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平成14年広審第132号
件名

貨物船第一トクヤマ貨物船江和丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年3月20日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(竹内伸二、勝又三郎、西林 眞)

理事官
雲林院信行

受審人
A 職名:第一トクヤマ船長 海技免状:三級海技士(航海)
B 職名:江和丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
C 職名:江和丸二等航海士 海技免状:一級海技士(航海)

損害
トクヤマ・・・左舷船首部外板に凹損
江和丸・・・ボートデッキ右舷側及び右舷船尾ブルワークに凹損

原因
トクヤマ・・・追い越しの航法(避航動作)不遵守
江和丸・・・追い越しの航法(協力動作)不遵守

主文

 本件衝突は、来島海峡航路を出て西行中の第一トクヤマ及び江和丸の両船が、同航路西口に向かって東行中の第3船と接近した際、江和丸を追い越す態勢の第一トクヤマが、速やかに追い越しを中止して江和丸との船間距離を十分に確保しなかったことと、江和丸が、動静監視不十分で、減速若しくは行きあしを止める措置をとらず、第一トクヤマの前路に向けて転針したこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Cを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年7月4日03時24分
 瀬戸内海 来島海峡西口

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第一トクヤマ 貨物船江和丸
総トン数 4,381トン 2,473トン
全長 110.02メートル 91.93メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 3,603キロワット 2,647キロワット

