日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成14年横審第123号
件名

旅客船ありあけ貨物船ポーラーリヒト衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年3月20日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(長谷川峯清、原 清澄、小須田 敏)

理事官
松浦数雄

受審人
A 職名:ありあけ船長 海技免状:一級海技士(航海)

損害
ありあけ・・・左舷船尾部外板に凹損等
ポ 号・・・右舷船尾部外板に破口等

原因
ありあけ・・・操船(主機の操作状態の確認不十分)不適切

主文

 本件衝突は、主機の操作状態の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年9月8日16時37分
 京浜港東京区

2 船舶の要目
船種船名 旅客船ありあけ 貨物船ポーラーリヒト
総トン数 7,910トン 11,417トン
全長 166.86メートル  
登録長   144.91メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 17,652キロワット 11,473キロワット

3 事実の経過
 ありあけは、一般旅客定期航路事業における貨客等の輸送に従事する2機2軸1舵の貨客船兼自動車航送船で、A受審人ほか21人が乗り組み、旅客141人を乗せ、シャーシ35台、車両110台及びコンテナ貨物等3,628トンを積み、船首5.40メートル船尾6.90メートルの喫水をもって、平成14年9月8日16時30分京浜港東京区第3区10号地ふ頭(以下「10号地ふ頭」という。)を発し、鹿児島県志布志港に向かった。
 ところで、ありあけは、操舵室が船首端から後方約51メートルに、並びにランプウェイが右舷船首部及び左右両舷船尾部にそれぞれ配置され、左右各舷に主機各1機及び内回りの固定ピッチプロペラ各1軸並びに電動機駆動で出力970キロワットのバウ及び同出力790キロワットのスタン両スラスタ(以下「両スラスタ」という。)がそれぞれ装備され、操舵室内主機遠隔操縦盤に左右各主機別に操作レバーが備えられたテレグラフ、両舷ウイングに両スラスタ操作盤並びに同室外のウイング側側壁に左右各主機別の回転計及び舵角指示器がそれぞれ設けられていた。
 10号地ふ頭は、東京東航路の航行管制信号を行っている10号地信号所から325度(真方位、以下同じ。)1,430メートルの地点を北西端とし、同地点から146度方向に幅500メートルの台形状に築造された埋立地で、同ふ頭南西面が長さ1,500メートルの公共岸壁で、同面北西端から南東方に向かってアルファベット順にAからKまでのバース符号が付されていた。
 10号地ふ頭の南西方対岸は、10号地信号所から309度1,490メートルの地点から南東方に同ふ頭と平行に築造された長さ1,800メートルのお台場ライナーふ頭で、同地点から南東方に向かってアルファベット順にAからIまでのバース符号が付された公共岸壁になっていた。
 10号地及びお台場ライナー両ふ頭間の水域は、京浜港東京区第2区の有明ふ頭前面水路に接続する幅400メートルの水路(以下「10号地ふ頭西側水路」という。)になっていた。
 ありあけは、京浜港東京区と沖縄県那覇港との間を2週3便で定期運航しており、京浜港東京区における専用岸壁として10号地ふ頭A岸壁(以下「A岸壁」という。)を使用し、ランプウェイの配置の都合により同岸壁に入船右舷着けしていた。
 O運輸株式会社(以下「O運輸」という。)は、A岸壁への着離岸操船要領として、入港時には、東京東航路から入航して10号地ふ頭西側水路に入り、A岸壁前面で行きあしを止め、両スラスタにより右方に横移動して着岸すること、一方、出港時には、両スラスタにより左方に横移動して離岸したのち、両舷機を適宜使用して左舷後方に後退し、同水路中央に至ったら行きあしを止め、両舷機、両スラスタ及び舵を併用してその場右回頭し、入港時と逆の進路で同航路に向かうことを運航管理規定の運航基準に定め、同規定をありあけに備えて乗組員に周知していた。
 A受審人は、昭和49年3月O運輸に入社し、甲板員として同社所有の旅客船等に乗船したのち、平成2年2月から航海士を執職し、同13年8月から船長職を執ることになり、以後京浜港東京区の出港操船を、翌14年9月までに10回以上経験していた。
 こうして、A受審人は、16時00分に昇橋して左舷正横わずか後方のお台場ライナーふ頭A、B両岸壁間に入船左舷着け係留しているポーラーリヒト(以下「ポ号」という。)を認めたのち、出港配置として、操舵室に三等航海士及び甲板員1人をテレグラフ操作及び手動操舵に、船首に一等航海士、甲板長及び甲板員3人を、船尾に二等航海士及び甲板員2人をそれぞれ就かせ、自ら右舷ウイングの両スラスタ操作盤の後部に立ち、同時30分マイクとスピーカーとによって操船号令及び前後部との連絡を取りながら離岸を始めた。
 16時31分半A受審人は、10号地信号所から323度1,340メートルの地点で、右舵一杯及び両スラスタによりA岸壁からほぼ船幅分離岸したとき、左舷機を極微速力後進にかけ、両スラスタを用いて右回頭しながら後退を始め、同時32分左舷機を微速力後進にかけ、同時33分左舵一杯として右舷機も微速力後進にかけ、後進行きあしを増大させながら、10号地ふ頭西側水路の中央に向かって後退を続けた。
 16時34分A受審人は、10号地信号所から322度1,270メートルの地点で、船首が000度を向き、ポ号の右舷船尾端が左舷船尾40度330メートルとなり、二等航海士から同船までの距離が約250メートルとの報告を受けたとき、左舷機を停止した。
 16時35分A受審人は、10号地信号所から319度1,230メートルの地点で、船首が024度を向き、ポ号の右舷船尾端が左舷船尾23度260メートルとなり、二等航海士から同船までの距離が約170メートルとの報告を受けたとき、操船位置が10号地ふ頭西側水路中央付近に至ったら、後進行きあしを止めてその場右回頭を行うつもりで、左舷機を極微速力前進及び右舷機を極微速力後進にかけて右舵一杯とし、右回頭しながら後退を続けた。
 16時35分半A受審人は、10号地信号所から317度1,220メートルの地点に達し、船首が035度を向き、ポ号の右舷船尾端が左舷船尾16度220メートルとなり、二等航海士から同船までの距離が約130メートルとの報告を受けたとき、前進行きあしにするため右舷機を停止しようとしたところ、数日前台風の影響によって運航予定が1日遅れていたものの、何とか大幅に遅れずに出港できることになり、安心して気が緩んでいたことや、船首の右方への回頭速度が速く感じられたことなどから、停止するつもりの右舷機を左舷機と取り違えて左舷機停止の操船号令を発した。
 このとき、A受審人は、このまま後退するとポ号と衝突のおそれのある態勢で接近する状況であったが、その場右回頭を行うよう操船号令を発したから、間もなく行きあしが止まって同回頭が始まるものと思い、自らの主機操作号令をテレグラフ操作に当たっている三等航海士に確認するなり、操舵室外のウイング側側壁に取り付けられた主機回転計の指針を確認するなりして両舷機の操作状態の確認を十分に行うことなく、右舷機を左舷機と取り違えて発令したことに気づかないまま、ゆっくり右回頭しながら後退を続けた。
 16時36分半A受審人は、10号地信号所から313.5度1,210メートルの地点に達し、船首が047度を向き、ポ号の右舷船尾端が左舷船尾8度160メートルとなったとき、一向に後進行きあしが止まらないことに初めて疑問を感じ、三等航海士に左舷機が後進にかかっていないかと確認したところ、同航海士から同機は停止している旨の応答を得たと同時に、二等航海士からポ号が近い、危ないとの報告を受け、急いで両舷機を全速力前進に令したが間に合わず、16時37分10号地信号所から312度1,220メートルの地点において、船首が056度を向いて後進速力が1.9ノットになったとき、その左舷船尾が、同信号所から307度1,250メートルの地点で、ポ号の右舷船尾に直角に衝突した。
 当時、天候は晴で風力3の南東風が吹き、潮候は上げ潮の末期にあたり、視界は良好であった。
 また、ポ号は、鋼製貨物船で、クロアチア共和国籍のE船長ほか同国籍人4人及びフィリピン共和国籍人17人が乗り組み、生鮮果物3,833.917トンを積載し、船首7.35メートル船尾7.45メートルの喫水をもって、同月6日09時36分からお台場ライナーふ頭のA、B両岸壁間に、船首を326度に向けて入船左舷着け係留していたところ、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、ありあけは左舷船尾部外板に凹損及び同部ランプウェイのフレームに亀裂等の損傷を生じ、ポ号は右舷船尾部外板に破口及び同部手すりに曲損を生じたが、のちそれぞれ修理された。

