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平成14年神審第97号
件名

プレジャーボートエミ貨物船ユーショーオーシャン衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年3月25日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(村松雅史、大本直宏、前久保勝己)

理事官
加藤昌平

受審人
A 職名:エミ船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:ユーショーオーシャン船長
社団法人Kヨットクラブ 業種名:ヨットクラブ

損害
エ ミ・・・マストに折損
ユ 号・・・船首に擦過傷

原因
ユ 号・・・船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
エ ミ・・・見張り不十分、船員の常務(新たな危険)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、ユーショーオーシャンが、エミが存在する密集したヨット群を避けなかったことによって発生したが、エミが、見張り不十分で、ユーショーオーシャンが近距離に接近した際、同船の船首方に向けて右転したことも一因をなすものである。
 ヨットレースを主催するヨットクラブが、ヨットレースを開始するにあたり、周囲の安全確認を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年10月16日12時22分
 兵庫県尼崎西宮芦屋港沖合

2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートエミ 貨物船ユーショーオーシャン
総トン数   2,524トン
全長 10.95メートル 82.55メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 11キロワット 1,471キロワット

3 事実の経過
 エミは、スループ型のFRP製プレジャーヨットで、A受審人ほか7人が乗り組み、ヨットレースに参加する目的で、キール下部の深さ2.3メートルをもって、平成11年10月16日08時00分兵庫県尼崎西宮芦屋港の新西宮ヨットハーバーを発し、指定海難関係人社団法人Kヨットクラブ(以下「Kヨットクラブ」という。)が主催する「ダイキン杯IMSクラスレガッタ」と称するヨットレースが開催される同港南方沖合のヨットレース会場に向かった。
 ところで、Kヨットクラブは、西宮防波堤西灯台(以下「西灯台」という。)から159度(真方位、以下同じ。)4,120メートルの地点に、Kヨットクラブ所属の登録長10.99メートルのプレジャーボートシーブリーズを本部艇として配置し、同艇から270度約150メートルの地点に、マーカーブイを設置して、本部艇と結ぶ線をスタートラインとし、同ブイから北方約2,800メートルの地点に、同様のマーカーブイを設置して、2個のブイを周回するという方法でヨットレースを実施することとし、ヨットレース会場の周囲に落水者の救助などに当たる2隻の警戒船を配備した。
 A受審人は、ヨットレース会場に到着し、午前中のレース終了後、午後のヨットレースに参加するため、直径約200メートルの範囲に密集した15隻のヨット群のほぼ中央に位置し、12時07分西灯台から155度4,920メートルの地点で、スタートの合図を待った。
 12時15分A受審人は、Kヨットクラブのスタート5分前の合図で、他の14隻のヨットとともにスタートラインに向け帆走を開始し、12時18分西灯台から157度4,450メートルの地点で、北風を受け、スターボードタックとして、針路を315度に定め、6.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で進行した。
 一方、Kヨットクラブは、スタート5分前の合図を発した後、ヨットレース会場の周囲の安全確認を十分に行っていなかったので、12時20分本部艇から049度290メートルのところに存在するユーショーオーシャン(以下「ユ号」という。)に気付かないまま、スタートの合図を発した。
 A受審人は、スタートの合図とともにスタートラインを通過してレースを開始し、12時21分西灯台から162度3,920メートルの地点に達したとき、右舷船尾65度280メートルのところに接近するユ号を認めることができる状況であったが、レースに夢中になり、転針方向の見張りを十分に行わなかったので、これに気付かないまま、同船の船首方に向けてタッキングにより右転し、針路を045度にして間もなく、12時22分西灯台から159度3,830メートルの地点において、エミは、原針路原速力で、その右舷中央部に、ユ号の船首が、前方から60度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力4の北風が吹き、視界は良好であった。
 また、ユ号は、雑貨輸送に従事する船尾船橋型の鋼製貨物船で、B指定海難関係人ほか14人が乗り組み、鋼材及び雑貨約1,010トンを積み、船首3.40メートル船尾4.95メートルの喫水をもって、同日11時40分大阪港大阪区を発し、神戸港第6区S-6錨地に向かった。
 B指定海難関係人は、操舵手を手動操舵に、二等航海士を見張りに、機関長を機関操作にそれぞれ就け、12時07分大阪灯台から217度1,100メートルの地点で、針路を285度に定め、機関を港内全速力前進にかけ10.0ノットの速力で進行した。
 定針したとき、B指定海難関係人は、左舷船首13度1.8海里のところに、エミが存在する密集した15隻のヨット群を初めて視認し、その動静を監視していたところ、12時15分左舷船首42度1,040メートル付近のヨット群が一斉に自船の進行方向に帆走を開始するのを認めたが、そのままの針路でヨット群の風上側を通過できると思い、機関を港内半速力前進にしただけで、大幅に左転するなど、ヨット群を避けないまま進行した。
 12時18分B指定海難関係人は、ヨット群がさらに接近したので、機関停止として惰力により続航し、12時21分ヨット群の中のエミが近距離で自船の船首方に向けて右転したのを認めたものの、注意喚起信号を行わず、機関を後進にかけるなど、衝突を避けるための措置もとらずに続航中、ユ号は、4.0ノットの速力となったとき、原針路のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、エミは、マストに折損を、ユ号は船首に擦過傷をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。
 Kヨットクラブは、本件発生後直ちにヨットレースを中止し、事後の措置に当たった。
 Kヨットクラブは、本件以降、ヨットレースを実施する際、ヨットレース会場の安全確認を十分に行うための警戒船を増強するなどの措置をとった。

