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平成14年門審第136号
件名

漁船竜翔丸漁船第二裕章丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年3月10日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(島 友二郎、河本和夫、橋本 學)

理事官
畑中美秀

受審人
A 職名:竜翔丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士 
B 職名:第二裕章丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
竜翔丸・・・左舷船首部外板に破口
裕章丸・・・左舷後部外板に破口、転覆、のち廃船
船長が脛骨骨折

原因
竜翔丸・・・見張り不十分、船員の常務(新たな危険)不遵守(主因)
裕章丸・・・動静監視不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、竜翔丸が、見張り不十分で、無難に航過する態勢の第二裕章丸に対し、新たな衝突のおそれを生じさせたばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、第二裕章丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年11月28日10時10分
 山口県萩港沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船竜翔丸 漁船第二裕章丸
総トン数 4.8トン 0.6トン
登録長 11.98メートル 6.55メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 90 20

3 事実の経過
 竜翔丸は、7月から翌年3月にかけては主に一本釣り漁業に従事し、3月から7月にかけては農作物運搬などの用に供する、船体後部に操舵室を設けたFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、すいか栽培用竹杭3,000本を積載し、船首0.40メートル船尾1.00メートルの喫水をもって、平成13年11月28日10時00分山口県萩港中小畑地区を発し、同県相島漁港に向かった。
 10時04分少し過ぎA受審人は、萩港浜崎北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)から037度(真方位、以下同じ。)10メートルの地点で、針路を相島に向く307度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進に掛け、13.0ノットの対地速力で進行した。
 10時07分少し前A受審人は、北防波堤灯台から307.5度1,000メートルの地点に達したとき、右舷船首20度1.0海里のところに、南下する第二裕章丸(以下「裕章丸」という。)を視認できたが、定針したとき右舷前方を一瞥して、他船を認めなかったことから、右舷側には航行に支障のある船舶はいないものと思い、折からの南西風に伴うしぶきにより見通しが悪かった左舷前方の見張りに気をとられ、右舷前方の見張りを十分に行っていなかったので、同船に気付かないまま続航した。
 10時09分半少し前A受審人は、北防波堤灯台から307度1,980メートルの地点に至ったとき、裕章丸が、右舷船首16度400メートルに接近し、そのまま進行すれば、同船の船尾側を無難に航過できる態勢であったが、依然、見張り不十分で同船に気付かず、船首を風浪に立てるため、針路を297度に転じたところ、裕章丸と新たな衝突のおそれを生じさせたものの、このことに気付かず進行した。
 こうして、A受審人は、機関を停止するなどの衝突を避けるための措置をとらないまま続航中、10時10分北防波堤灯台から306度2,280メートルの地点において、竜翔丸は、原速力のまま、その船首が、裕章丸の左舷船尾部に、前方から67度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力3の南西風が吹き、視界は良好であった。
 また、裕章丸は、一本釣り漁業に従事する、船体後部に操舵区画を設けたFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.40メートル船尾0.80メートルの喫水をもって、同日08時00分山口県玉江漁港を発し、萩港沖合の肥島及び羽島付近の漁場に向かった。
 B受審人は、前示漁場で操業を行ったが、釣果が上がらなかったことから帰途につくこととし、09時59分半少し過ぎ羽島の三角点(22メートル)から135度400メートルの地点を発進し、針路を大瀬鼻に向く184度に定め、機関を全速力前進に掛け、8.5ノットの対地速力で手動操舵によって進行した。
 発進後、B受審人は、操舵区画で前方に向いて立ち、左手で舵棒を操作しながら当直を続け、10時07分少し前北防波堤灯台から320.5度2,810メートルの地点に達したとき、左舷船首37度1.0海里のところに、西行中の竜翔丸を視認し、その後、同船の動静監視を続けながら続航した。
 10時09分半少し前B受審人は、北防波堤灯台から310度2,390メートルの地点に至ったとき、左舷船首41度400メートルのところに竜翔丸を認め、その方位が後方に変化していたことから、自船の船尾を無難に航過するものと思い、その後の動静監視を十分に行わないまま進行した。
 こうして、B受審人は、その直後に竜翔丸が左転を行い、新たな衝突のおそれを生じさせて接近する状況になったことに気付かず、機関を停止するなど衝突を避けるための措置をとることなく続航中、裕章丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、竜翔丸は左舷船首部外板に破口を生じたが、のち修理され、裕章丸は左舷後部外板に破口を生じて転覆し、僚船により玉江漁港に引き付けられたが、のち廃船処分された。
 また、転覆時、B受審人が海上に投げ出され、竜翔丸に救助されたものの、73日間の入院治療を要する脛骨骨折を負った。

(原因)
 本件衝突は、山口県萩港沖合において、西行中の竜翔丸が、船首を風浪に立てるために左転する際、見張り不十分で、無難に航過する態勢で南下中の裕章丸に対して、新たな衝突のおそれを生じさせたばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、裕章丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、山口県萩港沖合において西行中、船首を風浪に立てるために左転する場合、南下する裕章丸を見落とすことがないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、定針時に右舷前方を一瞥して他船を認めなかったことから、右舷側には航行の支障になる船舶はいないものと思い、折からの南西風に伴うしぶきにより見通しが悪かった左舷前方の見張りに気をとられ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、無難に航過する態勢で南下中の裕章丸に気付かず、同船の進路方向に転針し、同船に対して新たな衝突のおそれを生じさせたばかりか、機関を停止するなど衝突を避けるための措置をとらないまま進行して衝突を招き、竜翔丸の左舷船首部外板に破口を、裕章丸の左舷後部外板に破口をそれぞれ生じさせ、裕章丸を転覆させてB受審人に脛骨骨折を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。
 B受審人は、山口県萩港沖合において南下中、左舷前方に西航する竜翔丸を認めた場合、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、竜翔丸の方位が後方に変化していたことから、自船の船尾を無難に航過するものと思い、その動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船が左転を行い、新たな衝突のおそれを生じさせて接近する状況になったことに気付かず、機関を停止するなど衝突を避けるための措置をとることなく進行して衝突を招き、前示の損傷を生じさせ、自らも負傷するに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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