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平成14年門審第140号
件名

漁船三高丸漁船景運丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年3月27日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(橋本 學、上野延之、島 友二郎)

理事官
今泉豊光

受審人
A 職名:三高丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
B 職名:景運丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
三高丸・・・船首部の塗料が剥離
景運丸・・・右舷後部外板に破口を伴う亀裂
船長が頭部を打撲

原因
三高丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
景運丸・・・見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、三高丸が、見張り不十分で、漂泊中の景運丸を避けなかったことによって発生したが、景運丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年4月1日07時40分
 大分県関埼北方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船三高丸 漁船景運丸
総トン数 2.6トン 2.2トン
登録長 8.95メートル 8.83メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 50 50

3 事実の経過
 三高丸は、主に樽流し漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.35メートル船尾1.20メートルの喫水をもって、平成14年4月1日04時10分大分県佐賀関漁港を発し、同県関埼北方沖合3海里付近の漁場へ向かった。
 ところで、樽流し漁業とは、水深100メートル前後の海域において、直径約30センチメートル(以下「センチ」という。)深さ約35センチの木製樽を浮標として浮かべ、その樽から自然石の錘を付けた長さ約120メートルの幹縄を海底まで垂らし、同幹縄の先端部から約30メートルのところまで、釣り針を結んだ長さ1メートルの枝縄を3メートル間隔で括り付けた仕掛け(以下「樽仕掛け」という。)を使用するものであり、操業に当たっては、水深に合わせて幹縄の長さを調節し、樽仕掛け2鉢を1組として、10組から15組を浮揚性の連結縄で繋いで適当な間隔で投入したのち、魚が掛かった頃合いを見計らい、最初に投入した樽から順次引き揚げるという作業手順を繰り返すもので、樽仕掛けを甲板上に引き揚げた際は、樽の中に、幹縄及び枝縄などを纏めて収納して、甲板上に順序よく並べて置くのが一般的な操業形態であった。
 A受審人は、当日、樽仕掛け18鉢を準備して出漁し、05時00分前示漁場に到着したのち、甲板上に並べてあった樽仕掛けを13鉢投入して1回目の操業を始め、手順通り、同時30分最初に投入した樽から引き揚げ作業に取り掛かった。
 06時10分A受審人は、全ての樽仕掛けの引き揚げを終え、次の操業に備えて餌を取り替えたのち、最初の投入地点まで戻るため、07時37分関埼灯台から352度(真方位、以下同じ。)3.6海里の地点で、針路を130度に定め、機関を全速力前進に掛け、9.0ノットの対地速力で、舵柄による手動操舵によって進行した。
 そして、07時38分少し過ぎA受審人は、関埼灯台から354度3.5海里の地点に至ったとき、正船首方500メートルのところに、自船と同じ樽流し漁に従事する景運丸を視認することができ、その後、その傍に樽仕掛けの樽が浮いていることや、行きあしがないことなどから漂泊していることが分かる状況となったが、2回目の樽仕掛け投入に備えて舵柄を中央に保ち、甲板上に引き揚げた樽を並べ替える作業に気を取られ、見張りを十分に行わなかったので、同船に気付かないまま続航した。
 こうして、07時39分少し過ぎA受審人は、関埼灯台から356度3.4海里の地点に達したとき、漂泊中の景運丸まで200メートルに接近し、衝突のおそれがある状況となったが、依然として、見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、同船を避けることなく進行中、07時40分関埼灯台から357度3.3海里の地点において、三高丸は、原針路、原速力で、その船首が、景運丸の右舷後部に後方から45度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の南南東風が吹き、視界は良好であった。
 また、景運丸は、三高丸と同じく、主に樽流し漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.4メートル船尾0.8メートルの喫水をもって、同日05時30分佐賀関漁港を発し、関埼北方沖合3海里付近の漁場へ向かった。
 06時00分B受審人は、前示漁場に至って操業を開始し、10鉢の樽仕掛けを投入したのち、魚が掛かった頃合いを見計らい、同時30分引き揚げ作業に取り掛かった。
 07時38分B受審人は、前示衝突地点付近で、樽仕掛け8鉢の引き揚げを終えたものの、魚が全く掛かっていなかったことから残り2鉢の引き揚げを中断し、魚が掛かるまで待つつもりで、船首を南方に向け機関を中立として漂泊を開始したところ、同時38分少し過ぎ右舷船尾45度付近500メートルのところに、自船に向首して接近する三高丸を視認できる状況となったが、待ち時間内に朝食を済ませようと思い、これを食べることに気を取られ、見張りを十分に行わなかったので、同船に気付かないまま漂泊を続けた。
 こうして、07時39分少し過ぎB受審人は、三高丸が、200メートルまで接近して、衝突のおそれがある状況となったが、依然として、見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、機関を使用して場所を移動するなどの衝突を避けるための措置をとることなく漂泊中、景運丸は、船首を175度に向けていたとき、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、三高丸は、船首部の塗料が剥離し、景運丸は右舷後部外板に破口を伴う亀裂を生じたが、のちいずれも修理された。また、B受審人は頭部を打撲し、左前頭部に1箇月余りの入院加療を要する裂傷を負った。

(原因)
 本件衝突は、大分県関埼北方沖合において、三高丸が、樽流し漁に従事中、樽仕掛け投入地点へ向けて航行する際、見張り不十分で、漂泊中の景運丸を避けなかったことによって発生したが、景運丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、大分県関埼北方沖合において、樽流し漁に従事中、樽仕掛け投入地点へ向けて航行する場合、他船を見落とすことがないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、樽仕掛け投入に備え、甲板上の樽を並べ替える作業に気を取られ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で漂泊中の景運丸に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、自船の船首部塗料を剥離させるとともに、景運丸の右舷後部外板に破口を伴う亀裂を生じさせ、B受審人の左前頭部に、打撲による1箇月余りの入院加療を要する裂傷を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、大分県関埼北方沖合において、樽流し漁に従事中、魚が掛かるまで樽仕掛けの引き揚げを中断して漂泊する場合、接近する他船を見落とすことがないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、魚が掛かるまでの間に朝食を済ませようと思い、これを食べることに気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、自船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近する三高丸に気付かず、機関を使用して場所を移動するなどの衝突を避けるための措置をとることなく漂泊を続けて衝突を招き、前示の損傷などを生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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