(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年10月10日08時15分
島原湾
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船照栄丸 |
プレジャーボート行榮丸 |
総トン数 |
3.2トン |
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登録長 |
9.52メートル |
7.10メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
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26キロワット |
漁船法馬力数 |
70 |
3 事実の経過
照栄丸は、一本釣り漁業等に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、えび網漁の目的で、船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成14年10月10日06時00分長崎県島原港を発し、漁場に向かった。
ところで、A受審人は、照栄丸は16ノットばかりの半速力で航走すると前方に大きな死角が生じるので、これを補うために船首を左右に振って航行したり、操舵室の床から40センチメートルばかりある台に立って天井の開口部から上半身を出したりして操船に当たっていたが、このときにも船首が少し水平線を越える状況にあった。
A受審人は、06時30分ころ熊本港付近の漁場に至って魚群探索を行ったのち投網を4回ばかり行ったが漁が思わしくなかったことから、漁場を移動することとし、操舵室の開口部から上半身を出して左手で舵輪、右手で機関の操作を行い、随時、身体を少しかがめて操舵室の右舷側に設置した魚群探知器の監視を行いながら北上した。
A受審人は、付近海域に出漁した同業船や釣り船の間を縫いながら北上を続け、08時11分河内灯台から273度(真方位、以下同じ。)1.9海里の地点に達したとき、沿岸のノリ養殖施設に近くなったことから探索海域を変えることとし、針路を260度に定め、機関を微速力前進にかけ、9.0ノットの対地速力で手動操舵によって進行した。
A受審人は、08時14分半少し過ぎ河内灯台から272度2.5海里の地点に達したとき、ほぼ左舷正横120メートルのところに行榮丸を見る態勢となり、いちべつして同船が錨泊中であることが分かる状況にあったが、魚群を発見した旨を無線で傍受し、付近の僚船が南方に向かうのを視認したことから、先に魚群に向かうため少しでも早く南下しようとし、左舷方の見張りを十分に行うことなく左転を開始し、少しかがんで機関のレバーを全速力前進に操作していたので、行榮丸に気付かず、同時15分少し前針路を163度に転じたところ同船に向首する態勢となったが、前方の漁場に向かうことに気を奪われていたり、死角の影響もあって、このことに気付かず、行榮丸を避けないで続航し、照栄丸は、08時15分河内灯台から270度2.4海里の地点において、速力が20ノットに達したとき、その船首が行榮丸の右舷中央部に後方から35度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
また、行榮丸は、船体のほぼ中央部に機関室だけを有するFRP製プレジャーボートで、Nが1人で乗り組み、遊漁の目的で、船首0.3メートル船尾0.4メートルの喫水をもって、同日06時30分熊本県河内港を発し、近くの釣場に向かった。
N船長は、07時ごろ衝突地点に至り、船首から錨を投入し、機関室後方の右舷側物入れに両足を入れて甲板上に腰を掛けた姿勢で船首方に向いて手釣りを行っていたところ、08時15分少し前198度に向首していたとき、照栄丸が右舷船尾35度115メートルのところで左転し、自船に向首する態勢となり、間もなく前示のとおり衝突した。
衝突の結果、照栄丸は、行榮丸を乗り切って船底に擦過傷、推進器翼、推進器軸に曲損を生じ、行榮丸は、右舷中央部から左舷前部にかけて大破し、N船長(大正10年3月8日生、四級小型船舶操縦士免状受有)が頭蓋骨、骨盤等を骨折し、肝臓破裂等を負い、搬送先の病院で死亡した。
(原因)
本件衝突は、島原湾において、魚群探索中の照栄丸が、見張り不十分で、錨泊中の行榮丸の至近で転針し、同船に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、多数の漁船などが出漁している島原湾において魚群探索中、魚群発見の情報を得て、その漁場に向け高速力で移動しようとした場合、転針方向の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、漁場に向かうことに気を奪われて見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、行榮丸に気付かず、同船に向け転針進行して衝突を招き、照栄丸の船底に擦過傷、推進器翼などに曲損を生じさせ、行榮丸の船体を大破させ、N船長を死亡させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。