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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成14年広審第124号
件名

引船汐智引船列桟橋衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年3月19日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(勝又三郎、高橋昭雄、西田克史)

理事官
平野浩三

受審人
A 職名:汐智甲板員 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
汐 智・・・上甲板左舷側のハンドレールに曲損
バージ・・・損傷ない

原因
汐 智・・・居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件桟橋衝突は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年4月4日07時15分
 愛媛県 大三島東岸

2 船舶の要目
船種船名 引船汐智 バージ13号
総トン数 19トン  
全長 16.83メートル 55.00メートル
  18.00メートル
深さ   3.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 588キロワット  

3 事実の経過
 汐智は、主に瀬戸内海で運航している鋼製引船で、船長及びA受審人が乗り組み、重量約100トンの荷役機械を積載し、船首尾とも1.2メートルの喫水となった鋼製バージ13号(以下「バージ」という。)を引き、汐智の船尾端からバージの船尾端までの長さを95メートルの引船列(以下「汐智引船列」という。)とし、同荷役機械を造船所まで運搬する目的で、船首1.4メートル船尾2.2メートルの喫水をもって、平成14年4月3日17時00分広島県小用港を発し、同県尾道糸崎港に向かった。
 発航後、船長は自ら操舵操船にあたり、早瀬瀬戸を南下したのち、安芸灘を経て大下瀬戸を北上し、翌4日03時30分広島県木江港東方沖合で、A受審人が昇橋してきたので船橋当直を引き継ぎ、狭水道の通航が続くこととなる船橋当直を行わせることとし、更に、当直中に眠気を催したときは報告するよう指示したうえで降橋し休息した。
 A受審人は、単独で操舵操船にあたり、広島県大崎上島の東岸沿いを北上し、05時04分忠海東防波堤灯台から215度(真方位、以下同じ。)1.5海里の地点で、針路を同県大久野島北端沖合に向く071度に定め、機関を前進にかけ、折からの潮流に抗し3.5ノットの曳航速力(以下「速力」という。)で進行した。
 ところで、A受審人は、汐智に乗船してから日帰り航海が多いなか、船橋当直を船長と度々替わっており、一度、広島港から岡山県水島港への昼夜にまたがる航海を行ったとき、昼間に大崎上島の中ノ鼻付近から三原瀬戸にかけて船橋当直を行ったので、今回夜間に同当直に就くのは初めてであったが、一度通航している海域なので単独で操船を行えると判断した。また、平素22時00分ごろに床につき、翌朝05時00分ごろまで就寝していたことから、これが習慣となっていた。
 A受審人は、船橋備え付けの長椅子と機関コンソールの間に渡した幅20センチメートルの板に腰掛けて見張りにあたり、05時18分ごろ忠海港東防波堤灯台から188度1.0海里の地点に達したとき、針路を三原瀬戸のほぼ中央に向く090度に転じて航行していたところ、同時27分ごろ同瀬戸に漁船も反航船もいなかったことから気が緩んで眠気を催したが、なんとか我慢して予定通り航行しようと思い、船長に報告して指示を仰ぐなど居眠り運航の防止措置をとることなく続航した。
 こうして、A受審人は、自動操舵のまま針路設定ダイヤルを右手で握って航行していたところ、いつしか居眠りに陥り、無意識のうちに同ダイヤルを右に回したりしたので、回頭したのち南下を始め、その後愛媛県大三島東岸に設けられたコスモ石油油槽所桟橋に向かっていたが、居眠りに陥っていてこのことに気付かずに進行中、汐智は、07時15分同県瓢箪島35メートル頂三角点から211度1,560メートルの地点において、その船首が183度を向き、原速力のまま、同桟橋西側の配管橋受架台に衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の中央期で、付近海域には2.0ノットの北流があり、日出時刻は05時51分であった。
 船長は、衝突の衝撃で目覚めて昇橋し、機関を停止したうえ、居眠り中のA受審人を起こし、事後の措置にあたった。
 その結果、バージに損傷はなく、汐智は上甲板左舷側のハンドレールに曲損を、コスモ石油油槽所桟橋の配管橋受架台、同架台杭、照明設備及び歩廊受杭に損傷をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件桟橋衝突は、汐智引船列が、三原瀬戸を東行して尾道糸崎港に向かう際、居眠り運航の防止措置が不十分で、大三島東岸に設けられたコスモ石油油槽所桟橋に向かって進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、船橋当直を交替したのち単独で操舵操船に当たって三原瀬戸を東行中、眠気を催した場合、居眠りに陥らないよう、船長に報告して指示を仰ぐなど居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかし、同人は、なんとか我慢して予定通り航行しようと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥ったまま進行して大三島東岸に設けられたコスモ石油油槽所桟橋との衝突を招き、汐智は上甲板左舷側のハンドレールに曲損を、同桟橋の配管橋受架台、同架台杭、照明設備及び歩廊受杭に損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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