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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成15年長審第6号
件名

旅客船ジーラ漁船昇福丸衝突事件(簡易)
二審請求者〔理事官向山裕則〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年3月11日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(道前洋志)

理事官
向山裕則

受審人
A 職名:ジーラ船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:昇福丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
ジーラ・・・左舷船首ブルワークに凹損
昇福丸・・・左舷船首外板に亀裂

原因
昇福丸・・・狭い水道の航法(右側通行)、見張り不十分、船員の常務(前路進出)不遵守(主因)
ジーラ・・・警告信号不履行(一因)

裁決主文

 本件衝突は、昇福丸が、航路筋の右側端に寄って航行しなかったばかりか、見張り不十分で、転針してジーラの前路に進出したことによって発生したが、ジーラが警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。
 
適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年6月16日15時30分
 佐賀県呼子港

2 船舶の要目
船種船名 旅客船ジーラ 漁船昇福丸
総トン数 19トン 4.9トン
全長 24.02メートル  
登録長   12.03メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 286キロワット  
漁船法馬力数   90

3 事実の経過
 ジーラは、海中展望の用に供されている鋼製旅客船で、A受審人が1人で乗り組み、旅客37人を乗せ、船首1.1メートル船尾1.6メートルの喫水をもって、平成14年6月16日15時00分佐賀県呼子港を発し、同港東口至近の鷹島南方に向かった。
 ところで、呼子港東口には、北、中及び南各防波堤が設けられ、北及び中両防波堤間は幅約80メートルでS字型の水路となっており、中及び南両防波堤間は幅約120メートルで直線の水路であったことから、この間が主な航路筋となっていた。
 15時13分A受審人は、鯛などの餌付けをしている鷹島南方に至って海中展望を行い、同時27分呼子港中防波堤南灯台(以下「中防波堤南灯台」という。)から059度(真方位、以下同じ。)730メートルの地点を発し、針路を中及び南両防波堤間の航路筋の右側端に寄る236度に定め、機関を全速力前進にかけ、8.0ノットの対地速力で、手動操舵により帰途についた。
 15時28分A受審人は、中防波堤南灯台から060度550メートルの地点で、左舷船首3度1,050メートルのところに出航する昇福丸を初めて視認し、その後同船が左転して自船の右舷側に替わったものの、同時29分半中防波堤南灯台から067度200メートルの地点に達したとき、昇福丸が正船首300メートルのところで中及び南両防波堤間の航路筋に向けて転針して東行するのを認め、その後同船が航路筋の右側端に寄せないでほぼ反航する態勢で接近していたが、同船の針路が少し左方に開く状況であったことから、どうにか左舷を対して航過するものと思い、警告信号を行うことなく、原針路、原速力のまま続航した。
 A受審人は、その後昇福丸が自船の左舷側を10メートルばかり隔てて航過する状況となったころ、15時30分少し前同船が急に左転して前路に進出するのを認め、驚いて汽笛を吹鳴したが及ばず、15時30分中防波堤南灯台から082度75メートルの地点において、昇福丸の船首部が、ジーラの左舷側船首部に、前方から54度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の北風が吹き、視界は良好であった。
 また、昇福丸は、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.4メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、16日05時00分呼子町小川島漁港を発し、加唐島北方で操業した後、呼子港内名護屋漁港において水揚げし、15時17分同漁港を発して帰途についた。
 15時26分B受審人は、中防波堤南灯台から230度1,200メートルの地点において、針路を052度に定め、機関を半速力前進にかけ、11.0ノットの対地速力で、手動操舵によって進行した。
 15時28分少し過ぎB受審人は、中防波堤南灯台から225度470メートルの地点に達したとき、北及び中両防波堤間を通航する予定で009度に転じたが、間もなく北及び中両防波堤間に2隻の通航船を視認したことから、針路を変更して中及び南両防波堤間に向かうこととし、15時29分少し前中防波堤南灯台から247度320メートルの地点で085度に転針した。
 15時29分半少し前B受審人は、中防波堤南灯台から223度150メートルの地点に達したとき、右舷船尾方200メートルばかりのところにフェリーなど2隻の出航船があったことから早目に左転することとし、中及び南両防波堤間の航路筋の右側端に寄せることなく、その左側に寄る058度に転針し、このときほぼ正船首370メートルのところに入航するジーラが存在していたが、同船に気付かず続航した。
 B受審人は、転針後も出航船に気を取られて前方の見張りを十分に行わなかったので、ジーラが自船の左舷側を10メートルばかり隔てて航過する状況であることに気付かず、15時30分少し前目的地に向かうため左転してジーラの前路に進出し、原速力のまま、002度に向首したとき前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、ジーラは左舷船首ブルワークに凹損などを生じ、昇福丸は左舷船首外板に亀裂などを生じた。

(原因)
 本件衝突は、佐賀県呼子港内の防波堤間の航路筋において、昇福丸が、航路筋の右側端に寄って航行しなかったばかりか、見張り不十分で、転針してジーラの前路に進出したことによって発生したが、ジーラが警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、佐賀県呼子港内の防波堤間の航路筋を出航する場合、入航するジーラを見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、後方の出航船に気を取られて前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、入航するジーラに気付かず、転針してジーラの前路に進出して衝突を招き、ジーラの左舷船首ブルワークに凹損などを生じさせ、昇福丸の左舷船首外板に亀裂などを生じさせるに至った。
 A受審人は、佐賀県呼子港内の防波堤間の航路筋の右側端に寄って入航中、航路筋の右側端に寄せないでほぼ反航する態勢で接近する昇福丸を認めた場合、同船に対して航路筋の右側端に寄せるよう、警告信号を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、同船の針路が少し左方に開く状況であったことから、どうにか左舷を対して航過するものと思い、警告信号を行わなかった職務上の過失により、昇福丸が自船に気付かないまま転針して衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。 


参考図
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