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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 転覆事件一覧 >  事件





平成14年函審第45号
件名

プレジャーボートメグミ転覆事件

事件区分
転覆事件
言渡年月日
平成15年1月27日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(古川隆一、安藤周二、工藤民雄)

理事官
千手末年

受審人
A 職名:メグミ船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
船外機が濡損、船外機の脱落及び船体を損傷、使用不能

原因
排水口の閉鎖措置不十分

主文

 本件転覆は、排水口の閉鎖措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年11月14日08時48分
 北海道桂恋漁港東南東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートメグミ
全長 4.99メートル
2.04メートル
深さ 1.11メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 55キロワット

3 事実の経過
 メグミは、釣りなどのレジャーに使用される船外機付のFRP製プレジャーボートで、船体中央の右舷に操縦席、左舷に座席、左右舷船尾端に25リットルの鉄製燃料容器を収める物入区画(以下「タンク区画」という。)が配置され、タンク区画の蓋から船縁までの高さが20センチメートル(以下「センチ」という。)であった。
 船尾は、船外機を据え付けるため、船体中心線から左右35センチが切り抜かれて船尾端から船首方向60センチ間が低くなったモーターウェルと称する凹状をなし、船底から切り抜かれた船尾上端までの高さが51センチで、また、タンク区画船首側の、船尾端から約75センチ前方の左右舷水面近くに内径3.5センチの排水口がそれぞれ配置されていた。
 排水口は、船内の洗浄水や雨水等を排水するためのもので、ねじの切られたプラグを挿入して閉鎖することになっており、取扱説明書には航行前に必ずプラグの取付け状態を点検するよう記載されていたうえ、開放を禁じる旨のステッカーが貼られていたものの、平素、閉鎖されていなかった。
 メグミは、A受審人が単独で乗り組み、妻と友人2人を乗せ、釣りの目的で、船首0.25メートル船尾0.80メートルの喫水をもって、平成13年11月14日06時30分北海道桂恋漁港を発し、同漁港東南東方5海里の釣り場に向かった。
 ところで、メグミは、水線が排水口下端付近に達し、船体が傾斜した際に海水が同口から浸入する状況になっていた。
 しかし、A受審人は、発航する際、これまで海水が滞留したことはなかったから大丈夫と思い、排水口のプラグを挿入する閉鎖措置をとらなかった。
 A受審人は、07時10分釣り場に至り、シーアンカーを投入して引き索を15メートル延出し、友人を左舷の座席と左舷タンク区画の蓋の上に、妻を右舷の操縦席に配置し、自ら右舷タンク区画の蓋の上に腰を掛けて釣りを始めた。
 その後、メグミは、南東方に流されるたびに潮上りを3回繰り返して釣りを続けているうち釣り糸が絡み、08時21分ごろ友人が左舷タンク区画から右舷船尾に移動してA受審人とともに絡みを解き始めたところ、船体が右舷側に傾斜して排水口が水面下に没し、海水が浸入して船内に滞留するようになった。
 A受審人は、08時36分モーターウェルから右舷タンク区画の上に波が入り始めたので、危険を感じてシーアンカーを揚収し、同時38分昆布森灯台から148度(真方位、以下同じ。)4.8海里の地点を発進し、風上の西方に向け、船外機を微速力前進にかけ、5.4ノットの対地速力で右舷に傾斜した状態のまま航走中、浸水量が増加して操縦席下まで滞留し、同時43分昆布森灯台から153度4.5海里付近で、船外機を停止した。
 こうして、メグミは、右舷船尾が沈み船首が浮き上がった状態で右舷側に更に傾斜し、折からの風と波で船首が右方に振れ、高まった2メートルの波を左舷方から受け右舷側に大傾斜して復原力を喪失し、08時48分昆布森灯台から153度4.5海里の地点において、右舷側に転覆した。
 当時、天候は晴で風力5の西北西風が吹き、潮候は上げ潮の初期にあたり、波高は2メートルであった。
 その結果、メグミは、船外機が濡損し、防水携帯電話で消防署に通報した後、出動した海上保安部の巡視艇により船底につかまっていた全員が救助され、釧路港に曳航されて引き揚げられた際に船外機の脱落及び船体の損傷を生じて使用不能になった。

(原因)
 本件転覆は、北海道桂恋漁港を魚釣りの目的で発航する際、排水口の閉鎖措置が不十分で、同漁港東南東方沖合で漂泊中、乗船者の移動により同口が水面下に没して海水が船内に浸入し、高まった波を受け大傾斜して復原力を喪失したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、桂恋漁港を魚釣りの目的で発航する場合、水線が排水口下端付近に達していたから、海水が浸入しないよう、排水口のプラグを挿入する閉鎖措置をとるべき注意義務があった。ところが、同人は、これまで海水が滞留したことはなかったから大丈夫と思い、排水口のプラグを挿入する閉鎖措置をとらなかった職務上の過失により、同漁港東南東方沖合で漂泊中、乗船者の移動により同口が水面下に没して海水が船内に浸入し、高まった波を受け大傾斜して復原力を喪失し転覆する事態を招き、船外機の濡損を生じさせ、曳航されて引き揚げられた際に船外機の脱落及び船体の損傷を生じて使用不能となるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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