(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年4月8日05時50分
伊豆諸島御蔵島北東岸
2 船舶の要目
船種船名 |
遊漁船海惣丸 |
総トン数 |
14トン |
全長 |
18.05メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
433キロワット |
3 事実の経過
海惣丸は、最大搭載人員14人のFRP製小型遊漁兼用船で、A受審人が1人で乗り組み、釣り客5人を乗せ、遊漁の目的で、船首0.70メートル船尾2.20メートルの喫水をもって、平成14年4月8日02時00分静岡県下田港を発し、伊豆諸島御蔵島東岸の釣り場に向かった。
ところで、A受審人は、例年春から秋にかけ、月間10ないし20日を、遊漁船としての運航に従事し、釣り客の乗下船地が下田港であることから、遊漁に出るときには、前日のうちに海惣丸を係船地の神津島村三浦漁港から下田港に回航し、早朝釣り客を乗せ、神津島や御蔵島周辺で遊漁を行ったのち、その日の夕方には、再び下田港に入港して釣り客を降ろし、三浦漁港に帰港していた。
また、A受審人は、釣り客の予約が連日入っているような場合には、係船地には帰らず、下田港で停泊し、自船の船室で睡眠をとるようにしていたが、翌日の準備や釣り客とのつき合いなどで十分な休息がとれないことが多く、とりわけ、御蔵島周辺での遊漁が続いた場合には、下田港出港が02時ごろになるため、更に休息時間が減じられるうえ、釣り場での休息もとれず、睡眠時間の少ない日が続いた。
出港時、A受審人は、4月初めから連日遊漁の予約客が入り、4月2日からは御蔵島周辺への日帰り航海が続いていたため、睡眠不足で疲労が蓄積した状態となっており、居眠りに陥ることを予測することができる状態であったが、居眠りするまでには至らないと思い、神津島に寄せ、操船の補助として父親を乗せるなど、居眠り運航の防止措置をとることなく、釣り客を船室で休ませ、自らは操舵室の椅子に腰をかけ、一緒に出港した数隻の僚船と無線電話による交信で眠気を払いながら新島と式根島との間を抜け、三宅島西方を南東進した。
05時16分A受審人は、御蔵島港ふ頭灯台(以下「ふ頭灯台」という。)から329.5度(真方位、以下同じ。)8.0海里の地点に至ったとき、針路を御蔵島北東岸に向首する142度に定め、機関を全速力前進とし、15.5ノットの対地速力で自動操舵によって進行した。
05時36分A受審人は、ふ頭灯台から342度3.0海里の地点に達したとき、僚船と続けていた無線電話による交信が途切れ、その後いつしか居眠りに陥って続航中、05時50分海惣丸は、原針路、原速力のまま、ふ頭灯台から092度1.3海里の御蔵島北東岸の岩場に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力4の南西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
乗揚の結果、船首部船底外板に破口を生じ、のち廃船処理され、また、釣り客全員はそれぞれ左肩甲骨骨折、頭部挫創などを負った。
(原因)
本件乗揚は、夜間、下田港から伊豆諸島御蔵島東岸の釣り場に向かう際、居眠り運航防止措置が不十分で、同島北東岸に向首したまま進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、連日の遊漁で十分な睡眠時間がとれず、疲労が蓄積した状態で下田港から御蔵島東岸の釣り場に向かう場合、居眠りに陥ることを予測できる状態であったのであるから、神津島に寄せ、操船の補助として父親を乗せるなど、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、居眠りするまでには至らないと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥り、御蔵島北東岸に向首したまま進行して乗揚を招き、海惣丸の船首部船底外板に破口などを生じさせて廃船とせしめ、釣り客全員に左肩甲骨骨折、頭部挫創などを負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。