日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成14年広審第136号
件名

貨物船進宝丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成15年3月20日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(西田克史、勝又三郎、佐野映一)

理事官
雲林院信行

受審人
A 職名:進宝丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(履歴限定)

損害
船底外板に破口及び亀裂

原因
居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年8月16日03時30分
 香川県粟島北岸

2 船舶の要目
船種船名 貨物船進宝丸
総トン数 199トン
全長 57.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット

3 事実の経過
 進宝丸は、関東から九州一円にかけて肥料や飼料の輸送に従事する船尾船橋型貨物船で、A受審人と父親の2人が乗り組み、空倉のまま、船首1.2メートル船尾2.9メートルの喫水をもって、平成14年8月16日01時05分愛媛県伯方島の有津港を発し、兵庫県神戸港に向かった。
 ところで、進宝丸は、A受審人が同年7月から初めて船長職を執るようになり、それまで長年に渡り父親が船長として乗り組んでいたものであった。
 そして、今回の出航に遡り、A受審人は、同月13日前航海を終え帰港して近くの自宅に戻り、翌14日車を運転して友人とともに広島県に出かけ、翌々15日にかけて終日遊びに興じその夜帰宅し、1ないし2時間寝ただけで出航することになったもので、この程度の休息では連日の遊び疲れや睡眠不足が解消されるまでに至らず、実際に16日夜半過ぎの出航時にはかなりの疲労感を覚えていた。ところが、同人は、単独5時間2交替の船橋当直体制を採り、出航直後の当直には自身があたる予定となっていて、疲労を抱えたまま入直すれば、不測の居眠りなどから運航の安全がおびやかされるおそれがあったのに、父親と入直順序を代わるなどして居眠り運航の防止措置をとることなく、予定の船橋当直を務めようとして出航したものであった。
 こうして、A受審人は、父親が出航操船を終えたところで船橋当直に就き、間もなく備後灘に入って備後灘航路第3号灯浮標(以下、灯浮標の「備後灘航路」の冠名を省略する。)南側に至り、01時55分高井神島灯台から320度(真方位、以下同じ。)1,400メートルの地点で、針路を075度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、12.0ノットの対地速力で進行した。
 定針後、A受審人は、舵輪後方に置かれたいすに腰を掛けて見張りにあたっていたところ、眠気を覚えるようになり、ときどきいすから立ち上がったりして眠気の払拭に努めていたものの、02時40分第5号灯浮標を左舷側近距離に航過したあたりで強い睡魔に襲われ、やがて居眠りに陥り、第7号灯浮標付近から備讃瀬戸南航路に向かう予定の転針が行われず、香川県粟島に向かって著しく接近していることに気付かないまま続航中、03時30分二面島灯台から172度1,700メートルの地点において、進宝丸は、原針路、原速力のまま粟島北岸に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風はなく、潮候は上げ潮の末期で、潮流はほぼ憩流時であった。
 乗揚の結果、船底外板に破口及び亀裂を生じたが、海水バラストを捨てて自力離礁し、のちドックに回航のうえ修理された。


(原因)
 本件乗揚は、夜間、愛媛県有津港を出航するにあたり、居眠り運航の防止措置が不十分で、香川県粟島北岸に向首したまま進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、父親と2人で乗り組み、単独5時間2交替の船橋当直体制により愛媛県有津港を出航するにあたり、連日の遊び疲れや睡眠不足からかなりの疲労感を覚えていた場合、出航直後の船橋当直中に居眠り運航に陥らないよう、父親と入直順序を代わるなどして居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、予定の船橋当直を務めようとして疲労を抱えたまま入直し、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、備後灘を東行中に居眠りに陥り、香川県粟島に向首したまま進行して同島北岸への乗揚を招き、船底外板に破口及び亀裂を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION