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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成14年横審第134号
件名

プレジャーボートマスタークラフト乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成15年3月14日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(黒岩 貢)

理事官
松浦数雄

受審人
A 職名:マスタークラフト船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
推進器軸及び同翼並びに船底外板損傷、浸水、のち廃船
船長が歯牙破折

原因
法定灯火不装備、水路調査不十分

裁決主文

 本件乗揚は、夜間、法定灯火を装備せずに発航したうえ、水路調査が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年8月25日20時10分
 三重県四日市港沖合

2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートマスタークラフト
登録長 5.64メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 180キロワット

3 事実の経過
 マスタークラフト(以下「マ号」という。)は、FRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、友人4人を乗せ、花火見物の目的で、船首0.6メートル船尾0.8メートルの喫水をもって、平成14年8月25日18時45分両色灯を掲げ、三重県桑名郡長島町の長良川(ながらがわ)左岸の係留地を発し、同県揖斐川(いびがわ)河口を経て四日市港第3区の霞ヶ浦北ふ頭沖合に向かった。
 ところで、マ号は、船首端に両色灯を装備していたものの、他の法定灯火を装備していなかったため、船舶検査証書中の航行上の条件で、日没から日出までの航行を禁止されていた。
 A受審人は、同13年4月にマ号を購入して以来、船舶検査証書を確認したことがなかったため、前示航行上の条件に気付かず、花火見物を思い立った際も、両色灯を掲げているから夜間も航行できるものと思い、日没を14分ほど過ぎていたにもかかわらず、発航を中止することなく、他の法定灯火を掲げないまま発航した。
 さらに、A受審人は、マ号購入以来、前示係留地から3,000メートル上流の長良川大橋周辺水域を10回程度航行しただけで操船技術が未熟であったうえ、夜間の航行経験がなく、四日市港周辺海域の水路事情に乏しかったにもかかわらず、発航前、同港周辺海域の水路調査を十分に行っていなかったので、揖斐川河口右岸から南南東方に3キロメートルばかり延びる揖斐川導流堤(以下「導流堤」という。)があることも、同堤が高潮時に水面下に隠れることも知らなかった。
 一方、導流堤には、北端に桑名港灯台が、南端に揖斐川口灯台がそれぞれ設置され、北端から950メートル南側に設けられた幅46メートルの船舶通航用切通しの北側導流堤上に、光達距離6.3キロメートル4秒1閃光の緑灯を備えた高さ4メートルの城南導流堤(左舷)標識灯(以下「標識灯」という。)が、同切通しの南側導流堤上に高さ2.5メートルの灯火設備のないオレンジ色の標識柱がそれぞれ設置されていた。また、同種の標識柱は、導流堤南端から450メートル北側に設けられた幅24メートルの船舶通航用切通し両側のほか、導流堤上の十数箇所に設置されていた。
 そして、当日は大潮で、午後の満潮時刻19時41分の前後数十分にわたり、導流堤が水面下に隠れる状況となったが、標識灯は十分に視認することが可能であった。
 19時10分ごろA受審人は、揖斐川河口に至ったとき、導流堤は水面下に隠れていたが、標識灯の灯光を認め、それが船舶通航用切通しの位置を示すものと分からないまま、同灯光を右舷至近に見て四日市港に向けたため、たまたま同切通しを無難に通過して南西進し、同時20分四日市港第3区にある中部電力川越(かわごえ)火力発電所LNG受入桟橋(以下「LNG桟橋」という。)の約1,000メートル西方の地点に至って漂泊し、花火見物をしたのち、20時00分同地点を発進して帰途に就いた。
 20時04分わずか過ぎA受審人は、桑名港灯台から208度(真方位、以下同じ。)2,570メートルのLNG桟橋橋梁下に達したとき、針路を055度に定め、機関を微速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力とし、操舵席に座って風防ガラス越しに見張りを行い、往航時通過した標識灯の灯光を左舷船首方に認めながら手動操舵により進行したところ、水面下に隠れた導流堤に向首するようになった。
 A受審人は、このことに気付かないで続航中、20時10分マ号は、桑名港灯台から165度1,260メートルの地点において、原針路、原速力のまま導流堤に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候はほぼ高潮時で、日没時刻は18時31分であった。
 乗揚の結果、推進器軸及び同翼並びに船底外板にそれぞれ損傷を生じたほか、浸水により機関に濡損を生じ、のち廃船とされた。また、A受審人が、歯牙破折を負った。

(原因)
 本件乗揚は、夜間、三重県桑名郡長島町の長良川沿いの係留地において、法定灯火を装備せずに発航したうえ、発航前の水路調査が不十分で、満潮で水面下に隠れた導流堤に向け進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、三重県桑名郡長島町の長良川沿いの係留地から花火見物のため四日市港に向かおうとした場合、法定灯火を装備していなかったから、発航を中止すべき注意義務があった。しかるに、同人は、両色灯を掲げているから夜間も航行できるものと思い、発航を中止しなかった職務上の過失により、法定灯火を掲げないまま航行し、さらに、発航前の水路調査が不十分で、満潮で水面下に隠れた導流堤に向け進行して同堤への乗揚を招き、推進器軸等に損傷を生じさせ、自らも歯牙破折を負うに至った。





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