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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成14年門審第97号
件名

漁船豊栄丸漁船栄丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年3月20日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(橋本 學、上野延之、西村敏和)

理事官
関 隆彰

受審人
A 職名:豊栄丸船長 海技免状:二級小型船舶操縦士(5トン限定)
B 職名:栄丸船長 海技免状:二級小型船舶操縦士(5トン限定)

損害
豊栄丸・・・船首部に破口、転覆
栄丸・・・船首部から右舷中央部に掛けて断裂して水没、のち廃船
船長が両腕、頭部、顔面及び右肩を負傷

原因
豊栄丸・・・見張り不十分、行会いの航法(右側通行)不遵守
栄丸・・・見張り不十分、行会いの航法(右側通行)不遵守

主文

 本件衝突は、豊栄丸及び栄丸の両船が、真向かい又はほとんど真向かいに行き会うとき、豊栄丸が、見張り不十分で、針路を右に転じなかったことと、栄丸が、見張り不十分で、針路を右に転じなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年6月30日03時10分
 博多港

2 船舶の要目
船種船名 漁船豊栄丸 漁船栄丸
総トン数 4.8トン 4.78トン
全長 13.70メートル  
登録長   10.70メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 161キロワット 139キロワット

3 事実の経過
 豊栄丸は、主に一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.45メートル船尾1.40メートルの喫水をもって、平成13年6月29日15時10分福岡県博多漁港を発し、同県玄界島北西方17海里付近の漁場へ向かった。
 17時00分A受審人は、前示漁場に到着して操業を行い、翌30日01時50分いか約18キログラムを獲たところで操業を終え、水揚げを行うため、発航地の博多漁港へ向けて帰途に就いた。
 漁場を発進したのち、A受審人は、玄界島及び能古島の北端沖を経て、博多港西防波堤南灯台及び博多港西公園下防波堤灯台間の漁船が主に出入りする港口(以下「博多港漁船出入口」という。)へ向かい、03時08分わずか過ぎ博多港西防波堤南灯台から189度(真方位、以下同じ。)80メートルの地点に至ったとき、針路を121度に定め、機関を回転数毎分1,500の半速力前進に掛け、15.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、法定灯火を表示して、手動操舵によって進行した。
 ところで、前示博多港漁船出入口を経て博多漁港に入港するには、博多港須崎ふ頭と同港荒津石油センターふ頭間を南下したのち、福岡都市高速道路の橋梁部分として架橋された荒津大橋下を航過するのであるが、架橋地点の可航幅が、橋脚などによって約160メートルに狭められていることから、これを狭い水道又は航路筋と見なすことができるものの、それは同大橋直下の極めて限定された範囲であり、航行する際の見通しも良好であることから、豊栄丸及び同船とほぼ同型の船舶が、博多港漁船出入口を経て博多漁港に入出港する場合、それぞれの船体長及び操縦性能等を勘案するに、何等の制限を受けることもなく航行できる海域であった。
 03時09分少し過ぎA受審人は、博多港西防波堤南灯台から129度530メートルの地点で、博多漁港へ向けて針路を166度に転じたとき、正船首方580メートルのところに、栄丸が表示する白、緑、紅の3灯を視認できる状況となったが、前方を一瞥した際、行き会い船が少なかったことから、航行に支障を来す他船はいないものと思い、船首目標の荒津大橋橋梁灯を注視して針路を保つことに気を取られ、見張りを十分に行わなかったので、付近岸壁のオレンジ色をした街灯及び博多漁港魚市場の強い明かり等に紛れた栄丸が表示する灯火を見落とし、これに気付かないまま続航した。
 こうして、A受審人は、その後、栄丸が、自船と真向かい又はほとんど真向かいに行き会い、衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、依然として、見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、同船の左舷側を通過するよう針路を右に転じることなく進行中、03時10分博多港西防波堤南灯台から144度840メートルの地点において、豊栄丸の右舷船首と栄丸の右舷船首が、互いに平行に衝突した。
 当時、天候は曇で風力2の南風が吹き、視界は良好であった。
 また、栄丸は、主に小型底びき網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、博多漁港福岡中央市場で水揚げを終えたのち、空船で、船首0.6メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、同日03時06分同市場前の岸壁を発し、係留地である博多港姪浜の船溜まりへ向かった。
 B受審人は、博多漁港中央突堤先端を替わし、前示架橋地点の右側に寄って航行しようとしたところ、自船の右舷側を航過したまき網船団の運搬船(以下「さば船」という。)が引き起こした大波のため、右側に寄せることができなかったことから、03時09分少し過ぎ博多港西防波堤南灯台から148度1,050メートルの地点で、已むなく、荒津大橋の中央部付近に向首する346度の針路に定め、機関を回転数毎分1,700の半速力前進に掛け、10.0ノットの速力で、法定灯火を表示して、手動操舵によって進行した。
 定針したとき、B受審人は、正船首方580メートルのところに、豊栄丸が表示する白、緑、紅の3灯を視認できる状況となったが、同船に後続していた他の「さば船」が点灯する明るい作業灯に気を取られ、見張りを十分に行わなかったので、同作業灯の強い明かりに紛れた豊栄丸が表示する灯火を見落とし、これに気付かないまま続航した。
 こうして、B受審人は、その後、前示大波の影響により、荒津大橋架橋地点の右側に寄せることができないまま、その中央部付近を航過したところ、豊栄丸が、自船と真向かい又はほとんど真向かいに行き会い、衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、依然として、見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、同船の左舷側を通過するよう針路を右に転じることなく進行中、栄丸は、原針路、原速力で、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、豊栄丸は、船首部に破口並びに転覆して機関及び電気系統に濡損を生じたが、のち修理され、栄丸は、船首部から右舷中央部に掛けて断裂して水没し、廃船処分とされた。また、B受審人が、両腕、頭部、顔面及び右肩を負傷した。

