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平成14年広審第126号
件名

貨物船第十二平和丸漁船飛鳥丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年3月27日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(竹内伸二、西田克史、佐野映一)

理事官
岩渕三穂

受審人
A 職名:第十二平和丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
C 職名:飛鳥丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:第十二平和丸機関長

損害
平和丸・・・右舷船首部外板に塗装剥離
飛鳥丸・・・船首部を圧壊
船長が顔面に打撲傷

原因
平和丸・・・見張り不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
飛鳥丸・・・見張り不十分、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第十二平和丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る飛鳥丸の進路を避けなかったことによって発生したが、飛鳥丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Cを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年6月20日07時20分
 佐田岬南東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第十二平和丸 漁船飛鳥丸
総トン数 402トン 3.3トン
全長 60.50メートル  
登録長   9.18メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット  
漁船法馬力数   70

3 事実の経過
 第十二平和丸(以下「平和丸」という。)は、船尾船橋型の砂利採取運搬船で、A受審人、B指定海難関係人ほか3人が乗り組み、石材1,100トンを積載し、船首2.90メートル船尾4.60メートルの喫水をもって、平成13年6月19日08時50分兵庫県家島諸島男鹿島の砕石積み地を発し、愛媛県宇和島市下波柿ノ浦の工事現場に向かった。
 ところで、A受審人は、船橋当直を自らと一等航海士、機関長及び甲板員の4人による単独2時間の4直制とし、航海中の非直時は操舵室左舷後方のカーテンで仕切られたソファーで休息することにしていた。
 翌20日07時00分船橋当直中のA受審人は、佐田岬の西北西方約1,500メートルの地点に達し、同岬南方の海域を見通すことができるようになり、佐田岬南東方の陸岸寄りとその南方沖合に漁船群をそれぞれ視認し、それらの多数の漁船が操業している海域を航行する状況であったが、そのころ昇橋した無資格のB指定海難関係人に佐田岬沖合の漁船群に気を付けるよう告げ、前路の見張りを十分に行うよう指示しないまま、操舵室のソファーで休息しているので何かあれば直ぐに対応できるものと思い、引き続き自ら操船することなく、B指定海難関係人にその後の船橋当直を単独で行わせた。
 船橋当直に就いたB指定海難関係人は、07時07分少し前佐田岬灯台から243度(真方位、以下同じ。)1.1海里の地点で、GPSプロッタの画面上に設定された予定針路線に沿って転針し、針路を日振島の島影を右舷船首方に見る119度に定め、機関を回転数毎分330の全速力前進にかけ、8.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で自動操舵により進行した。
 B指定海難関係人は、距離が近い左舷方の漁船群に留意しながら続航し、07時16分佐田岬灯台から176度1.1海里の地点に達したとき、右舷船首8度1,570メートルに飛鳥丸を認めることができ、その後同船が前路を左方に横切る態勢で接近する状況であったが、左舷方の漁船群に気を取られ、前路の見張りを十分に行わなかったので、同船に気付かず、そのことをA受審人に報告しなかった。
 一方、休息中のA受審人は、B指定海難関係人から何の報告もなかったので、飛鳥丸が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、同船の進路を避けることができないまま続航した。
 07時20分わずか前B指定海難関係人は、ふと船首方を見たところ、右舷船首間近に飛鳥丸を初めて認め、衝突の危険を感じ大声を出しながら自動操舵のまま左舵をとったものの及ばず、07時20分佐田岬灯台から156度1.5海里の地点において、平和丸は、109度に向首したとき、原速力のまま、その右舷船首部に、飛鳥丸の船首が前方から31度の角度で衝突した。
 A受審人は、B指定海難関係人の大声を聞いてソファーから起き上がり操舵室右舷側窓際に近寄ったところ、右舷船尾方至近に飛鳥丸を認めて同船との衝突を知り、直ちに機関を停止して事後の措置にあたった。
 当時、天候は曇で風力3の北北西風が吹き、視界は良好で、速吸瀬戸には約2ノットの北流があった。
 また、飛鳥丸は、有効な音響を発する信号装置などを装備しないはえなわ漁業に従事するFRP製漁船で、C受審人が1人で乗り組み、たい釣りの目的で、船首0.4メートル船尾1.4メートルの喫水をもって、同日04時30分愛媛県三崎港を発し、佐田岬南東方沖合約2海里の漁場に向かった。
 05時00分C受審人は、前示の漁場に至り、水深約65メートルの瀬でたい釣りを行ったが、釣果が芳しくなかったので、佐田岬北方沖合の漁場に移動してひらめ釣りを行うことにした。
 漁場を発進したC受審人は、07時14分佐田岬灯台から152度1.9海里の地点で、針路を佐田岬灯台の南南西方約650メートル沖合にある黄金碆上の標柱を正船首わずか右に見る320度に定め、機関を回転数毎分700の半速力前進にかけ、5.0ノットの速力で自動操舵により進行した。
 定針したとき、C受審人は、船首方をいちべつしただけで、前路に他船はいないものと思い、右舷船尾の甲板に座り右舷船尾方を向いてひらめ釣りの道具を作り始めた。
 07時16分C受審人は、佐田岬灯台から153度1.8海里の地点に達したとき、左舷船首13度1,570メートルに平和丸を認めることができ、その後同船が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、ひらめ釣りの道具を作る作業に気を取られ、前路の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、同船が避航動作をとらないまま間近に接近した際、機関を中立にするなどの衝突を避けるための協力動作をとらないまま続航した。
 C受審人は、依然として道具作りに専念して進行中、飛鳥丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、平和丸は、右舷船首部外板に塗装剥離を生じただけで、飛鳥丸は、船首部を圧壊したがのち修理され、C受審人が、顔面に打撲傷を負った。

(原因)
 本件衝突は、佐田岬南東方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、平和丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る飛鳥丸の進路を避けなかったことによって発生したが、飛鳥丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 平和丸の運航が適切でなかったのは、多数の漁船が操業している海域を航行する際、船長が自ら操船にあたらなかったばかりか無資格の船橋当直者に前路の見張りを十分に行うよう指示しなかったことと、無資格の船橋当直者が、前路の見張りを十分に行わなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、佐田岬南東方沖合において、多数の漁船が操業している海域を航行する場合、次直の無資格者に単独で船橋当直を行わせず、引き続き自ら操船するべき注意義務があった。しかし、同人は、漁船に気を付けるよう告げ、操舵室後方のソファーで休息しているので何かあれば直ぐに対応できるものと思い、自ら操船しなかった職務上の過失により、無資格者に単独で船橋当直を行わせて飛鳥丸との衝突を招き、平和丸の右舷船首部外板に塗装剥離を生じさせ、飛鳥丸の船首部を圧壊させるとともに、C受審人の顔面に打撲傷を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C受審人は、佐田岬南東方沖合において、漁場を移動する場合、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する平和丸を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、船首方をいちべつしただけで他船はいないものと思い、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、平和丸に気付かず、機関を中立にするなどの衝突を避けるための協力動作をとらないまま進行して同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるとともに、自ら打撲傷を負うに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、佐田岬南東方沖合において、単独の船橋当直に就いて多数の漁船が操業している海域を航行中、前路の見張りを十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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