(航法の適用)
 本件は、兵庫県尼崎西宮芦屋港南方沖合において、ヨットレースに参加して北東方に帆走するヨット群の中のエミと、西行するユ号とが衝突したものであり、以下、適用する航法について検討する。
1 衝突地点は、海上交通安全法の適用海域であるものの、同法に適用される航法規定がないので、海上衝突予防法(以下「予防法」という。)で律することとなる。
2 当時、エミは、直径約200メートルの範囲に密集した15隻のヨット群のほぼ中央に位置して、ユ号の進行方向に帆走中で、単にユ号とエミとの2船間においてのみではなく、ユ号が他のヨットとも衝突のおそれがある態勢で接近した特殊な状況にあり、1船対1船の航法である予防法第18条の各種船舶間の航法は適用できない。
 よって、本件は、予防法第39条の船員の常務によって律するのが相当である。

(原因の考察)
 本件のように、予防法第39条をもって律する場合、両船の原因は、等しい原因いわゆる等因として判示される例が大半を占める。
 しかしながら、以下の点を考えると、本件は、ユ号に主因があり、エミに一因があるものと認めるのが相当である。
1 ユ号がエミが存在する密集したヨット群の中に進行し、避航動作をとれない余裕のない水域に入り、衝突を避けるための措置をとらなかった点
2 ユ号が注意喚起信号を行わなかった点
3 ユ号は、動力船であり、予防法第18条の1船対1船の航法においても、ヨットのエミを避けなければならない点
4 ユ号が、1船対1船の航法においても避けなければならないヨットのエミが存在するヨット群を避けないで進行した点

(原因)
 本件衝突は、兵庫県尼崎西宮芦屋港南方沖合において、西行中のユ号が、エミが存在する密集したヨット群を避けなかったことによって発生したが、エミが、見張り不十分で、ユ号が近距離に接近した際、同船の船首方に向けて右転したことも一因をなすものである。
 ヨットレース主催者が、ヨットレースを開始するにあたり、周囲の安全確認を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。

(受審人等の所為)
 A受審人は、兵庫県尼崎西宮芦屋港南方沖合において、ヨットレース中に転針する場合、接近するユ号を見落とさないよう、転針方向の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、レースに夢中になり、転針方向の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、接近するユ号に気付かず、同船が近距離に接近した際、ユ号の船首方に向け右転して衝突を招き、エミのマストに折損を、ユ号の船首に擦過傷を、それぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、エミが存在する密集したヨット群が自船の進行方向に帆走を開始するのを認めた際、ヨット群と接近することのないよう、大幅に左転するなどヨット群を避けなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、勧告しないが、今後、ヨット群が自船の進行方向に帆走しているのを認めた際、ヨット群と接近しないよう、大幅に針路を転じてヨット群を避けるなど、事故防止に努めなければならない。
 Kヨットクラブが、ヨットレースを開始するにあたり、ヨットレース会場の周囲の安全確認を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 Kヨットクラブに対しては、本件以降、ヨットレースを実施する際、ヨットレース会場の周囲の安全確認を十分に行うための警戒船を増強するなどの改善措置をとっている点に徴し、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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