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平成14年横審第125号
件名

ケミカルタンカー栄和丸貨物船エバー リウォード衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年3月28日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(黒岩 貢、甲斐賢一郎、稲木秀邦)

理事官
織戸孝治

受審人
A 職名:栄和丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
指定海難関係人
B 職名:エバー リウォード船長

損害
栄和丸・・・右舷船尾を大破、機関室に浸水、のち沈没
船長ほか乗組員全員が打撲、肋骨骨折等
エ 号・・・球状船首部及び右舷船首部凹損

原因
エ 号・・・横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
栄和丸・・・警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、エバー リウォードが、前路を左方に横切る栄和丸の進路を避けなかったことによって発生したが、栄和丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年10月5日03時05分
 静岡県石廊埼西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 ケミカルタンカー栄和丸 貨物船エバー リウォード
総トン数 411トン 53,103トン
全長 57.80メートル 294.13メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 34,421キロワット

3 事実の経過
 栄和丸は、京浜、阪神間のケミカル製品輸送に従事する船尾船橋型液体化学薬品ばら積船兼油タンカーで、A受審人ほか3人が乗り組み、キシレン500トンを積載し、船首3.20メートル船尾4.00メートルの喫水をもって、平成14年10月4日10時50分鹿島港を発し、名古屋港に向かった。
 A受審人は、航海当直を単独の4時間交代輪番制とし、00時から04時及び12時から16時を自らが行い、04時から08時及び16時から20時を一等航海士に、08時から12時及び20時から00時を二等航海士にそれぞれ行わせ、23時45分伊豆半島東岸の稲取(いなとり)岬南東方沖合約3海里の地点において2等航海士から当直を引き継ぎ、法定灯火を表示して同半島沖合を西行した。
 ところで、伊豆半島南西方沖合は、本州南岸を東西に航行する多数の船舶と、駿河(するが)湾に入る、あるいは同湾から外洋に出る船舶との間に複雑な見合い関係が生じるところであり、同海域を航行する船舶の運航者は、平素より更に厳重な見張りの下、周囲の船舶の動静を的確に判断し、適切な対応措置をとる必要があった。
 翌5日02時03分ごろA受審人は、石廊埼(いろうさき)灯台の南方1海里付近を航過し、その後多数の同航船、反航船が往来する前示海域を航行中、同時30分石廊埼灯台から256度(真方位、以下同じ。)4.6海里の地点に達したとき、自船に関係する他船が少なくなったことから、針路を265度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)とし、操舵スタンド後方のパイロットチェアーに腰を掛け、同スタンド左隣に設置されたレーダーを監視しながら進行した。
 03時00分A受審人は、左舷船首50度2.0海里にエバー リウォード(以下「エ号」という。)の他船より大きめなレーダー映像を初めて探知するとともに、肉眼により同船の白、白、緑3灯を認め、その動静を監視したところ、同時01分石廊埼灯台から261度9.7海里の地点に達したとき、同方位1.6海里となった同船が前路を右方に横切り、衝突のおそれのある態勢で接近していることを知ったが、警告信号を行うことなく続航した。
 03時03分半A受審人は、エ号が左舷船首47度1,200メートルまで接近し、同船が適切な避航動作をとっていないことが明らかになったが、いずれ同船が自船の進路を避けるものと思い、念のため手動操舵に切り替えたものの、大きく右転するなどの衝突を避けるための動作をとることなく、このころ、エ号が小舵角で右転を開始したことに気付かないまま進行した。
 03時04分半A受審人は、エ号が明確な方位変化がないまま700メートルに接近し、マスト灯の開き具合も変わらないように思えたことからようやく衝突の危険を感じ、船尾方を替わすこととして左舵一杯としたが及ばず、03時05分栄和丸は、石廊埼灯台から261度10.4海里の地点において、180度を向首して約7ノットの速力となったとき、その右舷船尾にエ号の船首が前方から45度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力4の北西風が吹き、視界は良好であった。
 また、エ号は、船尾船橋型コンテナ運搬船で、B指定海難関係人ほか18人が乗り組み、コンテナ貨物33,341.4トンを積載し、船首11.70メートル船尾12.30メートルの喫水をもって、同月4日19時00分京浜港を発し、法定灯火を表示して清水港に向かった。
 B指定海難関係人は、航海当直を4時間交代輪番制とし、00時から04時及び12時から16時を二等航海士に、04時から08時及び16時から20時を一等航海士に、08時から12時及び20時から00時を三等航海士にそれぞれ行わせ、各直に甲板手1人を配していた。
