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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成14年長審第62号
件名

漁船信漁丸漁船松丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年3月3日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(道前洋志、半間俊士、寺戸和夫)

理事官
向山裕則

受審人
A 職名:信漁丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:松丸船長 海技免状:二級小型船舶操縦士(5トン限定)

損害
信漁丸・・・右舷船首部外板に破口
松 丸・・・船尾部及び操舵室を圧壊

原因
信漁丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
松 丸・・・見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、信漁丸が、見張り不十分で、前路で漂泊中の松丸を避けなかったことによって発生したが、松丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年7月31日09時45分
 長崎県福江市久賀島南方

2 船舶の要目
船種船名 漁船信漁丸 漁船松丸
総トン数 4.9トン 3.52トン
登録長 11.61メートル 8.58メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 90 50

3 事実の経過
 信漁丸は、たこつぼ漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、所用のため、船首0.5メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成14年7月31日09時00分長崎県若松町日島漁港を発し、同県福江港に向かった。
 09時31分半A受審人は、奈留島港笠松F防波堤灯台から147度(真方位、以下同じ。)0.7海里の地点において、針路を233度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、17.0ノットの対地速力で進行した。
 09時40分半A受審人は、赤ハエ鼻灯台から038.5度1.7海里の地点で自動操舵のまま213度に転針し、潮流により6度右方に圧流されながら続航し、同時42分同灯台から038度2,320メートルの地点に達したとき、正船首1,600メートルのところに漂泊中の松丸が存在していたが、前方を一べつしただけで見張りを十分に行わなかったので同船に気付かず、船尾で小便を始めた。
 A受審人は、小便を終えて操舵室に戻ろうとしたが、船尾甲板に散らばっていた発泡スチロール製とろ箱の片付けを始めたので、09時44分には松丸に530メートルばかりに接近したことに気付かず、同船を避けないまま続航し、片付けが済んで操舵室に戻ったとき、09時45分赤ハエ鼻灯台から037度750メートルの地点において、原針路、原速力のままの信漁丸の船首が、松丸の船尾にその正船尾から右方10度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の南風が吹き、衝突地点付近には約2ノットの北西流があり、視界は良好であった。
 また、松丸は、FRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、一本釣り漁業の目的で、船首0.4メートル船尾1.1メートルの喫水をもって、31日05時00分長崎県福江市樫ノ浦漁港を発し、田ノ浦瀬戸東口北水道に向かった。
 05時15分B受審人は、漁場に至って鯛の流し釣りを開始し、09時38分赤ハエ鼻灯台から069度600メートルの地点において、機関を停止して船首を南西に向け、操舵室前部の左舷側甲板上に船尾方を向いて座り、右手で釣り糸を持ち、潮流に乗じて6回目の流し釣りを始めた。
 09時42分B受審人は、赤ハエ鼻灯台から051度670メートルの地点に達したとき、正船尾少し右方1,600メートルのところに信漁丸を視認でき、その後同船が自船に向首する態勢で接近していたが、釣りに気を取られて見張りを十分に行わなかったのでこのことに気付かず、同時44分信漁丸が530メートルに接近し、その後同船に避航の気配がないことに依然として気付かず、機関を使用して衝突を避けるための措置をとらないでいるうち、同時45分少し前、船尾至近に迫った信漁丸を初めて視認して操舵室に向かう途中、船首が223度に向いたとき前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、信漁丸は右舷船首部外板に破口を生じ、松丸は船尾部及び操舵室を圧壊したが、後いずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、長崎県福江市久賀島南方において、信漁丸が、見張り不十分で、前路で漂泊中の松丸を避けなかったことによって発生したが、松丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、長崎県福江市久賀島南方を南西進する場合、前路で漂泊中の松丸を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前方を一べつして他船はいないものと思い、船尾で小便をした後とろ箱の片付けを始めて見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で漂泊中の松丸に気付かず、同船を避けないまま進行して衝突を招き、自船の右舷船首部外板に破口を生じさせ、松丸の船尾部及び操舵室を圧壊させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、長崎県福江市久賀島南方において漂泊して魚釣りを行う場合、船尾方から自船に向首接近する信漁丸を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、魚釣りに気を取られて見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、船尾方から自船に向首接近する信漁丸に気付かず、機関を使用して衝突を避けるための措置をとらないで衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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