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平成14年門審第127号
件名

漁船生福丸貨物船ヒュンガ バンコク衝突事件
二審請求者〔理事官今泉豊光〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年3月26日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(長浜義昭、西村敏和、米原健一)

理事官
今泉豊光

指定海難関係人
A 職名:生福丸甲板員
B 職名:ヒュンガ バンコク二等航海士

損害
生福丸・・・船首を損傷、衝突の衝撃で左方に転覆
船長が溺死
ヒュ号・・・左舷側前部外板に擦過傷

原因
ヒュ号・・・見張り不十分、船員の常務(前路進出)不遵守

主文

 本件衝突は、ヒュンガ バンコクが、動静監視不十分で、無難に航過した生福丸の前路に進出したことによって発生したものである。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年8月23日02時00分
 周防灘

2 船舶の要目
船種船名 漁船生福丸 貨物船ヒュンガ バンコク
総トン数 4.92トン 8,273トン
全長 15.76メートル 140.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力   6,656キロワット
漁船法馬力数 15  

3 事実の経過
 生福丸は、小型機船底びき網漁業に従事するFRP製漁船で、船長O及びA指定海難関係人の2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.3メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成14年8月22日18時00分宇部港を発し、周防灘の漁場に至って操業を行った。
 翌23日01時30分O船長は、本山灯標から225度4.6海里(真方位、以下同じ。)の地点で、操業を終えて帰途につき、針路を013度に定め、折からの弱い東流により5度ほど右方に圧流されながら、網洗いと後部甲板に漁獲物を選別する作業場所を確保するために、長さ約7メートルの袋網部分を船尾から海中に入れ、機関を全速力前進より少し減じて5.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)とし、マスト灯に代えて操舵室上部マストの白色全周灯1個を、舷灯一対及び船尾灯をそれぞれ表示し、操舵室左舷側後方に立って操船にあたり、A指定海難関係人を漁獲物の選別作業につけ、自動操舵により進行した。
 A指定海難関係人は、漁場発進時から後部甲板で漁獲物の選別作業にあたった。
 O船長は、01時55分少し前本山灯標から243度3.0海里の地点で、右舷船首75度1.5海里のところに、前路を左方に横切るヒュンガ バンコク(以下「ヒュ号」という。)の白、白、紅3灯を視認できる状況となり、その後、その方位が右方に変化し、同時59分わずか前、ヒュ号の白、白2灯及び両舷灯をほぼ右舷正横550メートルに認め、同船の前路を船間距離440メートルで航過し、その舷灯が紅から緑に変わったことを確認したかして続航した。
 O船長は、01時59分少し過ぎ本山灯標から249度2.7海里の地点に達したとき、右舷正横後7度380メートルにヒュ号の白、白、緑3灯を視認することができる状況で、船間距離270メートルに接近した同船が右転を開始し、無難に航過した自船の前路に進出したため、02時00分少し前舷灯が緑から紅に再び変わって右舷側後方至近に接近したヒュ号を認めて、衝突の危険を感じ、後部甲板右舷側で漁獲物の選別作業中のA指定海難関係人に何かにつかまっておくよう叫び、機関を中立とした直後、02時00分本山灯標から251度2.7海里の地点において、生福丸は、原針路、原速力のまま、その船首に、ヒュ号の左舷前部が、後方から43度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力1の東風が吹き、潮候は下げ潮の末期で、付近海域には約0.4ノットの東流があり、視界は良好であった。
 また、ヒュ号は、船尾船橋型の貨物船で、船長H、B指定海難関係人ほか14人が乗り組み、コンテナ1,784.3トンを積載し、船首4.80メートル船尾5.80メートルの喫水をもって、同月22日14時25分高知港を発し、大韓民国蔚山(うるさん)に向かった。
 B指定海難関係人は、23時45分ごろ大分県姫島の南東方9海里付近で昇橋し、甲板手と2人で船橋当直につき、翌23日01時00分本山灯標から108度13.8海里の地点で、針路を282度に定め、機関を全速力前進にかけ、折からの東流に抗して16.0ノットの速力で、海図記載の推薦航路(周防灘航路)の右側に沿って自動操舵により、法定灯火を表示して進行した。
 01時45分B指定海難関係人は、本山灯標から142度2.3海里の地点で、甲板手に命じて手動操舵とし、下関南東水道第4号灯浮標の手前で推薦航路(下関南東水道)の右側に沿う針路に転じることとして続航した。
 B指定海難関係人は、01時55分少し前本山灯標から221度1.7海里の地点で、左舷船首14度1.5海里のところに前路を右方に横切る生福丸の白、緑2灯を初認したが、そのレーダー映像を一瞥して、小型漁船のようなので、低速力で自船の船尾方をかわるものと思い、かつ、携帯型昼間信号灯により閃光(せんこう)5回を3度ほど発して、衝突のおそれがあれば避航してくれるものと思い、その後の動静監視を十分に行わなかったので、同船の方位が右方に変化し、自船の前路を無難に横切る態勢で北上し、同時59分わずか前、生福丸の白、緑2灯を正船首550メートルに認めることができる状況で、同船が自船の前路を船間距離440メートルで航過したことに気付かなかった。
 B指定海難関係人は、01時59分少し過ぎ本山灯標から246度2.5海里の地点に達したとき、生福丸の白、緑2灯を右舷船首8度380メートルに認めることができる状況となったものの、次の針路に向けることが気になっていて、依然、動静監視不十分で、このことに気付かないまま、予定針路305度に向け操舵手に右舵10度を命じて右転を開始し、船間距離270メートルのところを北上する生福丸の前路に進出し、同時59分半には船首が297度を向いて正船首280メートルに同船の白、緑2灯に再び気付き、何とか衝突を避けるつもりで右舵一杯として回頭中、ヒュ号は、船首が330度を向き、右回頭によって速力が15ノットばかりとなり、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、生福丸は船首を損傷し、衝突の衝撃で左方に転覆し、のち宇部港に引き付けられ、ヒュ号は左舷側前部外板に擦過傷を生じた。
 また、生福丸の乗組員2人は転覆した同船の下に巻き込まれ、自力で水面に逃れたA指定海難関係人がヒュ号によって救助されたものの、O船長(昭和14年8月26日生、一級小型船舶操縦士免状受有)が溺死した。

(原因)
 本件衝突は、夜間、周防灘において、関門海峡に向け西行するヒュ号が、動静監視不十分で、無難に航過した宇部港に向け北上中の生福丸の前路に進出したことによって発生したものである。

(指定海難関係人の所為)
 B指定海難関係人が、夜間、周防灘において、関門海峡に向け西行中、前路を右方に横切る生福丸を認めた際、同船に対する動静監視を十分に行わず、無難に航過した生福丸の前路に進出したことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、勧告しない。
 A指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:36KB)





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