(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年6月7日10時45分
福岡県大島西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
押船第三十八金栄丸 |
バージ第三十八金栄丸 |
総トン数 |
127トン |
約4,412トン |
全長 |
26.51メートル |
91.00メートル |
幅 |
21.00メートル |
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深さ |
7.50メートル |
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機関の種類 |
ディーゼル機関 |
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出力 |
1,471キロワット |
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船種船名 |
貨物船ナムサン ウジョン |
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総トン数 |
498トン |
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全長 |
53.05メートル |
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機関の種類 |
ディーゼル機関 |
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出力 |
809キロワット |
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3 事実の経過
第三十八金栄丸は、非自航型バージと一体となり、海砂輸送に従事する押船で、A受審人ほか5人が乗り組み、船首3.20メートル船尾4.60メートルの喫水をもって、海砂3,000立方メートルを積み、船首5.50メートル船尾6.00メートルとなった被押バージ第三十八金栄丸の船尾凹部に船首部を嵌合(かんごう)して全長約104メートルの押船列(以下第三十八金栄丸を「金栄丸」、被押バージ第三十八金栄丸を「バージ」、両船を総称するときには「金栄丸押船列」という。)を構成し、平成13年6月7日08時25分長崎県壱岐島海豚埼灯台から129度(真方位、以下同じ。)2.9海里の地点を発し、福岡県苅田港に向かった。
A受審人は、平素から日中の航海中や海砂採取作業中の船橋当直に当たっていたので、抜錨後も引き続き単独の船橋当直に就いて玄界灘を東行し、09時03分烏帽子島灯台から296度3.0海里の地点で、針路を061度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて13.8ノットの対地速力で、関門海峡西口に向け進行した。
ところで、金栄丸押船列は、バージ前部及び後部の甲板上にディスチャージャーなどの荷役設備をバージの幅ほぼ一杯に設置していたので、金栄丸の中央部に設けた幅約6メートルの船橋に立って見張りに当たると、操舵室内から前方を見ても、左右両ウイングに出て前方を見ても、これらの設備に視界を妨げられて死角を生じることから、A受審人は、専らレーダーを使用して死角を補う見張りを行っていた。
定針したあと、A受審人は、操舵室に立ち、1.5海里レンジとしたレーダーを使用して見張りを続けていたところ、間もなく乗組員が船首部など、金栄丸やバージの甲板上で整備作業を始めたことから、同作業の様子を眺めつつ、続航した。
10時40分A受審人は、筑前大島灯台から256度4.8海里の地点に達したとき、ほぼ正船首2.0海里のところにほとんど真向かいに行き会うナムサン ウジョン(以下「ナ号」という。)を視認でき、その後衝突のおそれがある態勢で接近するのを認め得る状況であったが、同じレンジとしたままのレーダーで前方を確認し、同画面に他船が映っていなかったことから、前路に他船はいないものと思い、適宜長距離レンジに切り替えてレーダーを適切に使用するなど、前方の死角を補う見張りを十分に行わなかったので、この状況に気付かず、同船の左舷側を通過できるよう、速やかに針路を右に転じることなく、右舷ウイングに移動し、その真下の甲板で塗装作業を行っていた一等機関士に同作業の指示をするなどして進行した。
A受審人は、10時44分半バージの船首部で作業を行っていた二等航海士がナ号の接近に気付き、その旨を大声で報告してきたので目線を低くして前方を見たところ、荷役設備下方の隙間から至近に迫った同船の船首を認め、操舵室中央の舵輪に駆け寄って右舵一杯をとり、機関を全速力後進にかけたが、及ばず、10時45分筑前大島灯台から261度3.6海里の地点において、金栄丸押船列は、064度に向首したとき、原速力のまま、バージの左舷船首が、ナ号の船首に前方から2度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北北西風が吹き、潮候は下げ潮の初期にあたり、視界は良好であった。
また、ナ号は、朝鮮民主主義人民共和国と日本の諸港間に就航する船尾船橋型貨物船で、船長Kほか14人が乗り組み、中古自動車など86トンを載せ、船首1.80メートル船尾3.10メートルの喫水をもって、同月6日17時00分山口県長府港を発し、関門海峡を通過して同県六連島東方の検疫錨地に至り、19時20分同検疫錨地に錨泊し、翌7日07時40分抜錨して朝鮮民主主義人民共和国南浦港に向かった。
ところで、ナ号は、中古自動車のうち、大型アルミバントラック2台を、船首楼直後のハッチ上に運転席を後方に向け左右に並べた状態で載せていたことから、操舵室右舷側壁際に置いた、床面からの高さ60センチメートルのいすに腰を掛けて見張りに当たると同トラックによって前方の見通しが妨げられ、正船首から右舷5度及び左舷12度の範囲に死角を生じるので、K船長は、立ち上がって左右両ウイングに出たり、レーダーを活用するなど、前方の死角を補う見張りを行っていた。
K船長は、専ら操舵室右舷側壁際のいすに腰を掛け、甲板員1人を補佐に就けて船橋当直に当たり、時折前方の死角を補う見張りを行いながら九州北岸沿いに西行し、10時15分筑前大島灯台から025度2.0海里の地点に達したとき、針路を242度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて10.0ノットの対地速力で進行した。
10時35分K船長は、左右両ウイングに出て周囲を確認し、前方に他船を認めなかったので、そのあと操舵室右舷側壁際の前示いすに腰を掛け、窓枠に右手を置いた姿勢で、右舷方の見張りに当たり、甲板員には左舷方の見張りを行わせ、前方の死角を補う見張りを十分に行わないで続航した。
K船長は、10時40分筑前大島灯台から266度2.9海里の地点に達したとき、ほぼ正船首2.0海里のところにほとんど真向かいに行き会う金栄丸押船列を視認でき、その後衝突のおそれがある態勢で接近するのを認め得る状況であったが、依然同じ姿勢で見張りに当たり、前方の死角を補う見張りを十分に行っていなかったので、この状況に気付かず、同船の左舷側を通過できるよう、速やかに針路を右に転じることなく進行中、ナ号は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、バージは、左舷船首外板に凹損などを、ナ号は、船首部に圧壊をそれぞれ生じ、ナ号の一等航海士Iが骨盤骨折などを負った。
(原因)
本件衝突は、福岡県大島西方の玄界灘において、金栄丸押船列とナ号とが、ほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがあった際、金栄丸押船列が、見張り不十分で、針路を右に転じなかったことと、ナ号が、見張り不十分で、針路を右に転じなかったこととによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、福岡県大島西方の玄界灘において、単独の船橋当直に当たって関門海峡西口に向け東行する場合、金栄丸の船橋で見張りに当たると、バージの荷役設備に前方の見通しが妨げられて死角が生じていたのだから、ほとんど真向かいに行き会う態勢で接近する他船を見落とすことがないよう、適宜長距離レンジに切り替えてレーダーを適切に使用するなど、前方の死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、短距離レンジとしたレーダーで前方を確認し、同画面に他船が映っていなかったことから、前路に他船はいないものと思い、適宜長距離レンジに切り替えてレーダーを適切に使用するなど、前方の死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、ほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがある態勢で接近するナ号に気付かず、速やかに針路を右に転じることなく進行して同船との衝突を招き、バージの左舷船首外板に凹損などを、ナ号の船首部に圧壊をそれぞれ生じさせ、ナ号の一等航海士に骨盤骨折などを負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同受審人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。