(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年8月10日17時05分
長崎県野崎漁港
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボートヤマト |
総トン数 |
12トン |
全長 |
11.17メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
35キロワット |
3 事実の経過
ヤマトは、双胴型で左右各艇体に推進器を装備した、FRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、同人及びその友人の家族計6人を乗せ、クルージングの目的で、船首0.40メートル船尾1.45メートルの喫水をもって、平成14年8月10日08時15分長崎県佐世保市のハウステンボス内のマリーナを発し、五島列島宇久島の同県平漁港に向かった。
A受審人は、順調な帆走でクルージングを楽しみ、平戸島南部の志々伎埼沖合に達したとき、時間に余裕ができたので同県野崎島の野崎漁港に寄港することとし、同島の篭ノ鼻に向かった。
ところで、野崎漁港は、野崎島東岸中央部に位置して、南方に開いた湾内に港域を有し、港奥にある南方に開いた入江の東、西各端からそれぞれ西方に105メートル、東方に95メートル伸びる防波堤が設置され、港域の南東端にあたる篭ノ鼻から北西方に約250メートル延びる海岸線の南西方沖合に約100メートルから150メートルの間浅瀬が拡延して岩礁が存在していた。また、ヤマトは、艇体の水面上高さが1.6メートル、水面下の深さが0.5メートルで、艇底の中央部に深さ0.4メートル、長さ3.0メートルのキールを有するものの、艇体上中央部から後方には高さ1.2メートルの船室及び操舵席を有し、水面上の構造物が大きく風による圧流の影響を受け易かった。
13時15分ごろA受審人は、篭ノ鼻の西南西方1.3海里ばかりのところで機走に切り替え、手動で操船に当たり、その後同鼻南方を替わったところで、山立てなど周囲を見ながら防波堤間の入口に向けて北西方に進み、初めて入航する港であったことから、艇首に見張員を配置し、浅瀬に注意しながら微速力で入航して同時30分着岸した。
A受審人は、17時00分離岸し、コックピットに立って手動で操船に当たり、防波堤間の入口に向かい、同時04分野崎島350メートル頂(以下「御山」という。)から140度(真方位、以下同じ。)2,100メートルの地点で、篭ノ鼻南方沖合に向かうこととし、このとき、海面が入航時より0.8メートルばかり低くなっており、左舷方の海岸を十分に離す南方への針路をとるべき状況であったが、入航時の針路を逆に出て行けば支障なく出航できると思い、針路を135度に定め、機関を微速力前進にかけ、折からの南西風により左方に2度圧流され、133度の進路、4.0ノットの対地速力で進行中、17時05分御山から139度2,230メートルの地点において、原針路、原速力のまま、左舷側艇体のキールが浅瀬内の岩礁に乗り揚げた。
当時、天候は曇で風力4の南西風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
乗揚の結果、左舷側艇体のキールが剥離・脱落し、艇体に破口を生じて浸水し、その後の動揺等により、右舷側艇体の推進器が突き上げられて艇底部が破損した。
(原因)
本件乗揚は、長崎県野崎漁港において、針路の選定が不適切で、浅瀬内の岩礁に向かって進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、長崎県野崎漁港を出航する場合、初めて寄港した港で、入航時右舷方に浅瀬が拡延していることを知ったのであるから、これらの浅瀬を避けることができるよう、左舷方の海岸を十分に離す南方への針路とするなど、針路の選定を適切に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、入航時の針路を逆に出て行けば支障なく出航できると思い、針路の選定を適切に行わなかった職務上の過失により、左舷方に拡延する浅瀬内の岩礁に向かって進行して乗揚を招き、左舷側艇体のキールが剥離・脱落したうえ艇体に破口を生じさせ、右舷側艇体の推進器が突き上げられたことによる艇底部の破損を生じさせるに至った。