日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成14年門審第124号
件名

貨物船菱東丸貨物船新宝勢衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年3月27日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(島 友二郎、長浜義昭、米原健一)

理事官
畑中美秀

受審人
A 職名:菱東丸船長 海技免状:二級海技士(航海)
B 職名:菱東丸二等航海士 海技免状:四級海技士(航海)
C 職名:新宝勢船長 海技免状:三級海技士(航海)
D 職名:新宝勢一等航海士 海技免状:四級海技士(航海)(旧就業範囲)

損害
菱東丸・・・右舷後部外板上部を圧壊等
新宝丸・・・船首部外板、船首甲板に亀裂を伴う凹損

原因
菱東丸・・・狭視界時の航法(信号、レーダー、速力)不遵守
新宝丸・・・狭視界時の航法(信号、レーダー、速力)不遵守

主文

 本件衝突は、菱東丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことと、新宝勢が、視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Cを戒告する。
 受審人Dを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年6月24日00時35分
 大分県姫島水道

2 船舶の要目
船種船名 貨物船菱東丸 貨物船新宝勢
総トン数 5,346.64トン 498トン
全長 123.98メートル 74.43メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 3,236キロワット 735キロワット

3 事実の経過
 菱東丸は、主として福岡県苅田港と名古屋港間に就航する、船尾船橋型のセメント専用運搬船で、A及びB両受審人ほか10人が乗り組み、セメント6,709トンを積載し、船首5.66メートル船尾7.27メートルの喫水をもって、平成13年6月23日21時20分苅田港を発し、名古屋港に向かった。
 A受審人は、船橋当直を、B受審人ほか2名の航海士による4時間交替の3直制とし、各当直に甲板員1名をそれぞれ付け、出入港、狭水道通過及び視界制限時などには、自ら操船の指揮を執ることとしていた。
 21時50分出港操船を終えたA受審人は、苅田港第4号灯浮標と同第5号灯浮標の間を航過する地点で、一等航海士に船橋当直を引き継ぐにあたり、各当直者が海上経験を豊富に有するので、改めて言わなくても視界が悪くなれば報告してくれるものと思い、視界が制限される状況になったとき、自ら操船の指揮を執ることができるよう報告するなどの申し送りについて、具体的に指示することなく、同航海士に当直を委ねて降橋した。
 翌24日00時00分B受審人は、長崎鼻北方沖合で、前直の一等航海士から視界が制限される状況になったときの報告についての申し送りを受けないまま当直を引き継ぎ、姫島水道に向け東行した。
 00時20分B受審人は、琵琶埼灯台から050度(真方位、以下同じ。)2.4海里の地点で、針路を105度に定め、機関を全速力前進に掛けて12.4ノットの対地速力で、法定の灯火を表示し、自動操舵によって進行した。
 定針したころB受審人は、それまで正船首方に見えていた同航船の船尾灯が見えなくなり、霧のため前方の視程が0.3海里ばかりに制限される状況になったが、A受審人に報告することも、霧中信号を行うことも、安全な速力に減じることもせずに続航した。
 自室で休息していたA受審人は、視界制限状態となった旨の報告を受けられず、自ら操船指揮をとることができなかった。
 00時25分B受審人は、琵琶埼灯台から065度3.1海里の地点に達したとき、3海里レンジとして、オフセンターにより中心を後方に移動したレーダーで、右舷船首8度4.0海里に新宝勢の映像を初めて探知し、同時30分同灯台から075度4.0海里の地点に差し掛かったとき、同映像の方位がほとんど変化しないまま2.0海里となり、新宝勢と著しく接近することを避けることができない状況になったが、少しばかり左転すれば同船と右舷を対して無難に航過できるものと思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減ずることも、必要に応じて行きあしを止めることもなく、針路を102度に転じ、折からの姫島水道最狭部の順潮流に乗じて13.8ノットの対地速力で続航した。
 00時33分B受審人は、姫島灯台から234度3.1海里の地点に達したとき、新宝勢のレーダー映像を右舷船首0.8海里に見て、同方向を双眼鏡で見張っていたところ、同時34分半右舷前方至近に同船のマスト灯と紅灯を初めて視認し、衝突の危険を感じて左舵一杯、機関を停止したが及ばず、00時35分姫島灯台から227度2.8海里の地点において、菱東丸は、090度に向首したとき、原速力のまま、その右舷後部に、新宝勢の右舷船首部が前方から30度の角度で衝突した。
 当時、天候は霧で風はほとんどなく、視程は約0.3海里で、潮候は下げ潮の初期にあたり、衝突地点付近には微弱な東流があった。
 また、新宝勢は、主として内地各港間の鋼材輸送に従事する、船尾船橋型の貨物船で、C及びD両受審人ほか3人が乗り組み、鋼材1,313トンを積載し、船首2.65メートル船尾4.54メートルの喫水をもって、同月23日11時20分宮崎県油津港を発し、関門港に向かった。
 C受審人は、船橋当直を06時から12時までと18時から24時までを自らが、00時から06時までと12時から18時までをD受審人がそれぞれ担当する単独2直制とし、出入港、狭水道通過及び視界制限時などには、自ら操船の指揮を執ることとしていた。
 23時50分C受審人は、伊予灘西航路第3号灯浮標付近で船橋当直を終え、D受審人に当直を引き継ぐにあたり、視界が制限される状況になったとき、自ら操船の指揮を執ることができるよう、報告するように具体的に指示することなく、同人に当直を任せて降橋した。
 23時55分D受審人は、姫島灯台から140度7.4海里の地点で、針路を294度に定め、機関を全速力前進に掛けて11.7ノットの対地速力で、法定の灯火を表示し、自動操舵によって進行した。
 翌24日00時05分D受審人は、姫島灯台から148度5.7海里の地点に達したとき、霧のため、視程が0.3海里ばかりに制限される状況となったが、C受審人に報告することも、霧中信号を行うことも、安全な速力に減じることもせず、針路を296度に転じて続航した。