3 事実の経過
 第一トクヤマ(以下「トクヤマ」という。)は、可変ピッチプロペラ及び最大舵角70度のシリングラダーを装備した船尾船橋型セメント運搬船で、山口県徳山下松港から国内各地にセメントをばら積み輸送していたところ、A受審人ほか9人が乗り組み、空倉のまま、船首2.60メートル船尾5.35メートルの喫水をもって、平成14年7月3日17時35分神戸港を発し、徳山下松港に向かった。
 A受審人は、船橋当直を4時間交替の2人当直制とし、自らは当直に入らず、出入港及び狭水道のほか海上交通安全法に定められた航路で操船にあたり、翌4日02時15分来島海峡通航の操船指揮を執るため竜神島灯台東北東方約3海里のところで昇橋した。そのとき、当直中の二等航海士から前路の同航船について報告を受け、船首方1ないし0.6海里に自船より速力の遅い江和丸ほか1隻の船尾灯を初認し、その後目が船橋の暗さに馴れるのを待って同航海士から操船を引き継ぎ、当直甲板手を手動操舵に就けるとともに、同航海士に自動衝突予防援助装置(以下「アルパ」という。)付きのレーダーの監視にあたらせ、機関室当直者を配置しないまま、来島海峡東口に向かった。
 02時30分A受審人は、来島海峡航路第8号灯浮標(以下、来島海峡航路各号灯浮標については「来島海峡航路」を省略する。)を左舷側100メートルに航過して来島海峡航路(以下「航路」という。)に入り、その後西水道内では前路の同航船との距離が0.4海里以下とならないよう、14.5ノットの航海全速力から9.0ノットの半速力に減速し、その後適宜速力を調節しながら同水道を通航した。
 02時56分A受審人は、来島海峡第3大橋下を通過したとき、江和丸を含む前路の同航船2隻を追い越すため翼角16度の航海全速力とし、03時05分ごろ小島北方で同航船1隻を左舷側60メートルに追い越したとき、江和丸を左舷船首方0.4海里に認め、その後同船の右舷側至近を追い越す態勢で航路に沿って航行した。
 03時16分A受審人は、桴磯灯標から010度(真方位、以下同じ。)1,500メートルの地点に達したとき、針路を262度に定め、翼角を16度としたまま、折からの潮流に抗し、右方に約2度圧流されながら、12.9ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、同航路に沿って進行した。
 定針したとき、A受審人は、江和丸を左舷船首18度680メートルに認めるようになり、そのころ梶取ノ鼻北西方沖合に右舷灯を見せて航路西口に向かう東行船2隻の航海灯を視認し、その後二等航海士とともにその動静を監視したところ、これら東行船が前路を右方に横切る態勢で方位に著しい変化がなく、航路西方で針路が交差する状況であることを知ったが、それまでの通航経験から、安芸灘南部から来島海峡中水道に向かう東行船は、通常、航路西口に直接向首しないで小大下島方向に向けて北上したのち、航路の西方で航路入口に向ける迂回進路をとることが多かったので、これら東行船と航路西方で右舷を対して航過するつもりで続航した。
 03時20分半A受審人は、第2号灯浮標を左舷側400メートルに航過して航路から出たとき、江和丸が左舷船首25度370メートルとなり、そのころ左舷船首方1.3海里ばかりとなった前示東行船2隻のうち1隻が左舷灯を見せていたので右転したことが分かったものの、残る1隻の東行船(以下「第3船」という。)が右舷灯を見せたまま衝突のおそれがある態勢で接近することに不安を感じたが、間もなく安芸灘南航路第4号灯浮標に向け転針するであろう江和丸に続いて左転すれば、第3船と右舷対右舷で航過する態勢になると思い、速やかに減速して追い越しを中止し、江和丸との船間距離を十分に確保することなく、航海全速力のまま、さらに接近しながら進行した。
 A受審人は、左舷船首方至近に近づいた江和丸を注視していたところ、03時23分同船との距離が200メートルとなったとき、同船が右転していることに気付き、自船も大きく右転しようとしたものの、第3船及び折から右舷後方約0.7海里に認めた西行船と接近することになるので、半速力前進、右舵10度を令し、船橋上の探照灯を江和丸船橋に向けて数回点滅したものの、同船が右転し続けるので衝突の危険を感じ、同時24分少し前右舵50度、全速力後進を令したが及ばず、03時24分トクヤマは、桴磯灯標から295度1.7海里の地点において、295度に向首して約10ノットの速力となったとき、トクヤマの左舷船首が江和丸の右舷後部に後方から30度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の末期で、付近には約1.5ノットの北東流があった。
 また、江和丸は、船尾船橋型貨物船で、主として広島県福山港から新潟県姫川港に水砕や石灰石などを輸送していたところ、B、C両受審人ほか12人が乗り組み、水砕4,500トンを積載し、船首5.90メートル船尾7.02メートルの喫水をもって、同月3日23時40分福山港を発し、姫川港に向かった。
 翌4日00時15分B受審人は、走島西方沖合1.5海里のところでC受審人と甲板長に船橋当直を命じて休息したのち、02時00分竜神島灯台東北東方7海里の伯方島南方沖合で昇橋し、そのときアルパ付きのレーダーで船尾方2海里にトクヤマの映像を認め、その速力が13ないし14ノットで自船より少し速いことを知ったが、その後同受審人にアルパ付きレーダーの監視を命じ、一等機関士の機関室当直の下、来島海峡通航の操船指揮にあたった。
 02時28分B受審人は、第8号灯浮標を左舷側180メートルに航過して航路に入り、その後甲板長を手動操舵に就け、西水道を通航した。
 C受審人は、航路に入ったあとアルパ付きレーダーの映像接近警報を活用するとか、後方から接近するトクヤマとの距離を確かめるなどしてB受審人に同船の接近状況を適宜報告しないまま、主に肉眼で前路の見張りにあたった。
 03時13分B受審人は、桴磯灯標から028度1,390メートルの地点で、針路を265度に定め、機関を12.5ノットの全速力前進にかけ、折からの潮流に抗し右方に約2度圧流されながら10.8ノットの速力で進行し、そのころ昇橋時に認めたトクヤマが船尾方約700メートルに接近してさらに近づく状況であったが、C受審人に対し、同船に対する動静監視を行うよう十分に指示しないまま、自らも船尾方を見てトクヤマとの船間距離を確認せず、同船の接近に気付かないで操船にあたった。
 03時15分半B受審人は、桴磯灯標を左舷側1,200メートルに航過したとき、梶取ノ鼻北西方沖合に白、白、緑3灯を見せた第3船とその近くに別の東行船の航海灯を認め、これら2船が航路入口に向かっていることを知り、平素は航路を出るまで操船の指揮を執っていたが、当時九州南方を北上していた台風の動向が気になっていたので、自室のテレビで天気予報を見ることとし、それまでC受審人にトクヤマの接近状況を適宜報告させていなかったので、同船が右舷船尾方650メートルに接近していたことに気付かず、また、レーダーをいちべつしたものの同船の映像を見落とし、自船の前方近くに他船がいないのでC受審人に操船を任せても大丈夫と思い、通航船舶が輻輳する(ふくそうする)来島海峡の通航を終えるまで引き続き在橋して自ら操船の指揮を執らず、同人に船橋当直を命じて自室に降りた。
