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平成14年神審第125号
件名

漁船保丸プレジャーボート吉丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年3月13日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(阿部能正)

副理事官
蓮池 力

受審人
A 職名:保丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:吉丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
保 丸・・・操舵室右舷側に破損
吉 丸・・・船首部のハンドレールに曲損

原因
保 丸・・・見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守
吉 丸・・・見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守

裁決主文

 本件衝突は、両船が近距離で衝突のおそれが生じた際、保丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことと、吉丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年11月18日09時15分
 和歌山県樫野埼南方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船保丸 プレジャーボート吉丸
総トン数 4.98トン  
全長   9.45メートル
登録長 12.00メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力   40キロワット
漁船法馬力数 50  

3 事実の経過
 保丸は、ひき縄漁業に従事する木製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、かつお漁の目的で、船首0.6メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、平成13年11月18日06時15分和歌山県串本漁港を発し、樫野埼南方沖合5海里付近の漁場に向かった。
 07時15分A受審人は、漁場に到着し、多数のひき縄漁船がふくそうする状況下、操舵室後部の両舷からそれぞれ3本のひき縄を付した長さ7.5メートルの竿を1本ずつ張り出して航行しながら操業を行った。
 A受審人は、08時45分樫野埼灯台から155度(真方位、以下同じ。)5.3海里の地点において、針路を338度に定め、機関を半速力前進にかけ、5.5ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、手動操舵により進行した。
 09時05分A受審人は、樫野埼灯台から152度3.4海里の地点で、複数のひき縄にかつおが釣れたので、操舵室から出て船尾甲板で取り込み作業を行っていたところ、やがて自船の針路が少しずつ左偏する状況となった。
 A受審人は、09時09分半樫野埼灯台から153度3.0海里の地点で、船首が315度を向いて、右舷船首2度1.0海里のところに、南下中の吉丸を視認し得る状況であったが、かつおの取り込み作業に気を取られ、同船を見落とさないよう、前方の見張りを十分に行っていなかったので、吉丸の存在に気付かなかった。
 A受審人は、自船が少しずつ左偏を続け、09時12分船首が294度を向いて、吉丸が右舷船首18度1,000メートルに近づいたとき、同船が少しずつ右偏を始めたことにより、その後吉丸と近距離で衝突のおそれが生じたことに気付かず、行きあしを停止するなど、衝突を避けるための措置をとらなかった。
 こうして、保丸は、A受審人が釣れたかつおの取り込み作業を続け、なおも左偏傾向で続航中、09時15分樫野埼灯台から160度2.6海里の地点において、船首を270度に向けて、原速力のまま、その右舷側後部に、吉丸の船首部が直角に衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の北東風が吹き、視界は良好であった。
 また、吉丸は、FRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、ひき縄によるかつお釣りの目的で、船首0.4メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同日06時10分和歌山県動鳴気(どめき)漁港を発し、樫野埼南方沖合3海里付近の釣り場に向かった。
 B受審人は、07時00分釣り場に到着し、多数のひき縄漁船がふくそうする状況下、操舵室前部の両舷からそれぞれ3本のひき縄を付した長さ6.0メートルの竿を1本ずつ張り出して航行しながら釣りを開始した。
 その後、B受審人は、09時05分樫野埼灯台から171度1.6海里の地点において、針路を135度に定め、機関を半速力前進にかけ、6.5ノットの速力で、手動操舵により進行した。
 09時09分半B受審人は、樫野埼灯台から163度2.0海里の地点に達したとき、左舷船首2度1.0海里のところに、北上中の保丸を視認し得る状況であったが、かつおが釣れたかどうか、竿先を注視することに気を取られ、同船を見落とさないよう、前方の見張りを十分に行っていなかったので、保丸の存在に気付かなかった。
 B受審人は、09時12分樫野埼灯台から160度2.3海里の地点で、保丸が左舷船首3度1,000メートルに近づいたとき、左舷側のひき縄に海藻が掛かったので、操舵室から出て船尾甲板で除去作業を開始したことから、自船の針路が少しずつ右偏する状況となった。
 B受審人は、自船が少しずつ右偏を続け、保丸が少しずつ左偏を続けることにより、その後同船と近距離で衝突のおそれが生じたことに気付かず、行きあしを停止するなど、衝突を避けるための措置をとらなかった。
 こうして、吉丸は、B受審人が海藻の除去作業を続け、なおも右偏傾向で続航中、船首を180度に向けて、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、保丸は操舵室右舷側に破損を、吉丸は船首部のハンドレールに曲損をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、和歌山県樫野埼南方沖合において、ひき縄漁により北上中の保丸と、ひき縄による釣りを行いながら南下中の吉丸とが近距離で衝突のおそれが生じた際、保丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことと、吉丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、和歌山県樫野埼南方沖合において、ひき縄漁に従事し、釣れたかつおの取り込み作業を行いながら北上する場合、吉丸を見落とさないよう、前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、かつおの取り込み作業に気を取られ、前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、自船が少しずつ左偏を続け、吉丸が少しずつ右偏を始めたことにより、同船と近距離で衝突のおそれが生じたことに気付かず、行きあしを停止するなど、衝突を避けるための措置をとることなく進行して衝突を招き、自船の操舵室右舷側に破損を、吉丸の船首部のハンドレールに曲損をそれぞれ生じさせるに至った。
 B受審人は、和歌山県樫野埼南方沖合において、ひき縄による釣りを行いながら南下する場合、保丸を見落とさないよう、前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、かつおが釣れたかどうか、竿先を注視することに気を取られ、前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、自船が少しずつ右偏を続け、保丸が少しずつ左偏を始めたことにより、同船と近距離で衝突のおそれが生じたことに気付かず、行きあしを停止するなど、衝突を避けるための措置をとることなく進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。


参考図





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