(航法についての考察)
 本件は、夜間、博多港において、博多漁港へ入港する豊栄丸と同漁港から出港した栄丸が衝突したものであり、以下、関連する航法について検討する。
(1) 港則法 第12条、14条、15条、17条
 本件発生地点は、港則法が適用される航路内及び防波堤入口付近には当たらないことや、博多港漁船出入口を経て博多漁港に入出港する際の見通しが極めて良好であることなどから、同法の上記各条を適用して律することはできない。
(2)海上衝突予防法 第9条
 荒津大橋架橋地点の可航幅が狭まっていることから、同地点を狭い水道又は航路筋と見なして同法第9条の適用も考慮すべきであるが、本件発生地点が、豊栄丸にとっては架橋地点の手前であり、栄丸にとっては同地点を過ぎたところであることや、栄丸が、自船の右舷側を航過した「さば船」が引き起こした大波の影響を受け、架橋地点の右側に寄せることが実行に適さなかった事例であることなどから、同法第9条を適用するには合理性が稀薄であり、これを適用して律することはできない。
(3)海上衝突予防法 第14条
 豊栄丸及び栄丸の両船は、それぞれの損傷状態から、真向かい又はほとんど真向かいに行き会う態勢で衝突しており、同法第14条に規定される行き会いの関係にあったことは明白である。また、荒津大橋架橋地点の見通し状況並びに両船の船体長及び操縦性能等を勘案するに、栄丸が、荒津大橋を航過した後に見合い関係が発生したとしても、衝突地点に至るまでには、両船が互いに針路を右に転じる時間的、距離的及び水域的な余裕は十分にあったものと認められる。従って、本件は、同法第14条を適用して律するのが相当である。

(原因)
 本件衝突は、夜間、博多港内において、豊栄丸及び栄丸の両船が、真向かい又はほとんど真向かいに行き会うとき、豊栄丸が、見張り不十分で、栄丸の左舷側を通過するよう針路を右に転じなかったことと、栄丸が、見張り不十分で、豊栄丸の左舷側を通過するよう針路を右に転じなかったこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、博多港漁船出入口から博多漁港へ向けて航行する場合、同漁港からの出港船が表示する灯火を見落とすことがないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、行き会い船が少なかったことから、航行に支障を来す他船はいないものと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、陸上の強い明かり等に紛れた栄丸が表示する灯火を見落とし、その後、同船が、真向かい又はほとんど真向かいに行き会い、衝突のおそれがある態勢で接近することに気付かず、その左舷側を通過するよう針路を右に転じることなく進行して衝突を招き、自船の船首部に破口並びに転覆して機関及び電気系統に濡損を生じさせるとともに、栄丸の船首部から右舷中央部に掛けて断裂して、B受審人の両腕、頭部、顔面及び右肩を負傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、夜間、博多漁港を出港して博多港漁船出入口へ向けて航行する場合、同漁港への入港船が表示する灯火を見落とすことがないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、豊栄丸に後続して入港中の「さば船」が点灯する明るい作業灯に気を取られ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、同作業灯に紛れた豊栄丸が表示する灯火を見落とし、その後、同船が、真向かい又はほとんど真向かいに行き会い、衝突のおそれがある態勢で接近することに気付かず、その左舷側を通過するよう針路を右に転じることなく進行して衝突を招き、前示の損傷などを生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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