(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年1月30日01時01分
広島県竹原港
2 船舶の要目
船種船名 |
旅客船芸予 |
旅客船契陽 |
総トン数 |
699トン |
43.76トン |
全長 |
59.54メートル |
登録長 |
|
18.35メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
2,206キロワット |
84キロワット |
3 事実の経過
芸予は、前部船橋型旅客フェリーで、広島県竹原と愛媛県波方両港間の定期運航に従事していたところ、平成14年1月29日夜間竹原港着の最終便の運航を終え、A受審人ほか5人が乗り組み、翌朝同港発第1便の運航に備えて錨泊待機する目的で、船首1.95メートル船尾2.80メートルの喫水をもって、同日21時47分竹原港を発し、西側の陸岸から東方に300メートル延び、その先端に竹原港竹原外港防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)が設置された明神ノ波止(以下「防波堤」という。)と、東側の陸岸とで形成された出入口を南下して防波堤南方沖合に至り、右舷錨を投じて錨鎖4節を延出し、所定の灯火を表示のうえ、同時55分防波堤灯台から200度(真方位、以下同じ。)610メートルの地点で錨泊した。
ところで、芸予は、他船との竹原港における桟橋使用の兼ね合いから、それまでも2日に1回の割合で防波堤沖合で錨泊待機していた。
A受審人は、前示の錨泊地点付近が瀬戸内海水路誌に大型船の錨地として明記され、船舶交通が輻輳する海域でもなかったので、待機場所と決めてこれまで幾度となくその付近で錨泊していたうえ、運航管理規程等にその際における錨泊当直についての定めなどがなく、船長判断に任されていたことから、当時、海上が平穏で視界も良かったので、同当直を置く必要はないものと判断し、早朝からの運航準備に備えて他の乗組員とともに休息していたところ、翌30日01時01分前示の錨泊地点において、芸予は、055度に向首したその右舷側船首に、契陽の船首が前方から47度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、視界は良好で、潮候は下げ潮の中央期であった。
A受審人は、自室で休息中、衝撃を感じて昇橋し、事後の措置にあたった。
また、契陽は、前部船橋型旅客船で、主として広島県契島に所在する東邦亜鉛株式会社契島精錬所の従業員輸送のために同島と竹原港間の定期運航に従事していたところ、B受審人ほか1人が乗り組み、最終便の乗客1人を乗せ、船首0.52メートル船尾1.35メートルの喫水をもって、同日00時50分同港を発し、契島に向かった。
ところで、S運輸株式会社は、運航管理規程に基づく運航基準により、竹原港出航時の針路模様について、防波堤灯台から105度60メートルの地点で195度の針路とし、契島東方沖合に向かうように定めていた。また、契島は、夜間でも、工場の明かりで海上に浮かび上がる識別容易な島であった。
B受審人は、所定の灯火を表示して出航操船に就き、00時58分半防波堤先端を右舷方10メートル近くに替わしたころ、防波堤灯台から230度500メートルのところに甲板照明など明るい灯火を多数点灯して錨泊している他船の存在を知り、これが気になりながら操船を続けるとともに、契島の東方に向けるつもりで舵輪を適当に回して右舵をとったところ、大きく右回頭して同島の西方に向いたので、針路を直そうと左舵をとり、同時59分半防波堤灯台から217度250メートルの地点で、針路を契島とその東方の生野島北端沖合にある柳ノ瀬戸灯浮標との中間に向く188度に定め、機関を全速力前進にかけ、8.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
定針したとき、B受審人は、正船首370メートルのところに錨泊中の芸予の灯火を視認でき、その後、同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、右舷方に錨泊している他船の船種や灯火模様が気になってそれに注目し、前路の見張りを十分に行わなかったので、錨泊中の芸予に気付かず、これを避けないまま続航した。
こうして、B受審人は、同じ針路、速力で進行中、01時01分わずか前船首至近に芸予のランプゲートを認め、機関を中立に操作するとともに左舵をとったが効なく、契陽は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、芸予は、右舷側船首外板に凹損を生じ、契陽は、船首部を圧壊したが、のちいずれも修理され、B受審人が、胸部及び左大腿部、契陽乗組員が左下腿部、並びに同船乗客1人が右上腕にそれぞれ打撲を負った。
(原因)
本件衝突は、夜間、広島県竹原港において、契陽が、見張り不十分で、錨泊中の芸予を避けなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
B受審人は、夜間、竹原港において、待機錨地の近くを航行する場合、所定の灯火を表示して錨泊中の芸予を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、右舷方に甲板照明など明るい灯火を多数点灯し錨泊している他船の船種や灯火模様が気になって同船に注目し、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、錨泊中の芸予に気付かず、これを避けないまま進行して芸予との衝突を招き、同船の右舷側船首外板に凹損を生じさせ、契陽の船首部を圧壊させたほか、自身並びに契陽の乗組員及び乗客各1人に胸部や下腿部等にそれぞれ打撲を負わせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。