(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年4月21日15時00分
壱岐水道馬渡島
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船若房丸 |
総トン数 |
14.67トン |
全長 |
14.90メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
160 |
3 事実の経過
若房丸は、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、船首0.4メートル船尾1.7メートルの喫水をもって、操業の目的で、平成14年4月17日夕方長崎県美津島漁港を発し、同県厳原港沖漁場に向かった。
A受審人は、17時ころ漁場に至って操業を行ったが、漁獲が思わしくなく、翌朝操業を打ち切って漂泊して仮眠し、18日12時00分同漁場を発し、宇久島沖に移動して操業を行い、19日06時00分同漁場を発し、同島周辺で漁を行う際の基地である長崎県生月町館浦漁港に向かった。
A受審人は、07時00分館浦漁港に入航して水揚げを行い、5時間ばかり睡眠をとって15時00分同漁港を発し、宇久島沖で翌朝まで操業し、20日05時00分パラシュートアンカーを投入して漂泊したところ、08時ころ錨泊中の漁船に接近していることに気付いたので同アンカーを揚収して避航し、再び漂泊して仮眠することとしたが寝つかれなかったことから、13時00分同漁場を発してゆっくり移動し、17時00分的山大島沖に至って操業を行い、21日05時30分操業を終えて帰途につき、07時00分館浦漁港に入航した。
A受審人は、水揚げした後睡眠をとらないで知人から漁獲の情報収集を行い、同日午後に出航することとしたが、この2日間ほとんど睡眠をとっていなかったため疲れや眠気を感じており、発航を取り止めるなど居眠り運航の防止措置をとるべき状況であったところ、発航した後に眠気が強くなれば漂泊して仮眠すればよいと思い、12時30分館浦漁港を発し、壱岐島西方漁場に向かった。
A受審人は、12時35分生月港館浦新北防波堤灯台から090度(真方位、以下同じ。)40メートルの地点において、針路を014度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、9.7ノットの対地速力で、座椅子に座って進行中、次第に強い眠気を覚えるようになり、13時35分馬ノ頭鼻灯台から341度2.5海里の地点に達したとき、潮流が余り速くない的山大島北方で漂泊して仮眠する予定で自動操舵のまま077度に転針した後、いつしか居眠りに陥り、若房丸は、15時00分肥前馬渡島灯台から276度820メートルの馬渡島南西岸に、原針路、原速力のまま乗り揚げた。
当時、天候は曇で風はなく、潮候は上げ潮の末期であった。
乗揚の結果、船底に亀裂などを生じ、15時30分付近にいた遊漁船により引き降ろされ、船内を点検して浸水がなかったところから美津島漁港に向けて帰港中、亀裂が広がって浸水し、若房丸は17時30分壱岐島西方で沈没したが、A受審人は漁船に救助された。
(原因)
本件乗揚は、発航を取り止めるなど居眠り運航の防止措置が不十分で、馬渡島に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、2日間ほとんど睡眠をとらない状態で長崎県館浦漁港を発航して漁場に向かうこととした場合、すでに眠気や疲れを感じていたのであるから、発航を取り止めるなど居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、発航した後眠気が強くなれば漂泊して仮眠すればよいと思い、発航を取り止めるなど居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、航行中、居眠りに陥り、馬渡島に向首したまま進行して乗揚を招き、船底に亀裂などを生じさせ、離礁して帰航中に沈没させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、 海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。