 また、B指定海難関係人は、日本沿岸の航行経験が豊富で、伊豆半島南西方沖合の前示海域事情についてよく知っており、さらにエ号クラスの大型船に乗船することが多かったことから、浦賀水道航路から航行船の比較的少ない伊豆大島南方を迂回(うかい)して神子元島(みこもとしま)南方10海里地点を通過し、石廊埼灯台南西方16海里まで西進したのち針路を北に転じ、自らの操船で東西に航行する船舶を避けながら駿河湾に入る航海計画を立て、同転針地点の7海里手前となったとき自らに報告するよう海図に記載していた。
 翌5日02時15分B指定海難関係人は、石廊埼灯台から199度12海里付近で昇橋し、当直中の二等航海士から操船の指揮を引き継ぎ、同時36分同灯台から227.5度15.8海里の地点に達したとき、針路を駿河湾に向く008度に定め、機関を全速力前進より少し減じ、19.0ノットの速力とし、同航海士をレーダー監視に、甲板手を手動操舵にそれぞれ付けて進行した。
 B指定海難関係人は、自らも6海里レンジとしたレーダーを時々監視し、画面上に映る数隻の横切り船に注意しながら続航中、02時50分右舷船首25度6.0海里に栄和丸の映像を初めて探知するとともに、肉眼により同船の白、白、紅3灯を認め、まもなく二等航海士から、自動衝突予防援助装置(以下「アルパ」という。)により表示される同船との最接近距離(以下「CPA」という。)が0.3海里であるとの報告を受けたが、まだ距離もあったので、同船よりも自船寄りを横切る態勢の他船に注意しながら進行した。
 03時01分B指定海難関係人は、石廊埼灯台から255度10.9海里の地点に至り、栄和丸以外の航行船をすべて替わしたとき、栄和丸は右舷船首27度1.7海里に接近し、明確な方位の変化が見られなかったことから、同船が前路を左方に横切り衝突のおそれがあるものと判断した。
 ところで、エ号の海上試運転成績書によると、速力25.0ノット、船首喫水6.84メートル船尾喫水8.58メートルの半載状態において、舵角35度で右転すると、最大縦距が989メートル、最大横距が1,289メートルとなり、90度回頭するのに約2分を要するとされ、小舵角で回頭した場合、それら数値が大幅に増大し、舵角10度では最大縦距、同横距とも倍以上になることが予測された。また、エ号の船橋から船首までの距離は優に210メートルを超えることから、他船を避航する際には、船首から他船までの距離を考慮し、できる限り早期に、かつ、大幅な動作をとることが求められた。
 しかしながら、B指定海難関係人は、まだ余裕があるものと思い、直ちに避航動作をとることなく、03時02分半二等航海士からアルパによるCPAが0.2海里との報告があっても直ぐに行動に移らず、同時03分半栄和丸の灯火を右舷船首30度1,400メートルに見るようになり、船首から同船までの距離が1,200メートルとなったとき、ようやく右舵10度を令して避航を開始した。
 03時04分B指定海難関係人は、栄和丸の灯火が甲板上に積まれたコンテナの陰に入って見えなくなっても、同船の灯火が船首左舷側から見えてくることを期待しつつ、舵角10度のまま右回頭を続けたが、予想に反して現れず、同時04分半右舵20度、同時05分わずか前右舵一杯をそれぞれ令したが及ばず、エ号はほぼ原速力のまま045度を向首したとき前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、栄和丸は、右舷船尾に大破口を生じて機関室に浸水し、積荷のキシレンを漏洩(ろうえい)しつつ北西方に流され、同日10時16分石廊埼灯台の西北西11海里の地点で沈没し、乗組員全員は、衝突直後、救命筏で離船して他船に救助されたが、A受審人が2箇月間の入院加療を要する胸椎圧迫骨折等を、同船一等航海士Hが2箇月間の入院加療を要する肋骨骨折、頚椎棘突起剥離骨折等を、同船二等航海士Fが1週間の加療を要する右足打撲を、同船機関長Tが2週間の加療を要する頭部打撲等をそれぞれ負った。また、エ号は、球状船首部及び右舷船首部にそれぞれ凹損を生じ、衝突後、付近海域に停船し、照射灯により栄和丸乗組員の捜索を行ったが発見できず、07時50分海上保安庁から同乗組員救助の連絡を受けて清水港に向かった。

(原因)
 本件衝突は、夜間、静岡県石廊埼西方沖合において、エ号が、前路を左方に横切る栄和丸の進路を避けなかったことによって発生したが、栄和丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、夜間、静岡県石廊埼西方沖合を西行中、前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近するエ号の灯火を認め、同船が適切な避航動作をとっていないことが明らかになった場合、大きく右転するなど衝突を避けるための動作をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、いずれエ号が自船の進路を避けるものと思い、衝突を避けるための動作をとらなかった職務上の過失により、エ号との衝突を招き、右舷船尾機関室付近に生じた大破口からの浸水により自船を沈没せしめ、エ号の船首部に凹損を生じさせるとともに、自船乗組員全員に肋骨骨折等を負わせ、自らも胸椎圧迫骨折等を負うに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、夜間、静岡県石廊埼西方沖合を北上中、前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近する栄和丸の灯火を認めた際、直ちに同船の進路を避けなかったことは本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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