(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年5月7日03時30分
長崎県五島列島白瀬
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船政漁丸 |
総トン数 |
4.9トン |
全長 |
13.79メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
264キロワット |
3 事実の経過
政漁丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、所用のために長崎県下県郡厳原町に帰る目的で、船首0.3メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成14年5月7日02時15分長崎県相ノ浦港を発し、同県阿連漁港に向かった。
ところで、A受審人は、同年2月から同県荒川漁港を基地として男女群島周辺海域で操業しており、時折厳原町に帰っていたが、今回は、相ノ浦港の友人に会うこととし、前日6日に同港に入港していたもので、相ノ浦港からの帰港は初めてであったが、GPSプロッター(以下「プロッター」という。)に、荒川漁港から白瀬の西方1.2海里ばかりのところを通過して阿連漁港へ北北東進する航跡を記憶させており、これまでの荒川、阿連両港間の往復などで白瀬の近くを航過して同瀬を視認し、その存在を知っていたことから、同瀬付近で前示航跡に乗る予定で北上した。
発航後A受審人は、操舵室のいすに腰掛けて操船に当たり、低速力で相ノ浦湾を抜け、02時35分有福島灯台から223度(真方位、以下同じ。)2.5海里の地点で、針路を345度に定めて自動操舵とし、機関を毎分回転数2,000にかけ、20.0ノットの対地速力で進行した。
A受審人は、霧のため視界がやや狭められた状況で、プロッターや3海里レンジとしたレーダーを見ながら続航し、03時12分白瀬灯台から165度6.0海里の地点に達したころ、出航してから1時間ばかり船位を求めておらず、霧に加えて雨が降り始めてレーダー画面が幾分白くなっており、船舶や地物の映像を判別できないおそれがあったから、レーダーレンジの切り替え、プロッターの記憶航跡との相対関係、または白瀬灯台の探索などをして適宜船位を確認すべき状況であった。
A受審人は、船位の確認を行わないまま続航し、03時25分白瀬灯台から165度1.7海里の地点に達したとき、プロッターの記憶航跡まで2海里余りあったから、まだ転針まで時間があると思って前方の見張りを行わなかったので白瀬灯台の灯火にも気付かないまま続航中、03時30分白瀬灯台東側直下の岩礁に原針路、原速力のまま乗り揚げ、擦過した。
当時、天候は霧雨で風力4の南風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
乗揚の結果、船底外板に破口、推進器翼及び舵に曲損並びに機関及び発電機に濡れ損がそれぞれ生じたが、のち修理され、自身が前頭部に裂傷を負った。
(原因)
本件乗揚は、夜間、五島列島西方沖合を北上中、船位の確認が不十分で、白瀬に向け進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、五島列島西方沖合を北上する場合、初めて航行する海域であったから、適宜船位を確認すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、船位の確認を行わなかった職務上の過失により、白瀬に向首していることに気付かず進行して白瀬への乗揚を招き、船底外板に破口、推進器翼及び舵に曲損並びに機関及び発電機に濡れ損をそれぞれ生じさせ、自身が前頭部に裂傷を負うに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。