(原因)
 本件衝突は、京浜港東京区第3区において、2機2軸1舵のありあけが、10号地ふ頭から離岸後、同ふ頭西側水路で反転して出航する際、両舷機の操作状態の確認が不十分で、その場右回頭を始めるため右舷機を極微速力後進から停止及び左舷機を微速力前進にかけるところ、右舷機を極微速力後進のまま左舷機を停止した状態で、同ふ頭対岸のお台場ライナーふ頭に係留しているポーラーリヒトに向け、後進行きあしのまま進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、京浜港東京区第3区において、10号地ふ頭から離岸後、同ふ頭西側水路で反転して出航する場合、同ふ頭対岸のお台場ライナーふ頭に係留中のポーラーリヒトに向けて後進行きあしのまま進行しないよう、自らの主機操作号令を、テレグラフ操作に当たっている三等航海士に確認するなり、操舵室外のウイング側側壁に取り付けられた主機回転計の指針を確認するなりして両舷機の操作状態の確認を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、右舷機を極微速力後進から停止及び左舷機を微速力前進にかけてその場右回頭を始めるつもりのところ、右舷機を左舷機と取り違え、左舷機停止の操船号令を発し、このまま右回頭しながら後退すると、ポーラーリヒトと衝突のおそれのある態勢で接近する状況であったが、その場右回頭を行うよう操船号令を発したから、間もなく行きあしが止まって同回頭が始まるものと思い、両舷機の操作状態の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、右舷機を左舷機と取り違えて発令したことに気づかないまま、後退を続けてポーラーリヒトとの衝突を招き、ありあけの左舷船尾部外板に凹損及び同部ランプウェイのフレームに亀裂等の損傷を、ポーラーリヒトの右舷船尾部外板に破口及び同部手すりに曲損をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION