(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年6月21日20時30分
瀬戸内海 来島海峡西口
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船幸正丸 |
総トン数 |
4.9トン |
登録長 |
11.40メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
161キロワット |
3 事実の経過
幸正丸は、釣り船用として買い替え購入したFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、購入先からの回航の目的で、船首0.4メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成14年6月21日04時00分長崎県福江港を発し、香川県高松港に向かった。
ところで、A受審人は、船員として30年前に2年間ほど底引き網漁船に乗り組んだことがあるだけで、その後地元高松で電気店などに勤めるようになり、7年ばかり前からレジャ−に中古の小型漁船を購入して休日に高松港沖で釣りを楽しみ、この度故郷福江で購入して自ら乗り組んで回航することになった。しかし回航するにあたって、釣りを行う程度の運航経験しかなく、また備付けられたレーダーの使用も心得のない状態であったので、来島海峡など狭い水域を明るいうちに通航することができるよう、購入先から本船の航海速力が約17ノットであることを受けて途中での風潮流などの影響を考慮して未明に出航した。
A受審人は、応援要員である甲板員と適宜船橋当直を交替しながら一路高松港に向かい、正午過ぎ関門海峡を経て周防灘を東行した。しかし釣島水道通航時には日が暮れかけ菊間港沖合に達したころには同港の石油基地の多数の明るい灯火を見るようになり、予定から大幅に遅れる状況になった。
ところが、A受審人は、夜間でも来島海峡を航路ブイによって四国寄りに通航することができると思い、特に航行難所である同海峡の夜間通航を避けるよう、安芸灘南部菊間港沖などの広い水域で仮泊して夜明けを待つなどしてその通航時期を適切に調整することなく、そのまま夜間通航を試みようとして安芸灘南東部を東行し続けた。
こうして、20時17分半A受審人は、来島梶取鼻灯台から269度(真方位、以下同じ。)1.1海里の地点にあたる安芸灘南航路第4号灯浮標を左舷側至近に並航したところで、右前方に視認した来島海峡航路第2号灯浮標である航路ブイを頼りに四国寄りに航行するつもりで、針路を同ブイに向く050度に定め、機関を全速力前進にかけたまま17.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。まもなく左舷前方から来航するクレ−ン船らしき西に向かう船の進路から離れようとして、同時23分同灯台から008度1.0海里の地点で、針路を076度に転じたところ、桴磯付近の険礁域に向かう状況となった。やがて船首少し左に認めるようになった桴磯灯標が予定の航路ブイか否か疑問を感じ更に右前方に大角鼻である陸地を間近に認め、そのまま航行を続けることに不安を感じたものの、速やかに反転していったん引き返すなり或いは行きあし止めるなどして、最寄りの広い泊地に投錨仮泊するなどの臨機の措置を適切にとることなく、海図を調べながら続航し、20時30分桴磯灯標から198度280メートルにあたる桴磯に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の初期で、来島海峡は南流の初期であった。
乗揚の結果、幸正丸は、推進器脱落及び舵柱曲損を伴った船底外板前面に凹損を伴う損傷を生じたが、タグボートの来援を得て離礁し目的地まで曳航され、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、夜間、来島海峡西口において、初めての来島海峡通航の時期及び臨機の措置のいずれもが不適切で、桴磯の険礁域に向いたまま進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、来島海峡西口において、釣り船用に購入し関門海峡を経て瀬戸内海を東行する進路で回航の際、初めての来島海峡を通航する場合、地元高松港沖合で休日などに釣りを行う程度の運航経験しかなく、また備付けられたレーダーの使用も心得のない状態であったので来島海峡など狭い水域を明るいうちに通航することができるよう発航したものの、途中での風潮流の影響で釣島水道を通航したときには日も暮れかかっていたから、特に航行難所である来島海峡の夜間通航を避けるよう、安芸灘南部菊間港沖などの広い水域で仮泊して夜明けを待つなどしてその通航時期を適切に調整すべき注意義務があった。しかし、同人は、夜間でも航路ブイを頼りに四国寄りに通航することができると思い、広い水域で仮泊して夜明けを待つなどして同通航時期を適切に調整しなかった職務上の過失により、そのまま夜間通航を試み、さらに同海峡西口付近で前方に視認した航路標識が予定の航路ブイか否か疑問を抱きそのまま航行を続けることに不安を感じながら、速やかに反転して仮泊するなどの臨機の措置を適切にとらないまま進行して、桴磯への乗揚を招き、推進器脱落及び舵柱曲損を伴った船底外板に損傷を生じさせるに至った。