(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年12月18日07時20分
関門港門司埼
2 船舶の要目
船種船名 |
油送船AA丸 |
総トン数 |
699トン |
全長 |
73.50メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,456キロワット |
3 事実の経過
AA丸は、株式会社トキメック製のPR-2500型と称する電動油圧操舵装置を搭載した船尾船橋型の鋼製油送船で、A受審人ほか5人が乗り組み、空倉のまま、船首1.30メートル船尾3.30メートルの喫水をもって、平成13年12月18日07時00分関門港下関区第2突堤を発し、山口県宇部港に向かった。
A受審人は、平成12年3月AA丸の次席一等航海士として乗り組み、同年4月一等航海士となって2箇月に17日間船長職に就くことができるようになり、平成13年12月7日船長の休暇下船に伴い、自らが船長職に就いたが、それまでも船長職に就いたことがあり、その際、自らが操船して何度となく関門海峡を通過していたので、同海峡の水路事情については良く知っており、操舵装置など各種機器類の取り扱いにも慣れていた。
A受審人は、自ら手動操舵に就いて単独で操船に当たり、関門航路第25号灯浮標と下関岬之町沖灯浮標との間から関門航路に入り、07時13分門司埼灯台から226度(真方位、以下同じ。)1.6海里の地点において、針路を045度に定め、機関を回転数毎分230の全速力前進にかけ、対水速力12.0ノットのところ、折からの東流に乗じて14.5ノットの対地速力で、関門航路の右側を進行した。
07時19分A受審人は、関門橋下を通過したとき、左舷船首方に、門司埼灯台の北方約150メートルの航路内で、漂泊して一本釣り漁を行っている小型漁船2隻を認め、門司埼沖約50メートルに向けて続航していたところ、同時19分少し過ぎ同灯台から245度180メートルの地点に差し掛かったとき、操舵室後壁中央部に設置された船舶電話の呼出音が鳴り始めたが、同漁船のことが気になっていたことと、間もなく門司埼灯台に並航して転針予定地点に達するので、電話には出ずに手動操舵に就いたまま進行した。
07時19分半A受審人は、門司埼灯台から315度50メートルの転針予定地点に達し、針路を関門航路に沿う067度に転じる予定であったところ、左舷船首方の小型漁船と接近するおそれがあったので、これとの距離を隔てるため、針路を関門航路第32号灯浮標に向く073度(以下「予定針路」という。)に転じ、自動操舵に切り替えることにした。
ところで、A受審人は、手動操舵で操舵する際、針路設定用指針(以下「指針」という。)を操舵用コンパスの正船首示度のところに設定しておくと、手動操舵中にレピータカードの示度が見えにくくなるので、日ごろから同指針を正船首示度から右に約90度回した位置に向けており、手動操舵で予定針路に転じた後、自動操舵で同針路に設定するためには、針路設定ノブを左に回し、指針を予定針路の位置に設定したうえで、自動操舵に切り替える必要があった。
ところが、A受審人は、船舶電話の呼出音が鳴り続けていたことから気が焦り、指針の位置を確認しなかったので、同指針が予定針路から右に約90度回した位置にあることに気付かず、指針を予定針路の073度の位置に設定しないまま、自動操舵装置の作動切替スイッチを「手動」から「自動」に切り替えた。
A受審人は、指針が右に約90度ずれた位置にあったため、自動操舵の設定針路が予定針路から右に約90度偏した約160度に設定されたことになり、073度とした船首方位と指針の位置との差が15度を超えたことから、変針警報器からの警報音が発せられたものの、船舶電話の呼出音にかき消されて聞き取れず、間もなく自動的に右舵が大きくとられた状態となって右回頭が始まったが、予定針路に設定できたものと思い、このことに気付かないまま、電話に出ようとして操舵スタンドから離れた。
こうして、A受審人は、操舵室後部に移動して船舶電話の受話器をとって前方を振り返ったところ、07時20分わずか前、右舷前方の陸岸の見え具合から右回頭していることに気付き、急いで操舵スタンドに戻り、手動操舵に切り替えて左舵一杯をとったが、効なく、07時20分門司埼灯台から077度130メートルの地点において、AA丸は、右回頭中の船首が130度に向いたとき、原速力のまま、門司埼の岩場に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、関門海峡は東流の終期に当たり、門司埼付近では2.5ノットの東流があった。
乗揚の結果、AA丸は、右舷船首船底部に亀裂を伴う凹損を生じたが、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、関門港関門航路の門司埼沖を東行中、手動操舵により予定針路に転じた後、自動操舵に切り替える際、自動操舵装置の設定針路の確認が不十分で、針路設定用指針が予定針路に設定されないまま自動操舵に切り替えられ、右舵が大きくとられた状態となって、右回頭しながら門司埼の岩場に向けて進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、関門港関門航路の門司埼沖を東行中、手動操舵により予定針路に転じた後、自動操舵に切り替える場合、予定針路で進行できるよう、自動操舵装置の針路設定用指針の位置を確かめるなど、設定針路を十分に確認すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、船舶電話の呼出音が鳴り続けていたことから、急いで船舶電話に出ようとして気が焦り、設定針路を十分に確認しなかった職務上の過失により、同指針が予定針路から右に大きくずれた位置にあることに気付かないまま自動操舵に切り替え、右舵が大きくとられた状態となって、右回頭しながら門司埼の岩場に向け進行して乗り揚げを招き、船首船底部に亀裂を伴う凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同受審人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。