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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成15年横審第7号
件名

漁船八汐丸漁船宝正丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年3月28日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(黒岩 貢)

理事官
松浦数雄

受審人
A 職名:八汐丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:宝正丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
八汐丸・・・船首部に損傷、船体前部船底に擦過傷
宝正丸・・・右舷中央部外板及び操舵室を損壊、のち廃船

原因
八汐丸・・・見張り不十分、各種船間の航法(避航動作)不遵守(主因)
宝正丸・・・見張り不十分、注意喚起信号不履行、各種船間の航法(協力動作)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は、八汐丸が、見張り不十分で、漁労に従事する宝正丸の進路を避けなかったことによって発生したが、宝正丸が、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年10月14日06時10分
 三河湾

2 船舶の要目
船種船名 漁船八汐丸 漁船宝正丸
総トン数 4.9トン 4.73トン
登録長 11.45メートル 11.62メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 213キロワット  
漁船法馬力数   35

3 事実の経過
 八汐丸は、あさり漁に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、あさり水揚げの目的で、船首0.4メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成14年10月14日02時30分愛知県佐久島漁港入ヶ浦地区を発し、同県西幡豆漁港鳥羽地区において前日漁獲したあさりを水揚げしたのち、05時55分同港を発進して佐久島への帰途に就いた。
 06時04分少し前A受審人は、中島灯標から306度(真方位、以下同じ。)50メートルの地点に達したとき、針路を216度に定め、機関を全速力前進にかけ、17.5ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で手動操舵により進行した。
 ところで、佐久島北方海域は、えびけた網漁が盛んに行われており、特に10月はその最盛期であった。同漁は、けたと呼ばれる直径25ミリメートルの鉄製丸棒で作られた横幅5メートル高さ0.23メートルの長方形の枠に漁網を取り付けた漁具を、船尾から延出した長さ60メートル直径12ミリメートルのワイヤロープの曳索により3.0ノット程度の速力で曳く漁法であり、通常、曳網に10分、揚網及び投網に3分ほど要していた。また、周辺海域を航行する他船の運航者は、同漁を行う漁船が揚網のための独特のマストを備えているため、一見しただけでえびけた網漁の漁船と判断することができた。
 06時08分A受審人は、中島灯標から217度1.2海里の地点に至ったとき、左舷船首7度950メートルに宝正丸を認めることができ、同船が漁労に従事している船舶が表示する形象物(以下「形象物」という。)を掲げていないものの、そのマストの形状や船尾から後方に延びる曳索、また、極低速力で航行している点から見て同船がえびけた網漁業に従事中であることが分かる状況であった。しかしながらA受審人は、水揚げを終えたことで安堵し、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、宝正丸の存在にも、その後同船のコンパス方位に明確な変化がなく互いに衝突のおそれのある態勢で接近していることにも気付かず、漁労に従事する宝正丸の進路を避けないまま続航した。
 06時09分半わずか前A受審人は、同方位300メートルに接近した宝正丸を初めて認めたものの、同船が漁労中であることに気付かず、その後同船から目を離して進行中、06時10分八汐丸は、中島灯標から217度1.8海里の地点において、原針路、原速力のまま、その船首が宝正丸の右舷中央部に後方から41度の角度で衝突し、乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風力2の北北東風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
 また、宝正丸は、えびけた網漁に従事する木造漁船で、B受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首1.30メートル船尾1.43メートルの喫水をもって、同日05時00分愛知県形原漁港を発し、佐久島北東方2海里沖合の漁場に向かった。
 05時50分ごろ漁場に着いたB受審人は、形象物を掲げないまま第1回目の操業を開始し、06時00分ごろ揚網したのち、直ちに第2回目の操業にかかることとし、同時03分半わずか過ぎ中島灯標から209.5度1.6海里の地点において投網し、針路を257度に定め、機関を半速力前進にかけ、3.0ノットの速力として舵柄による手動操舵により進行し、まもなく操舵室左舷側甲板上に移動して第1回目の操業でとれた漁獲物の選別作業を始め、周囲の見張りを十分に行わないまま続航した。
 06時08分B受審人は、中島灯標から215度1.7海里の地点に達したとき、右舷船尾48度950メートルに佐久島に向け航行中の八汐丸を認めることができ、その後同船のコンパス方位に明確な変化がなく、互いに衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったが、依然、漁獲物の選別作業に気を取られ、周囲の見張りを十分に行っていなかったため、八汐丸の接近に気付かず、有効な音響による注意喚起信号を行わないまま進行した。
 06時09分半わずか前B受審人は、八汐丸が避航動作をとらないまま同方位300メートルに接近したが、依然、周囲の見張りが不十分で、このことに気付かず、機関を停止するなど衝突を避けるための措置をとることなく続航中、宝正丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、八汐丸は、船首部に損傷を、船体前部船底に擦過傷をそれぞれ生じ、宝正丸は、右舷中央部外板及び操舵室を損壊し、のち廃船とされた。

(原因)
 本件衝突は、三河湾において、八汐丸が、見張り不十分で、漁労に従事する宝正丸の進路を避けなかったことによって発生したが、宝正丸が、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、三河湾において、水揚げを終えて帰港する場合、漁労に従事する宝正丸を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は、水揚げを終えたことで安堵し、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、宝正丸への接近に気付かず、漁労に従事する同船を避けることなく進行して衝突を招き、自船の船首部に損傷を、船体前部船底に擦過傷をそれぞれ生じさせ、宝正丸の操舵室等を損壊して廃船とせしめるに至った。
 B受審人は、三河湾において、漁労に従事する場合、自船に接近する八汐丸を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は、漁獲物の選別作業に気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、八汐丸の接近に気付かず、有効な音響による注意喚起信号を行うことも、機関を停止するなど衝突を避けるための措置をとることもなく操業を続けて同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、自船を廃船とせしめるに至った。 


参考図
(拡大画面:25KB)





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