 自室で休息していたC受審人は、視界制限状態となった旨の報告を受けられず、自ら操船指揮をとることができなかった。
 D受審人は、00時15分針路を298度に転じ、同時20分姫島灯台から174度3.5海里の地点に差し掛かったとき、6海里レンジとしたレーダーで、左舷船首5度6.0海里のところに、菱東丸の映像を初めて探知し、針路を300度に転じ、更に同時25分針路を302度に転じて続航した。
 00時30分D受審人は、姫島灯台から208度2.8海里の地点に達したとき、3海里レンジとして、オフセンターにより中心を後方に移動したレーダーで、菱東丸の映像の方位がほとんど変化しないまま2.0海里となり、同船と著しく接近することを避けることができない状況になったが、少しばかり右転すれば同船と左舷を対して無難に航過できるものと思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減ずることも、必要に応じて行きあしを止めることもなく、針路を305度に転じて続航した。
 00時34分D受審人は、姫島灯台から223度2.8海里の地点に至ったとき、菱東丸のレーダー映像を左舷船首0.4海里に見て、自動操舵のまま針路を327度に転じ、同方向を見張っていたところ、同時34分半左舷前方至近に同船の緑灯を初めて視認し、衝突の危険を感じて手動操舵に切り替え、左舵一杯をとったが及ばず、新宝勢は、300度を向いたとき、原速力で、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、菱東丸は右舷後部外板上部の圧壊及び同外板水線付近に亀裂を伴う凹損などを生じてバラストタンクに浸水し、新宝勢は船首部外板、同ブルワーク及び船首甲板に亀裂を伴う凹損並びにバルバスバウに損傷などをそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、夜間、霧のため視界制限状態となった大分県姫島水道において、東行する菱東丸が、霧中信号を行うことも安全な速力に減ずることもなく、レーダーで前路に認めた新宝勢と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったことと、西行する新宝勢が、霧中信号を行うことも安全な速力に減ずることもなく、レーダーで前路に認めた菱東丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったこととによって発生したものである。
 菱東丸の運航が適切でなかったのは、船長の船橋当直者に対する視界制限時の報告についての指示が十分でなかったことと、同当直者の視界制限時の報告及び措置が適切でなかったこととによるものである。
 新宝勢の運航が適切でなかったのは、船長の船橋当直者に対する視界制限時の報告についての指示が十分でなかったことと、同当直者の視界制限時の報告及び措置が適切でなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、出港操船を終えて、部下の航海士に船橋当直を委ねる場合、視界制限時には、自ら昇橋して操船指揮を執ることができるよう、同航海士に対し、視界制限時の報告について具体的に指示しておくべき注意義務があった。しかるに同受審人は、各航海士が海上経験を豊富に有するので、改めて言わなくても視界が悪くなれば報告してくれるものと思い、視界制限時の報告について具体的に指示しなかった職務上の過失により、視界制限状態になったときに報告が得られず、自ら操船指揮をとることができないまま進行して新宝勢との衝突を招き、菱東丸の右舷後部外板上部に圧壊及び同外板水線付近に亀裂を伴う凹損を生じさせてバラストタンクに浸水させ、新宝勢の船首部外板、同ブルワーク及び船首甲板に亀裂を伴う凹損並びにバルバスバウの損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。
 B受審人は、霧で視界制限状態となった姫島水道を東行中、レーダーで右舷前方に新宝勢の映像を探知し、同船と著しく接近することを避けることができない状況となったことを知った場合、針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、必要に応じて行きあしを止めるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、少しばかり左転すれば新宝勢と右舷を対して無難に航過できるものと思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減ずることも、必要に応じて行きあしを止めることもなく進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。
 C受審人は、船橋当直をD受審人に委ねる場合、視界制限時には、自ら昇橋して操船指揮を執ることができるよう、同人に対し、視界制限時の報告について具体的に指示しておくべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、D受審人に対して視界制限状態になったときの報告について具体的に指示をしていなかった職務上の過失により、視界制限状態になったときに報告が得られず、自ら操船指揮をとることができないまま進行して菱東丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。
 D受審人は、霧で視界制限状態となった姫島水道を西行中、レーダーで右舷前方に菱東丸の映像を探知し、同船と著しく接近することを避けることができない状況となったことを知った場合、針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、必要に応じて行きあしを止めるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、少しばかり右転すれば菱東丸と左舷を対して無難に航過できるものと思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減ずることも、必要に応じて行きあしを止めることもなく進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のD受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:24KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION