(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年8月4日12時10分
北海道厚岸湾
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船美千丸 |
総トン数 |
9.1トン |
全長 |
17.55メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
470キロワット |
3 事実の経過
美千丸は、さんま流し網漁業、いか一本釣り漁業及びたら延縄漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか3人が乗り組み、さんま流し網漁の目的で、船首0.5メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成14年8月2日02時00分北海道厚岸港を発し、同港南方沖合の漁場に向かった。
A受審人は、04時30分ごろ厚岸港南方20海里付近の漁場に到着した後、漁場を移動しながら操業を行い、さんま約1トンを漁獲し、翌々4日09時00分厚岸灯台から190度(真方位、以下同じ。)26.0海里の地点を発進して帰航の途に就いた。
ところで、A受審人は、7月初旬に厚岸港を基地としてさんま漁を開始し、荒天の日を除いて漁場で1ないし2昼夜の操業を続け、帰港して水揚げ後に4時間ばかり睡眠をとり、再び出漁する形態を繰り返しており、漁場で投網後の待機中に断続的な2時間程度の仮眠をとるほか、帰航中に暫時休息をとって出航後の睡眠が1日あたり平均5時間くらいの状態であった。
A受審人は、漁場に至って1泊目に適宜休息をとった後、2泊目には漁模様がよかったことからほとんど休息をとらないまま、前示帰航の途に就く際、針路をGPSプロッターに入力されている厚岸港南の大黒島南方1海里の地点に向ける010度に定め、機関を全速力前進にかけ、12.0ノットの対地速力で自動操舵により進行中、甲板員の弟が甲板作業を終えて昇橋したので、09時20分ごろ同人と船橋当直を交替し、操舵室後部の寝台で休息した。
11時39分A受審人は、厚岸湾内の、厚岸灯台から329度3.2海里の地点に差し掛かり、厚岸港港口に約3海里に近づいたとき、当直中の甲板員から入港間近なことを告げられて目覚めた。
起床後、A受審人は、レーダーで周囲の状況を確かめてアイカップ埼並航の1海里手前の地点であることを認め、引き継いだ347度の針路で自動操舵とし、既に減速されていた7.0ノットの対地速力のまま当直に就いたとき、いつものとおり仮眠をとったものの眠気を覚えていたが、あと少しなので居眠りすることはあるまいと思い、チューインガムをかみ立って手動操舵に当たるなど、居眠り運航の防止措置をとることなく、操舵室右舷側の背もたれ付きのいすに腰を掛け、見張りに当たって続航するうち、いつしか居眠りに陥った。
こうして、美千丸は、居眠り運航となり、厚岸港港口に向けて針路が転じられず、厚岸湾北部の、厚岸町白浜町地先の海岸約600メートル沖合に設置された消波ブロックに向首し、同一針路、速力のまま進行中、12時10分厚岸灯台から339度6.8海里の地点において、原針路、原速力で、同ブロックに乗り揚げた。
当時、天候は曇で風力1の南東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
乗揚の結果、美千丸は、球状船首部に亀裂を伴う破口、船底外板に凹損及びキール船尾部に曲損を生じたが、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、北海道厚岸港南方沖合の漁場から帰航中、居眠り運航の防止措置が不十分で、厚岸港港口に向けて針路が転じられず、厚岸湾北部の消波ブロックに向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、漁場から厚岸港に向け帰航中、仮眠をとったのち入港を間近にして単独で当直に就いた場合、眠気を覚えていたから、居眠り運航にならないよう、チューインガムをかみ立って手動操舵に当たるなど、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。ところが、同人は、あと少しなので居眠りすることはあるまいと思い、チューインガムをかみ立って手動操舵に当たるなど、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、操舵室右舷側のいすに腰を掛け、見張りに当たって続航するうち居眠りに陥り、居眠り運航となって厚岸湾北部に設置された消波ブロックに向首進行し同ブロックに乗り揚げ、美千丸の球状船首部に亀裂を伴う破口、船底外板に凹損及びキール船尾部に曲損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。