(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年9月14日22時05分
宮崎県青島漁港北東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第三幸栄丸 |
プレジャーボートエリカ |
総トン数 |
4.97トン |
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全長 |
12.40メートル |
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登録長 |
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6.95メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
33キロワット |
8キロワット |
3 事実の経過
第三幸栄丸(以下「幸栄丸」という。)は、いせえび磯建網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、友人1人を乗せ、操業の目的で、船首0.30メートル船尾1.25メートルの喫水をもって、平成14年9月14日20時40分宮崎県青島漁港を発し、同漁港北東方沖合6海里の漁場に向かい、操業を行ったのち、21時58分日向青島灯台から050.5度(真方位、以下同じ。)5.5海里の地点を発進し、航行中の動力船の灯火を表示して帰途に就いた。
発進と同時に、A受審人は、針路を230度に定め、機関を全速力前進の回転数毎分2,500にかけて14.0ノットの対地速力で、手動操舵によって進行した。
A受審人は、操舵室の左舷寄りに立ち、同室中央の舵輪を右手で握って操船に当たり、22時01分正船首わずか右1,700メートルのところにエリカが表示する白灯及び作業灯に照らされた船体を視認できる状況であったが、同じころ正船首1海里ばかりに認めた、甲板上に多数の明かりを点けたうえ、点灯した水中灯を海中に吊り下げて船体全体及びその周辺海域が明るい第三船に気を奪われてエリカの白灯も、船体も見落とし、法定の灯火を掲げて錨泊している同船の存在に気付かないまま、第三船の右舷側を航行することとして、針路を235度に転じ、第三船を注視して続航した。
22時03分A受審人は、日向青島灯台から050度4.4海里の地点に達したとき、針路を230度に戻したところ、エリカが正船首860メートルとなり、その後同船に衝突のおそれがある態勢で接近したが、依然第三船に気を奪われ、見張りを十分に行わなかったので、エリカの存在にも、同船が操舵室天井後端の作業灯により船尾付近の海面を照らして注意喚起を行ったことにも気付かないで、同船を避けることなく進行中、22時05分日向青島灯台から050度4.0海里の地点において、幸栄丸は、原針路、原速力のまま、その左舷船首が、エリカの右舷中央部に後方から14度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力1の南西風が吹き、潮候は上げ潮の末期で、視界は良好であった。
また、エリカは、船体中央部に操舵室を有するFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、魚釣りの目的で、船首0.1メートル船尾0.9メートルの喫水をもって、同日11時00分宮崎県宮崎市大淀川河口南側の津屋原沼にある係留地を発し、同河口東方沖合3海里の釣り場に向かった。
B受審人は、大淀川河口沖合からトローリングを始めて12時00分ごろ目的の釣り場に至り、その後南北方向に往復してトローリングを行ったのち、17時00分前示衝突地点に移動し、南西方に向首して機関を中立運転とし、船首から重さ10キログラムの錨を水深18メートルの海底に投じ、合成繊維製錨索を60メートル延出して錨泊したのち、左舷船尾に釣り竿2本を設置したうえ、釣り竿を持って右舷船尾に置いたいすに座り、船尾方を向いていさき釣りを始めた。
B受審人は、日没時、操舵室上の、甲板からの高さ2.5メートルのマスト頂部に錨泊中であることを表示する白色全周灯を、同室前部及び天井後端の、甲板からの高さ1.8メートルのところに、照射方向を変えることができる660ワット防雨型白色作業灯をそれぞれ点け、両作業灯を真下に向けて甲板上を照らした状態で釣りを続けた。
22時03分B受審人は、船首が244度を向き、同じ姿勢で釣りを行っていたとき、顔を上げて右舷後方を見たところ、右舷船尾14度860メートルのところに幸栄丸の白、緑、紅3灯を視認し、同船が自船に向首し衝突のおそれがある態勢で接近することを知ったので、操舵室天井後端作業灯の照射方向を少し変えて船尾付近の海面を照らし、幸栄丸に対して注意喚起を行ったあと、同船から目を離し、そろそろ帰港することとして釣り竿の片付けに取り掛かった。
B受審人は、その後幸栄丸が避航動作をとらないで更に接近したが、作業灯で船尾付近の海面を照らして注意喚起を行ったことから、そのうち幸栄丸が自船を避けるものと思い、幸栄丸が避航動作をとるかどうか判断できるよう、引き続き同船に対する動静監視を十分に行わなかったので、このことに気付かず、直ちに中立運転としていた機関を使用して移動するなど、衝突を避けるための措置をとることなく錨泊中、22時05分わずか前ふと右舷方を見たところ至近に幸栄丸を認めたが、何をする間もなく、エリカは、244度に向首したまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、幸栄丸は、左舷船首部外板に擦過傷を生じ、エリカは、右舷中央部外板及び操舵室などに損傷を生じて自力航行ができず、幸栄丸によって青島漁港に向けて曳航される途中、沈没した。
(原因)
本件衝突は、夜間、宮崎県青島漁港北東方沖合において、西行中の幸栄丸が、見張り不十分で、前路で錨泊中のエリカを避けなかったことによって発生したが、エリカが、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、宮崎県青島漁港北東方沖合において、操業を終えて同港に向け西行する場合、前路の他船の灯火を見落とすことがないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、多数の明かりを点けて船体全体及び周辺海域が明るい第三船に気を奪われ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で錨泊中のエリカの白灯も、作業灯に照らされた船体も見落とし、その存在に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、幸栄丸の左舷船首部外板に擦過傷を、エリカの右舷中央部外板及び操舵室などに損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
B受審人は、夜間、宮崎県青島漁港北東方沖合において、釣りのため錨泊中、右舷後方に幸栄丸の灯火を認め、同船が衝突のおそれがある態勢で接近することを知り、作業灯で船尾付近の海面を照らして注意喚起を行った場合、幸栄丸が避航動作をとるかどうか判断できるよう、引き続いて同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、そのうち幸栄丸が自船を避けるものと思い、引き続き幸栄丸に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船が更に接近したとき中立運転としていた機関を使用して移動するなど、衝突を避けるための措置をとることなく錨泊を続けて同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。