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平成14年広審第103号
件名

貨物船第二十八かねと丸橋桁衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年3月11日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(竹内伸二)

理事官
雲林院信行

受審人
A 職名:第二十八かねと丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)

損害
かねと丸・・・後部マストが曲損
はつかいち大橋橋桁・・・擦過傷

原因
かねと丸・・・操船(臨機の措置)不適切

裁決主文

 本件橋桁衝突は、広島はつかいち大橋下を出航する際、入航船接近時の臨機の措置が適切でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年6月3日08時30分
 広島県広島港 広島はつかいち大橋

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第二十八かねと丸
総トン数 499トン
全長 65.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,176ワット

3 事実の経過
 第二十八かねと丸(以下「かねと丸」という。)は、船尾船橋型の砂利運搬船兼貨物船で、大分県津久見港から、主に宮崎県宮崎港及び広島県広島港に石灰石を輸送していたところ、A受審人ほか6人が乗り組み、1番及び3番の各バラストタンクに合計500トンの海水を張り、空倉のまま、船首1.6メートル船尾2.7メートルの喫水をもって、平成14年6月3日08時17分広島港第3区の廿日市市木材港北地区港奥の岸壁を発し、津久見港に向かった。
 ところで、前示岸壁に係留する船舶は、木材港北岸壁とその東方約500メートルの五日市岸壁との間に架けられた広島はつかいち大橋(以下「はつかいち大橋」という。)の下を通航しなければならなかった。そして、同橋の橋脚12基のうち、五日市岸壁側から6番目と7番目の橋脚(以下それぞれ「橋脚P6」、「橋脚P7」という。)との間150メートルのうち幅120メートルの中央部分が通航水路(以下「航路」という。)となっており、橋桁側面に設置された航路灯2個によって可航幅が示され、航路上桁下高さが最高水面上21.0メートルであった。
 また、貯木場北側の港奥から出航する船舶は、離岸後、木材港北岸壁とその対岸に拡がる浅瀬とに挟まれて可航幅が約50メートルとなった水路を約1,000メートル東行したのち、はつかいち大橋西方約300メートルのところで右転を開始し、岡ノ下川河口に拡がる干出浜によって可航水域が狭くなった同橋北側で、航路に沿って航行するためほぼ80度の大角度の回頭を行わなければならず、入航船と同橋付近で出会うときには、十分に減速して航路右側の橋脚に近寄る必要があった。なお、同橋北東方には五日市漁港があって、同港に出入りする漁船も同橋下を通航していた。
 A受審人は、昭和49年から漁船に乗り組み、平成2年から内航貨物船の航海士、船長として乗船した後、平成9年T海運株式会社に入社してかねと丸に一等航海士として乗船し、平成13年3月から船長となり、広島港の前示岸壁に幾度も入航していた。そして、はつかいち大橋下を通航する際、予め潮汐表で確かめた通航時の潮高と自船の喫水とを勘案し、航路の桁下高さが後部マストよりも高いことを確認して通航していた。
 出航時A受審人は、機関長を機関室に、その他の乗組員を船首と船尾に分けて配置に付け、船橋中央で舵輪を握って見張りと操船にあたり、入船左舷付けで係留していたため、離岸したあとサイドスラスターと舵を使用して回頭し、機関を回転数毎分260の極微速力前進にかけて狭い水路を東行した。
 A受審人は、回頭を終えて間もなくサイドスラスターの電源を切り、08時22分広島はつかいち大橋橋梁灯(C2灯)(以下「中央灯」という。)から260度(真方位、以下同じ。)1,200メートルの地点に達したとき、針路を水路に沿う072度に定め、機関を極微速力前進にかけたまま、5.0ノットの対地速力で進行した。
 08時27分A受審人は、中央灯から280度330メートルの地点で、針路を100度に転じて同灯に向首したとき、はつかいち大橋の南側に、航路中央に向かって入航する漁船を認め、同橋付近で出会う状況であったのですぐに機関を停止し、航路の右側に寄り左舷対左舷で航過するつもりで右舵をとってゆっくり回頭しながら同船に留意して続航した。
 08時28分少し過ぎA受審人は、中央灯から270度170メートルの地点で、航路の右側端に向けて惰力で進行していたとき、左舷船首方250メートルに近づいた入航船が、突然左転して自船の前路に進出する態勢となったのを認め、そのとき、橋脚P7が右舷船首方向約100メートルに迫っていたが、直ちに機関を後進にかけて行きあしを止めるなどして適切に臨機の措置をとることなく、転舵により入航船を避けようとして右舵一杯をとったところ、間もなく同船が船首を右方に横切り同橋脚南側を西方に通過したので舵中央に戻したものの、船首が橋脚P7の西側に向首し、左舵一杯としても同橋脚を右舷側に航過して航路を通航することができない状況となった。
 A受審人は、橋脚P7西側の橋桁を一見して、桁下高さが航路上より少し低いものの、低潮時に近かったので何とか橋脚P7の西側を通過できると判断し、147度に向首して進行中、かねと丸は、08時30分中央灯から247度130メートルの地点において、海面上高さが21.8メートルとなっていた後部マスト先端が、橋脚P7から約40メートル西方のはつかいち大橋橋桁に約1ノットの速力で衝突し、これを擦過しながら通過した。
 当時、天候は晴で風はなく、潮候は下げ潮の末期で、潮高は1.7メートルであった。
 A受審人は、間もなく木材港北岸壁前に投錨し、海上保安部に橋桁衝突を連絡するなど事後の措置にあたった。
 衝突の結果、かねと丸は、後部マストが曲損し、同マスト頂部のレーダーアンテナ等に損傷が生じたが、のちいずれも修理された。また、はつかいち大橋橋桁に擦過傷が生じた。

(原因)
 本件橋桁衝突は、広島港西部において、廿日市市木材港北地区の港奥からはつかいち大橋下の航路に向け低速力で出航中、同橋南側から入航する船舶と接近した際、臨機の措置が不適切で、入航船を避けるにあたり、速やかに行きあしを止める措置をとらず、転舵して桁下高さの低い航路外の橋脚間に向けて進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、広島港西部において、廿日市市木材港北地区の港奥からはつかいち大橋下の航路に向け低速力で出航中、同橋南側に認めた入航船が突然左転して自船の前路に進出する態勢となった場合、航路から外れないよう、直ちに機関を後進にかけて行きあしを止めるなど適切に臨機の措置をとるべき注意義務があった。しかし、同人は、転舵によって入航船を避けようとし、機関を後進にかけて行きあしを止めるなどして適切に臨機の措置をとらなかった職務上の過失により、桁下高さの低い航路外の橋脚間に向け進行して橋桁との衝突を招き、かねと丸の後部マストを曲損するとともにレーダーアンテナ等を損傷し、はつかいち大橋橋桁に擦過傷を生じさせるに至った。





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