(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年4月25日19時40分
長崎県平戸瀬戸
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船ダイヤ丸 |
総トン数 |
698トン |
全長 |
60.20メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,029キロワット |
3 事実の経過
ダイヤ丸は、船尾船橋型の液化アンモニアガス運搬船で、A、B両受審人ほか5人が乗り組み、揚荷を終え、船首2.0メートル船尾4.0メートルの喫水をもって、平成14年4月25日12時30分熊本県天草郡苓北町所在の九州電力株式会社苓北発電所専用岸壁を発し、平戸瀬戸を経由することとして岡山県水島港に向かった。
ところで、A受審人は、船橋当直を自らが08時から12時、20時から24時、甲板長が00時から04時、12時から16時そしてB受審人が04時から08時、16時から20時の4時間3交替とし、当直以外に狭水道通過時や狭視界時などでは、自らが操船の指揮に当たっており、狭水道通過時には当直者を手動操舵に、機関部当直者を主機の遠隔操作の任に就けていた。
A受審人は、平戸瀬戸通過経験を10回ばかり有し、同瀬戸西水道では北流時に北東風により潮波が立ちやすいことから、平戸瀬戸に入航したときの状況により西水道と東水道とのいずれを通航するか決めることとしていた。
15時50分ごろB受審人は、長崎県大蟇島南方4.3海里ばかりの地点で昇橋し、16時00分船橋当直を引き継ぎ、これまで平戸瀬戸通過経験を10回ばかり有してダイヤ丸と同じくらいの船で西水道を通航しており、A受審人から予定進路についての指示を受けておらず、ダイヤ丸の今航海の往航でも西水道を南下してきたことから同水道を通航するものと思い、平戸瀬戸に向けて北上した。
A受審人は、19時20分ごろ平戸島川内湾東方の地点で昇橋し、船橋左舷側前部にあるいすに腰掛けて操船指揮に当たり、同時29分平戸大橋の南方0.7海里ばかりの地点でB受審人が手動操舵に就いたのと、これより先に昇橋していた機関長が主機遠隔操縦盤の後方に立っているのを認め、B受審人が多くの平戸瀬戸通過経験を有していたので、変針点での転舵を令することや転針後の針路の指示などはせず、同人の操舵を見守りながら北上を続けた。
B受審人は、平戸大橋を航過して大田助瀬灯標に並航する前、A受審人に「どこに向けようか。」と尋ねたところ、「黒子島の中央に向けてくれ、中央を通ろうか。」との指示を受けたので、19時34分少し過ぎ同灯標から086度(真方位、以下同じ。)210メートルの地点に達したとき、針路をレーダーで黒子島の中央に向首するところの321度に定め、機関を10ノットの全速力前進にかけ、折からの順潮流に乗じて12.6ノットの対地速力で進行し、その後A受審人の指示がないまま、同時36分少し前南風埼灯台から180度470メートルの地点から右転を始め、同時37分南風埼灯台から270度180メートルの地点で002度の針路として続航した。
A受審人は、19時38分少し過ぎ平戸瀬戸牛ヶ首灯台(以下「牛ヶ首灯台」という。)と鴨瀬灯浮標を重視する広瀬灯台から199度720メートルの地点に達したとき、東水道に反航船を認めなかったので、折からの北東風の影響を避けるため、同水道を航行することとしたが、普通の口調で右転を指示してもその意図が伝達できるものと思い、大きな声で舵角を指示するなどの明確な操舵号令を行わず、B受審人に前方を向いたまま普通の口調で「東水道を通ろうか。」と右転の指示をしたので、同人に聞き取られず、同時39分少し前同様の口調で「もっと右にせんか。」と更に右転を指示したものの、依然同人に聞き取られずに直進して転針の時機を失したまま進行中、同時39分半広瀬灯台から220度350メートルの地点であわてて同人に向き、大きな声で「右一杯。」と令し、それを聞いたB受審人が右舵一杯として回頭中、19時40分広瀬灯台から227度150メートルの地点において、原速力のまま、船首が085度に向いて広瀬導流堤南角の基部に乗り揚げた。
当時、天候は曇で風力4の北東風が吹き、潮候はほぼ高潮時で、付近には2.6ノットの北東流があった。
乗揚の結果、左舷中央部船底外板に破口を伴う凹損を生じたが、自力で離礁し、のち修理され、破口から流出した燃料油が平戸瀬戸及びその南方海域に浮遊して海岸に漂着したが、のち除去された。
(原因)
本件乗揚は、夜間、平戸瀬戸を順潮流で北航中、操舵号令が不明確で、転針時機を失したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、平戸瀬戸をB受審人に操舵に当たらせて順潮流で北航中、転針して東水道に向かう場合、同人に操舵号令が伝達できるよう、明確な操舵号令を行うべき注意義務があった。しかしながら、A受審人は、普通の口調で転針を指示しても操舵号令が伝達できるものと思い、舵角を指示するなどの明確な操舵号令を行わなかった職務上の過失により、操舵号令がB受審人に伝達できず、転舵時機を失して広瀬導流堤南角部に著しく接近し、同角基部に乗り揚げ、左舷中央部船底外板に破口等の損傷を生じさせ、燃料油を流出させて付近海域を汚染させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して、同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
B受審人の所為は本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。