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平成15年広審第10号
件名

貨物船第六万栄丸漁船大智丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年3月27日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(高橋昭雄、西田克史、佐野映一)

理事官
横須賀勇一

受審人
A 職名:第六万栄丸一等航海士 海技免状:六級海技士(航海)
B 職名:大智丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
万栄丸・・・右舷船首部外板に擦過傷
大智丸・・・船首から右舷側外板に擦過傷

原因
万栄丸・・・見張り不十分、各種船間の航法(避航動作)不遵守(主因)
大智丸・・・警告信号不履行、各種船間の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第六万栄丸が、見張り不十分で、漁ろうに従事していることを示す形象物を表示しないまま揚網のため停留状態の大智丸を避けなかったことによって発生したが、大智丸が、有効な音響信号を行う装置の整備不十分で、避航を促す警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年3月18日10時20分
 瀬戸内海安芸灘

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第六万栄丸 漁船大智丸
総トン数 198トン 4.95トン
全長 47.20メートル 12.60メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 441キロワット  
漁船法馬力数   15

3 事実の経過
 第六万栄丸(以下「万栄丸」という。)は、苛性ソーダの運搬に従事する鋼製貨物船で、船長F及びA受審人ほか1人が乗り組み、空倉のまま、船首0.80メートル船尾2.60メートルの喫水をもって、平成14年3月18日09時40分広島県呉港広区を発し、山口県徳山下松港に向かった。
 ところで、万栄丸は、当時徳山下松港を積地とする短期航海の運航に供され、積荷が危険物であることから夜間荷役は行われず、入航時間によっては港外での仮泊或いは着桟しても翌朝から荷役が行われることが多く、当航海も前日17日港外で仮泊後、翌18日朝着桟して揚荷が行われた。
 F船長は、船橋当直を一等航海士との単独3時間ないし4時間の2交替制で行い、いつものように出航操船に引き続いて船橋当直にあたり、09時49分倉橋島亀ケ首東端から007度(真方位、以下同じ。)5.2海里の地点で、針路を179度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて9.5ノットの速力で進行した。
 一方、A受審人は、10時ころ出航作業を終わるとビ−ル1缶と朝食を摂ったのち、同時07分亀ケ首北東方約2.4海里付近で昇橋して当直中のF船長と交替し、船橋前部のコンパススタンドとコンソ−ル盤との間に立った姿勢で見張りにあたりながら倉橋島東岸沖を南下した。
 ところが、A受審人は、朝食直後の単独当直であったが、特に食後の生理現象による眠気などで一時的に見張りに対する集中力を欠いた状態に陥るおそれがあり、しかも小型漁船の操業水域を航行中でもあったから、前路の漁船を見落とすことのないよう、特に前方に対する見張りを十分に行う必要があった。しかし、立った姿勢で当直を行っていたものの、一見付近には他船も見当たらない状況でコンソ−ル盤に寄りかかった姿勢で当直を続けているうち、次第に集中力を欠いた状態になって見張りがおろそかになり、10時15分前路約1,500メートルに停留状態で漁ろうに従事していることを表示する所定の形象物を掲げないまま揚網のため停留状態の大智丸を認めることができ、その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、これに気付かず、同船を避けないまま続航し、10時20分倉橋島亀ケ首東端から045度1,800メートルの地点において、万栄丸は、原針路、原速力のまま、その右舷前部と大智丸の右舷側とがほぼ平行した状態で衝突した。
 当時、天候は曇で風力3の南西風が吹き、視界は良好であった。
 その後、A受審人は、衝突したことに気付かず当直を続け、衝突の約30分後に海上保安部から連絡を受けて大智丸との衝突を知り、事後の措置にあたった。
 また、大智丸は、船体中央部に操舵室とその後方オーニングが張られた後部甲板にネットホーラが配された底びき網漁に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.6メートル船尾0.8メートルの喫水をもって、同18日05時過ぎ根拠地である広島県倉橋漁港を発し、倉橋島亀ケ首東方沖の漁場に至って操業を開始した。
 ところで、大智丸は、当時漁ろう中の所定の形象物を以前に強風で紛失したまま代替を備えず、また有効な音響信号を行う装置として装備していたモーターホーンのスイッチが1ヶ月程前から不良状態であったが、新替するつもりであったことやそれまでの経験から信号を吹鳴する事態に遭遇したことがほとんどなくその重要性の認識が薄かったことから、同装置の整備を十分に行っていなかった。
 B受審人は、漁ろうに従事していることを示す形象物を表示しないまま操業を続け、08時30分鹿老渡島東方0.7海里沖に至って船首を北東方に向け、その後倉橋島東岸に近づく予定で少しづつ左方に針路を変えながら機関を微速力前進にかけ2.3ノットのえい網速力で3回目のえい網を始め、操舵室で見張りながら手動操舵で操業を続けた。
 ところが、10時10分B受審人は、亀ケ首東端から055度約1,500メートルの地点に至ったところで、針路を359度に定めてえい網を続け、同時15分前示衝突地点付近で機関を中立にして揚網を始めたとき、船首方約1,500メートルに万栄丸を初めて認め、その後同船が衝突のおそれがある態勢で接近する状況を認めるようになり、同時19分船首約300メートルに同船が接近して衝突の危険を感じ、同船に対して避航を促すために警告信号を行おうとしてモーターホーンの吹鳴を試みたがそのスイッチが不良で鳴らず、慌てて黄色回転灯のスイッチを入れたものの効なく、身の危険を感じて左舷側から海中に飛び込んだのち、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、万栄丸は右舷船首部外板に擦過傷を生じ、また大智丸は船首から右舷側にかけての外板に擦過傷及びオーニング支柱等に曲損を生じてのち修理された。

(原因)
 本件衝突は、安芸灘西部倉橋島東岸沖合において、南下する第六万栄丸が、見張り不十分で、漁ろうに従事していることを示す形象物を表示しないまま揚網のため停留状態の大智丸を避けなかったことによって発生したが、大智丸が、有効な音響信号を行う装置の整備不十分で、接近する第六万栄丸に対して避航を促す警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、倉橋島東岸沖の小型漁船等が操業する海域を南下する際、朝食直後に単独で船橋当直にあたる場合、食後の生理現象による眠気などで一時的に集中力を欠く状態に陥るおそれがあったから、前路で所定の形象物を表示しないまま揚網のため停留状態の漁船を見落とさないよう、特に前方に対する見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、当直に就いた時点で付近に漁船など他船を見かけなかったことと缶ビ−ルも摂った食後であったので、次第に見張りに対する集中力を欠いた状態で当直を続け、前方に対する見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で所定の形象物を表示しないまま揚網のため停留状態の大智丸に気付かず、これを避けないまま進行して、大智丸との衝突を招き、第六万栄丸の右舷船首部外板に擦過傷、及び大智丸の船首から右舷側にかけての外板に擦過傷とオーニング支柱等の曲損をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、漁場に向け発航する場合、装備の信号装置が不良状態であったから、特に容易には動きの取れない漁ろうに従事中に衝突のおそれがある態勢のまま接近する航行中の動力船に対して避航を促すための信号を行うことができるよう、同信号装置の整備を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、それまでの経験で漁ろうに従事していることを示す形象物も表示しないまま操業中に信号を吹鳴する事態に遭遇したことがまれで信号の重要性の認識が薄くまた同装置の新替も考慮していたことから、その整備を十分に行わなかった職務上の過失により、衝突直前に警告信号吹鳴の事態に直面しながらそのスイッチが不良状態で信号の吹鳴が行えず、第六万栄丸との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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