 B受審人が降橋したあとC受審人は、そのまま甲板長に手動操舵を行わせ、それまで監視していたレーダーから離れて船橋前面で前路の見張りにあたり、その後船尾方にトクヤマが同航していることを知っていたものの、レーダーや目視によって接近状況を確かめるなど同船に対する動静監視を十分に行わなかったので、同船が自船の右舷側を追い越す態勢で次第に近づくことに気付かず、そのころ梶取ノ鼻沖合に認めた東行船2隻が前路を右方に横切る態勢で接近していたことから、その動向に留意し、レーダーを見ることも後方を振り返ってトクヤマの方位、距離を確認することもしないまま、航路をこれに沿って西行した。
 03時19分半C受審人は、桴磯灯標から307度1.0海里の地点で第2号灯浮標を左舷側230メートルに航過して航路から出たとき、トクヤマが右舷船尾25度450メートルに接近し、自船の右舷側を約100メートル離れて追い越す態勢であった。そのころ左舷前方の第3船が方位変化のないまま1.5海里となり、その後同船が自船の前路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近する状況であったが、B受審人にこのことを報告して昇橋を求めないまま、それより少し前に右転して左舷灯を見せていた別の東行船と同様に、自船を右舷前方に見る第3船が右転して自船の進路を避けることを期待し、同じ針路、速力のまま進行した。
 C受審人は、避航の気配がないまま接近する第3船に対し、警告信号を行わないでその動静を監視していたところ、03時23分少し前桴磯灯標から294度1.5海里の地点に達したとき、避航動作をとらないまま至近に迫った第3船を見て、同船との衝突を避けるための措置をとることとしたが、左舷前方から接近する第3船のみに気を奪われ、右舷後方のトクヤマに対する動静監視を十分に行わなかったので、そのころ同船が右舷船尾220メートルに接近し、右転すれば同船と衝突の危険が生じる状況であることに気付かず、減速若しくは行きあしを止める措置をとらないで、右舵35度を令するとともに汽笛で短音1回を吹鳴して右転を始めたところ、トクヤマとの衝突の危険が生じ、間もなく同船が行った発光信号が船橋前面の窓ガラスに反射し、同船が自船に対して注意喚起を行っていることに気付いたものの、前路至近を右方に横切る第3船を注視して右舷後方を見ないまま右転を続けた。
 03時23分少し過ぎC受審人は、第3船が船首を右方に替わったので舵中央を令して右舷後方を見たところ、至近に迫ったトクヤマを見て機関を6.0ノットの微速力前進に減じたが、江和丸は、325度に向首して約8ノットの速力となったとき、前示のとおり衝突した。
 自室でテレビを見ていたB受審人は、自船が吹鳴した汽笛信号を聞き、間もなく衝撃を感じてボートデッキに出たところ、右舷船尾至近にトクヤマを認めて急いで船橋に上がり、事後の措置にあたった。
 衝突の結果、トクヤマは、左舷船首部外板に凹損を生じ、江和丸は、ボートデッキ右舷側及び右舷船尾ブルワークに凹損などを生じるとともに搭載していた交通艇の一部が損傷したが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、夜間、通航船舶が輻輳する来島海峡航路西口付近において、航路を出て西行するトクヤマ及び江和丸の両船が、航路西口に向かって東行する第3船と互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近した際、江和丸の右舷側を追い越す態勢のトクヤマが、速やかに追い越しを中止して江和丸との船間距離を十分に確保しなかったことと、江和丸が、動静監視不十分で、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する第3船との衝突を避けるにあたり、減速若しくは行きあしを止める措置をとらず、自船の右舷側を追い越す態勢で接近中のトクヤマの前路に向けて転針したこととによって発生したものである。
 江和丸の運航が適切でなかったのは、船長が、船橋当直者に対し、後方から接近するトクヤマの動静監視を行うよう十分に指示しなかったうえ、通峡を終えるまで在橋して操船の指揮を執らなかったことと、船橋当直者がトクヤマに対する動静監視を十分に行わなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、通航船舶が輻輳する来島海峡航路西口付近において、江和丸の右舷側を追い越す態勢で西行中、江和丸及び前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で東行中の第3船と接近した場合、速やかに減速して追い越しを中止し、江和丸との船間距離を十分に確保すべき注意義務があった。しかし、同人は、間もなく安芸灘南航路第4号灯浮標に向け転針するであろう江和丸に続いて左転すれば、第3船と右舷対右舷で航過する態勢になると思い、速やかに減速して追い越しを中止し、江和丸との船間距離を十分に確保しなかった職務上の過失により、第3船を避けようとして右転した江和丸との衝突を招き、トクヤマの左舷船首部外板に凹損を、江和丸のボートデッキ右舷側及び右舷船尾ブルワークに凹損などをそれぞれ生じさせるとともに江和丸搭載の交通艇を損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、夜間、通航船舶が輻輳する来島海峡航路西口付近を西行する場合、船尾方からトクヤマが接近し、梶取ノ鼻沖合に認めた東行船と航路西口付近で出会う状況であったから、当直航海士が周囲の見張りに専念できるよう、通峡を終えるまで在橋して自ら操船の指揮を執るべき注意義務があった。しかし、同人は、自船の前方近くに他船がいないのでC受審人に操船を任せても大丈夫と思い、通峡を終えるまで在橋して自ら操船の指揮を執らなかった職務上の過失により、同航海士が自船の右舷後方至近に近づいたトクヤマに気付かず、同船の前路に向け転針して同船との衝突を招き、トクヤマ及び江和丸の両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C受審人は、夜間、通航船舶が輻輳する来島海峡航路西口付近を西行中、左舷前方に認めた第3船が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で至近に接近し、同船との衝突を避けようとする場合、自船より速力の速いトクヤマが後方を同航していることを知っていたのであるから、同船の位置を確かめるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、左舷前方から接近する第3船のみに気を奪われ、トクヤマに対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、右転すれば右舷船尾至近に近づいていたトクヤマと衝突の危険が生じることに気付かず、減速若しくは行きあしを止める措置をとらないで、トクヤマの前路に向け右転して同船との衝突を招き、トクヤマ及び江和丸の両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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