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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成14年長審第63号
件名

作業船新辰丸漁船第八福進丸衝突事件
二審請求者〔受審人A〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年3月11日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(平田照彦、道前洋志、寺戸和夫)

理事官
向山裕則

受審人
A 職名:新辰丸三等航海士 海技免状:三級海技士(航海)
B 職名:第八福進丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
新辰丸・・・損傷ない
福進丸・・・右舷前部及び船尾に損傷、乗組員1人が全身打撲

原因
新辰丸・・・横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
福進丸・・・動静監視不十分、注意喚起信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、新辰丸が、前路を左方に横切る第八福進丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第八福進丸が、動静監視不十分で、有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年7月8日06時36分
 九州西岸沖

2 船舶の要目
船種船名 作業船新辰丸 漁船第八福進丸
総トン数 657トン 4.8トン
全長 57.50メートル 15.14メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 3,383キロワット  
漁船法馬力数   90

3 事実の経過
 新辰丸は、船首船橋型作業船で、A受審人ほか9人が乗り組み、作業員11人を乗せ、平成13年12月東シナ海で発生した朝鮮民主主義人民共和国工作船銃撃事件において沈没した同船の引き揚げ作業に従事していたところ、接近する台風6号を避難するため、船首尾とも4.35メートルの等喫水をもって、平成14年7月7日08時35分鹿児島県古仁屋港を発し、熊本県水俣港に向かった。
 A受審人は、4時から8時の船橋当直を受け持っていたところ、翌8日04時少し前甑島列島に並航したところで船橋当直に就いて北上し、05時43分甑中瀬灯標から090度(真方位、以下同じ。)2.5海里の地点に達したとき、針路を356度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、11.5ノットの対地速力で進行した。
 A受審人は、昇橋していた船長から先に朝食をとるように言われ、06時15分ごろこれを終えて昇橋し、船長と交代して舵輪の右舷側に立ち、単独で見張りを行いながら続航し、同時32分少し過ぎ右舷船首26度1.6海里ばかりのところに南西方に向かう第八福進丸(以下「福進丸」という。)を視認できる状況にあり、その後同船が前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近していたが、右舷方の見張りを十分に行うことなく、船首方だけを見ていたので、このことに気付かずに進行した。
 06時35分少し過ぎA受審人は、同方位700メートルばかりに福進丸を初めて視認したとき、近くに接近した同船が自船の船首方に向首していたのであるから、直ちに福進丸の進路を避けるべき状況にあったが、同船をいちべつしただけで自船の前路をどうにか通過するものと思い、その進路を避けないで続航し、同時36分少し前左転した福進丸を視認し、同船との衝突の危険を認めたものの何らの措置をとることができず、06時36分阿久根港倉津埼灯台(以下「倉津埼灯台」という。)から265度5.0海里の地点において、福進丸の船首が新辰丸の右舷船首に前方から15度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の東風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
 また、福進丸は、汽笛の設備を有しないFRP製ごち網漁船で、B受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.30メートル船尾1.20メートルの喫水をもって、同日05時鹿児島県宮之浦港を発し、甑海峡の漁場に向かった。
 B受審人は、発航してから操舵室天井の天窓から上半身を出して操船に当たり、長島海峡を南下し、05時42分ころ同海峡の南口を出たところで南西方に向け17ノットの速力で南下し、同時53分倉津埼灯台から314度3.4海里の魚礁が投入されている地点に達したとき、魚群の探索を行うこととし、針路を221度に定め、機関を3.4ノットばかりの最微速力前進とし、手動操舵で進行した。
 06時10分ころB受審人は、魚群を探索しながら前方を見たとき、左舷船首2点半6海里ばかりに北上する新辰丸を初めて視認し、自船が低速力であったことから、同船が前路を早々に通過するものと思い、その動静監視を行うことなく引き続き魚群探知器の監視を行いながら続航し、同時32分同海域での探索を終えたものの魚群を探知しなかったことから、更に1.5海里ばかり前方の魚礁設置海域に向かうこととし、同時32分少し過ぎ同針路のまま機関を航海速力にかけ、17.0ノットの対地速力で進行した。
 機関を航海速力としたときB受審人は、新辰丸が左舷船首19度1.6海里のところを北上中であり、その後同船と衝突のおそれのある態勢で接近していたが、前路の状況を十分に確認することなく、魚群探知器を次の魚礁海域の水深に合わせたり、海水温度や潮流の計測を行ったのち引き続き探知器の監視を行っていたので、このことに気付かず、その後新辰丸に避航の気配がなかったが、汽笛に代わる有効な音響による信号を行うことも、衝突を避けるための協力動作もとらず続航中、06時36分少し前ふと前方を見たとき至近に迫った新辰丸を認め、急いで左舵一杯をとったが、効なく、30度左転して191度に向いたとき、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、新辰丸には損傷はなく、福進丸は、右舷前部及び船尾に損傷を生じたが、のち修理され、福進丸乗組員1人が全身打撲を負い、25日間の入院治療を要した。

(原因)
 本件衝突は、甑島列島東側海域において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中、新辰丸が、前路を左方に横切る福進丸の進路を避けなかったことによって発生したが、福進丸が、動静監視不十分で、有効な音響による信号を行うことも、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、甑島列島東側海域を単独で当直に就いて北上中、右舷船首方近距離に前路を左方に横切る態勢の福進丸を視認した場合、十分な動静監視を行う時間的余裕がない状況であったから、直ちに同船の進路を避けるべき注意義務があった。しかるに、同人は、いちべつしただけで自船の前路をどうにか通過するものと思い、福進丸の進路を避けなかった職務上の過失により、同船との衝突を招き、福進丸の右舷船首及び同船尾に圧壊を生じ、福進丸乗組員1人に全身打撲を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、甑島列島東側海域を漁場に向け単独で操船中、北上する新辰丸を視認した場合、適宜その動静を監視すべき注意義務があった。しかるに、同人は、低速力で魚群探索をしていたので、新辰丸はすでに前路を航過したものと思ってその動静を監視しなかった職務上の過失により、新辰丸との衝突の危険に気付かず、同船との衝突を招き、前示の損傷及び負傷を負わせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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