分配慮しなかった職務上の過失により、風浪に圧流されていそ波発生水域に入り、大波による大傾斜と砕け波の打ち込みにより復原力を喪失し、自船の転覆を招き、同人及び同乗者が海中に投げ出され、自船の操舵席囲い板及び風防ガラスの破損と船外機の濡れ損を生じるに至った。





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