(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年4月11日16時22分
沖縄県竹富島ヨン埼南東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
旅客船第三十八あんえい号 |
総トン数 |
19トン |
全長 |
25.55メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,403キロワット |
3 事実の経過
第三十八あんえい号(以下「あんえい号」という。)は、沖縄県石垣港を基地として同県八重山列島諸港間の旅客輸送に従事する3基3軸の軽合金製旅客船で、A受審人ほか1人が乗り組み、旅客20人を乗せ、船首0.5メートル船尾0.8メートルの喫水をもって、平成14年4月11日16時10分石垣港を発し、西表島南東岸の仲間港に向かった。
ところで、石垣港の西方約3海里のところに竹富島が、その西南西方約11海里のところには仲間港があり、付近一帯はさんご礁海域となっており、同海域内の狭い水路の要所要所には赤色や緑色の海面上高さ4.5ないし5.3メートルの灯標や立標が設けられていた。
A受審人は、平素石垣港を発航して仲間港に向かう際、竹富島東方灯標(以下、灯標の名称については「竹富島」の冠称を省略する。)を船首目標として南西進し、東方灯標を右舷側に見たあと南西方の南水路第1号灯標と同第2号灯標間に向けて全長約2,500メートルの竹富島南水路入口に達し、その後目視により浅礁を確認しながら進行していた。そして、竹富島南東岸ヨン埼の東南東方約500メートルのところから南西方に約500メートルの南水路第4号灯標に至るまでの干出さんご礁で挟まれた可航幅約70メートルの、竹富島南水路のうちで最も狭い水路を通航し、南水路第5号灯標及び同第6号灯標間の同南水路出口から同島南岸付近の大原航路第2号立標に向け、その後灯標や立標を船首目標として順次たどって大原航路(通称)を西行して目的地に至るもので、A受審人はこれら航路の状況について十分に承知していた。
発航後、A受審人は、甲板員を操舵室での見張りに就け、自ら同室前部中央で手動操舵に当たり、機関を4.5ノットの極微速力前進にかけ、その後徐々に増速しながら港内を西行し、石垣港西防波堤先端を右舷側約90メートルに替わったところで、機関を全速力として35.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、東方灯標に向けて南西進した。
16時20分半A受審人は、東方灯標から090度100メートルの地点に達したとき、針路を南水路第4号灯標に向首する239度(真方位、以下同じ。)に定め、同一速力で続航した。
16時21分わずか過ぎA受審人は、南水路第2号灯標の南東方60メートルの地点で、右舷船首方約400メートルのところと、更にその前方に、速力の遅い同航中の2隻の小型漁船を認め、このまま進行すると、南水路第4号灯標の手前約500メートルの狭い水路入口付近で同漁船を追い越す状況となった。そして、これらが急に左転するなどしたとき同入口付近で大幅な動作をとらなければならず、浅礁に乗り揚げるおそれがあった。しかし、このまま同漁船を無難に追い越すことができるものと思い、速やかに大幅に減速して追い越しを中止することなく、同じ針路、速力のまま続航した。
16時21分半わずか過ぎA受審人は、右舷側約50メートル隔てて小型漁船を追い越し、その約200メートル前方を先航するもう1隻の小型漁船も追い越す態勢で進行したところ、同時22分少し前右舷前方間近の同船が左転し始め、自船の前路に向け接近する状況となったので、同船を避けようと、急いで2基の機関を中立とするとともに1基の機関を半速力に減じ、左舵一杯をとって回頭中、16時22分南水路第4号灯標から066度340メートルの地点において、あんえい号は、船首が149度を向いて約20ノットの速力となったとき、竹富島ヨン埼南東方沖合の浅礁に乗り揚げた。
当時、天候は曇で風力1の北風が吹き、視界は良好で、潮候は上げ潮の中央期であった。
乗揚の結果、3個の推進器翼、同軸及び左舵に曲損等を生じたが、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、沖縄県竹富島ヨン埼南東方沖合において、干出さんご礁で挟まれた狭い水路に向かって航行中、同水路入口付近で速力の遅い同航中の小型漁船を追い越す状況となった際、速やかに大幅に減速して追い越しを中止せず、同船が左転したため、これを避けようと、左転して浅礁に向かって進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、沖縄県竹富島ヨン埼南東方沖合において、干出さんご礁で挟まれた狭い水路に向かって航行中、同水路入口付近で速力の遅い同航中の小型漁船を追い越す状況となった場合、同船が急に左転するなどしたとき同水路入口付近で大幅な動作をとらなければならず、浅礁に乗り揚げるおそれがあったから、速やかに大幅に減速して追い越しを中止すべき注意義務があった。しかるに、同人は、このまま同船を無難に追い越すことができるものと思い、速やかに大幅に減速して追い越しを中止しなかった職務上の過失により、右舷前方間近の小型漁船が左転し始め、自船の前路に向け接近する状況となったので、これを避けようと、左転して浅礁に向かって進行して乗揚を招き、3個の推進器翼、同軸及び左舵に曲損等を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって、主文のとおり裁決する。