(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年7月19日09時12分
紀伊水道
2 船舶の要目
船種船名 |
油送船日徳丸 |
プレジャーボート飛竜 |
総トン数 |
476トン |
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登録長 |
52.67メートル |
8.29メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
132キロワット |
3 事実の経過
日徳丸は、専ら酸化プロピレンの輸送に従事する船尾船橋型鋼製油送船で、A受審人ほか4人が乗り組み、空倉のまま、船首2.0メートル船尾3.6メートルの喫水をもって、平成14年7月18日11時40分名古屋港を発し、山口県徳山下松港に向かった。
A受審人は、船橋当直体制を一等航海士、甲板員及び自らによる単独の3直4時間制としており、翌19日08時00分紀伊宮崎ノ鼻灯台から229度(真方位、以下同じ。)9.8海里の地点で昇橋して同当直に就き、針路を鳴門海峡の飛島に向く319度に定め、機関を全速力前進にかけ10.2ノットの対地速力で、1.5ないし6海里レンジとしたレーダーを見ながら、自動操舵により進行した。
09時09分少し前A受審人は、沼島灯台から220度4.2海里の地点に達したとき、正船首方1,000メートルのところに、飛竜を視認することができる状況であったが、天気が悪いので漂泊して釣りをしている船舶はないものと思い、船首方の見張りを十分に行わず、飛竜の存在に気付かないで続航した。
A受審人は、飛竜に向首したまま接近したが、船首を風に立て移動しないことから漂泊中と分かる同船を避けずに進行し、09時12分沼島灯台から228度4.2海里の地点において、日徳丸は、原針路原速力のまま、その右舷船首部が、飛竜の船首部に、前方から20度の角度で衝突した。
当時、天候は雨で風力4の南南東風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
A受審人は、衝突の事実に気付かなかったので、そのまま続航し、09時20分ごろ小松島海上保安部から電話連絡を受け、事後の措置に当たった。
また、飛竜は、船体中央部にキャビンを有するFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、釣りの目的で、船首尾0.2メートルの等喫水をもって、同月19日07時50分徳島県徳島小松島港徳島区にあるマリーナを発し、沼島南西方沖合の釣り場に向かった。
08時50分B受審人は、前示衝突地点に至り、機関を停止して直径6メートルのシーアンカーを海中に投入し、直径20ミリメートルの錨索を約20メートル伸出して船首部のクリートに係止し、シーアンカーには標識となるブイを取り付け、これに引き上げ用のロープを船首部からとって漂泊を開始した。
B受審人は、船尾甲板で船尾方を向いた姿勢で腰掛け、両舷から各1本の釣りざおを出して釣りをしていたところ、09時09分少し前、159度に向首していたとき、左舷船首20度1,000メートルのところに、北上中の日徳丸を視認することができる状況であったが、釣りに気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかったので、日徳丸の存在に気付かなかった。
B受審人は、日徳丸が自船に向首したまま接近したが、注意喚起信号を行わず、さらに間近に接近しても、シーアンカーを放ったうえ機関をかけて前進するなど、衝突を避けるための措置をとらないで漂泊を続け、09時12分わずか前日徳丸の機関音を聞いて振り返り、至近に迫った同船の船首部を初めて認め、モーターサイレンを鳴らした直後、飛竜は、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、日徳丸は、右舷船首部外板に擦過傷を、飛竜は、船首部外板に破口を伴う損傷をそれぞれ生じ、B受審人が打撲傷を負った。
B受審人は、携帯電話でマリーナに事故発生を伝え、前示保安部に連絡を依頼し、事後の措置に当たった。
(原因)
本件衝突は、紀伊水道において、鳴門海峡に向け北上中の日徳丸が、見張り不十分で、漂泊中の飛竜を避けなかったことによって発生したが、飛竜が、見張り不十分で、注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、紀伊水道において、鳴門海峡に向け北上する場合、飛竜を見落とさないよう、船首方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、天気が悪いので漂泊して釣りをしている船舶はないものと思い、船首方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、飛竜の存在に気付かず、漂泊中の同船を避けないまま進行して衝突を招き、日徳丸の右舷船首部外板に擦過傷を、飛竜の船首部外板に破口を伴う損傷をそれぞれ生じさせ、B受審人に打撲傷を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、紀伊水道において、釣りのため漂泊する場合、日徳丸を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、船尾方を向いた姿勢で釣りに気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、日徳丸の存在と接近に気付かず、注意喚起信号を行うことも、シーアンカーを放ったうえ機関をかけて前進するなど、衝突を避けるための措置をとることもしないまま漂泊を続けて衝突を招き、前示の損傷を生じさせ、自らが負傷するに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。