(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年5月5日08時50分
唐津湾
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船幸徳丸 |
漁船豊国丸 |
総トン数 |
3.96トン |
3.1トン |
全長 |
13.06メートル |
11.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
|
154キロワット |
漁船法馬力数 |
50 |
3 事実の経過
幸徳丸は、きす流しさし網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、汽笛を装備しないまま、操業の目的で、船首0.5メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成14年5月5日06時30分福岡県加布里港船越地区を発し、同県姫島西方約2海里沖合の漁場に至って操業を行った。
08時35分A受審人は、霧で視程が約700メートルになったので操業を中止し、筑前姫島港東防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から263度(真方位、以下同じ。)2.5海里の地点を発し、針路を104度に定め、機関を半速力前進にかけて10.3ノットの速力(対地速力、以下同じ。)とし、レーダーが故障していたことから、レーダーを装備した僚船の後に続いて帰途についた。
08時45分A受審人は、防波堤灯台から231度(真方位、以下同じ。)1.1海里の地点で、霧が海面近くに立ち込めていたものの、姫島187メートル頂(以下「姫島頂」という。)が視認できたことから、同島北方0.5海里付近の漁場で再び操業することとして僚船と別れ、姫島頂を目安に同漁場に向け針路を020度に転じ、同時47分少し過ぎ姫島に近付いたので7.5ノットの微速力前進に減じ、手動操舵で進行した。
ところで、A受審人は、微速力前進で航走しても船首が浮上し、操舵位置からは正船首から左舷5度、右舷10度の間に船首死角が生じるので、時々船首を左右に振るなどして同死角を補う見張りをする必要があることを知っていた。
08時48分少し前A受審人は、防波堤灯台から249度1,450メートルの地点に達したとき、正船首500メートルのところに漂泊中の豊国丸を視認することができる状況となり、その後、同船に向首し衝突のおそれのある態勢で接近したが、右舷前方の姫島頂を目安に、漁場に向けて北上することに気を取られ、船首を左右に振るなどして船首死角を補う見張りを十分に行わなかったので、豊国丸に気付かず、同船を避けることなく続航した。
A受審人は、08時49分左舷前方約250メートルに遊漁船が漂泊していることを認めたものの、依然、船首死角を補う見張りを行わないまま、原針路、原速力で進行中、08時50分防波堤灯台から268度1,200メートルの地点において、幸徳丸は、その船首が、豊国丸の左舷中央部に、後方から65度の角度で衝突した。
当時、天候は霧で風力1の北風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、海面付近の視程は約700メートルであった。
また、豊国丸は、一本釣り漁業に従事する、汽笛を備えないFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.3メートル船尾0.9メートルの喫水をもって、同月5日06時30分姫島漁港を発し、姫島の南西方約500メートル沖合の漁場に至って、時々漁場を移動しながら一本釣りを行った。
08時30分B受審人は、衝突地点付近に移動して、機関を中立運転として漂泊し、後部甲板に立ち、右舷側から釣り竿を出して一本釣りを続けた。
08時48分少し前B受審人は、船首が315度に向いたとき、左舷船尾65度500メートルのところに北上する幸徳丸を視認でき、その後、自船に向首し衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったが、航行中の他船が漂泊中の自船を避けてくれるものと思い、右舷正横方を向いて釣りを続け、周囲の見張りを十分に行わなかったので、同船に気付かなかった。
B受審人は、依然、見張り不十分で、避航の気配を示さないまま接近する幸徳丸に対し、笛を吹くなど避航を促す有効な音響信号を行わず、更に接近したとき、機関を使用して衝突を避けるための措置をとることもなく漂泊を続け、同時50分わずか前左舷船尾至近に迫った幸徳丸を初めて認め、衝突の危険を感じて機関を後進にかけたものの、効なく、豊国丸は、315度を向いて漂泊したまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、幸徳丸は、右舷船首に擦過傷を生じ、豊国丸は左舷側中央部外板に亀裂を生じ、機関室に浸水して機関等に濡損を生じたが、のち、いずれも修理され、A受審人が右手小指を脱臼した。
(原因)
本件衝突は、唐津湾姫島南西方沖合において、幸徳丸が、同島北側の漁場に向け北上する際、見張り不十分で、前路で漂泊している豊国丸を避けなかったことによって発生したが、豊国丸が、見張り不十分で、避航を促す有効な音響信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、唐津湾姫島南西方沖合において、船首浮上により船首に死角が生じた状態で航行する場合、前路で漂泊中の豊国丸を見落とさないよう、船首を左右に振るなどして死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、右舷前方の姫島頂を目安に、同島北側の漁場に向けて北上することに気を取られ、死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で漂泊中の豊国丸に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、自船の右舷船首に擦過傷を、豊国丸の左舷側中央部外板に亀裂及び機関等に濡損をそれぞれ生じさせ、自らが右手小指を脱臼するに至った。
B受審人は、唐津湾姫島南西方沖合において、一本釣りを行いながら漂泊する場合、接近する他船を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、航行中の他船が漂泊中の自船を避けてくれるものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれのある態勢で接近する幸徳丸に気付かず、避航を促す有効な音響信号を行うことも、更に接近したとき、機関を使用して衝突を避けるための措置をとることもなく漂泊を続け、幸徳丸との衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。