(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年4月6日03時00分
九州西岸
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第三十八金比羅丸 |
総トン数 |
18トン |
登録長 |
18.98メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
150 |
3 事実の経過
第三十八金比羅丸は、5隻で船団を編成する大中型まき網漁業に灯船として従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、平成14年3月31日昼前大分県鶴見町吹浦漁港を発し、漁場に向かった。
ところでA受審人は、種子島から甑島列島に至る九州南西方海域を主たる漁場とし、吹浦漁港を出航したのちは漁場近くの港を基地として夕刻に出漁してから操業を繰り返して行い、翌朝近くの漁港で漁獲物を水揚げし、休息と食事をとり、夕刻に出航するかたちでほぼ1箇月単位で稼働し、満月の前後5日ばかりは陸路で鶴見町に帰宅し、休息していた。
A受審人は、出航後豊後水道を南下し、翌4月1日朝方鹿児島県枕崎港に至り、同日夕方から操業を開始し、甑海峡を北上しながら操業を続け、同月5日06時ころ同県串木野港に至って水揚げを終え、朝食をとったのち休息して午後起床し、17時00分船首0.2メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、同港を出航した。
A受審人は、出航後甑海峡、甑島列島西方海域で集魚を行ったところ魚の集まりが悪かったことから、探索を行いながら北方に移動を続け、翌6日02時ころ上甑島北東10海里ばかりに達したものの、魚群を探知できなかったので、阿久根港付近に向かうこととし、02時25分阿久根港倉津埼灯台から268度(真方位、以下同じ。)7.2海里の地点で、針路を090度に定めて自動操舵とし、機関を半速力前進にかけ、13.0ノットの対地速力で進行した。
A受審人は、発航してからいすに腰を掛けて魚群探知器の監視を続けていたが、今回も連日の操業でいくぶん疲労気味であり、いすに長時間座っていると居眠りに陥るおそれがあったから、随時いすから立ち上がって移動したり、外気に当たったりするなど居眠り運航の防止措置をとるべき状況にあった。ところが、これまでいすに腰を掛けて探索中に眠気を覚えたときは外気に当たるなどしていたものの、たまたま眠気を感じていなかったことから大丈夫と思い、居眠り運航の防止措置をとることなく、空調の効いた操舵室でいすに腰を掛けたまま魚群探知器を監視しながら続航した。
A受審人は、魚群を探知できないまま東行を続け、02時50分距岸4キロメートルの操業禁止区域付近に近づいたころ、そろそろ転針しようと思いつつ、いつしか居眠りに陥り、第三十八金比羅丸は、03時00分阿久根港倉津埼灯台から172度1.2海里の阿久根市佐潟海岸の浅瀬に乗り揚げた。
当時、天候は曇で風力4の南風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
乗揚の結果、竜骨中央部に破口、舵及び推進器翼に曲損、ソナーに損傷を生じたが、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、夜間、鹿児島県甑海峡周辺でまき網漁業の魚群探索中、居眠り運航の防止措置が不十分で、九州西岸に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、連夜、まき網漁業に従事し、いくぶん疲れ気味の状態で長時間にわたって魚群を探索する場合、いすに腰をかけたままでいると居眠りに陥るおそれがあったから、随時いすから離れ、外気に当たるなど居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、眠気を覚えなかったことから、いすに腰を掛けたまま魚群探知器の監視を続け、外気に当たるなど居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥り、乗揚を招き、船底に破口などの損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。