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平成14年横審第108号
件名

貨物船日昌丸貨物船第八愛廣丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年3月20日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(原 清澄、長谷川峯清、花原敏朗)

理事官
松浦数雄

受審人
A 職名:日昌丸一等航海士 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:第八愛廣丸次席一等航海士 海技免状:四級海技士(航海)

損害
日昌丸・・・右舷船尾部に凹損
愛廣丸・・・左舷船首部を圧壊

原因
日昌丸・・・横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
愛廣丸・・・警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、日昌丸が、前路を左方に横切る第八愛廣丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第八愛廣丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年10月5日18時05分
 三重県神島南東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 貨物船日昌丸 貨物船第八愛廣丸
総トン数 3,515トン 498トン
全長 92.23メートル 76.15メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 2,059キロワット 735キロワット

3 事実の経過
 日昌丸は、主として海砂の輸送に従事する船尾船橋型の運搬船で、船長M及びA受審人ほか5人が乗り組み、空倉のまま、船首2.0メートル船尾5.0メートルの喫水をもって、平成12年10月5日16時00分愛知県衣浦(きぬうら)港を発し、長崎県郷ノ浦港に向かった。
 ところで、日昌丸の船橋当直は、単独4時間制とし、0時から4時までを次席一等航海士、4時から8時までを一等航海士及び8時から0時までを船長が行うようにしていた。
 出航後の後片づけを終えたA受審人は、16時15分ごろ昇橋してM船長から船橋当直を引き継ぎ、その後、狭水道である師崎(もろさき)水道を航行する際、在橋中のM船長と操舵を替わって同水道を航過したのち、広い海域に出たことから、同船長が降橋し、自ら操舵を自動に切り替えて航行を続けた。
 A受審人は、伊勢湾第3号灯浮標に接近した、17時35分神島灯台から346度(真方位、以下同じ。)2.7海里の地点に達し、M船長が再び昇橋したとき、伊勢湾から伊良湖(いらご)水道航路に向かって南下する第八愛廣丸(以下「愛廣丸」という。)を含む数隻の船舶を右舷方に初認し、17時40分少し過ぎ神島灯台から355度1.6海里の地点で、操舵を手動に切り替えて同航路に入航したとき、愛廣丸を右舷船尾4度600メートルのところに視認する状況となり、その後、同船が自船に接近する態勢で後続するのを認めながら、同航路右側を南下した。
 17時51分少し過ぎA受審人は、伊良湖水道航路を航過してM船長が降橋したのち、再び操舵を自動に切り替えて航行を続け、同時53分神島灯台から095度1.7海里の地点に達したとき、針路を155度に定め、機関を全速力前進にかけ、11.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)とし、航行中の動力船が表示する灯火を掲げ、自動操舵のまま進行した。
 A受審人は、平素、伊良湖水道航路を出航したあと西行するときには、そのまま直進して伊勢湾第2号灯浮標に並んだころ右転するようにしていたが、当時、船首方には漁船や反航船などが数隻いたことから、18時02分半神島灯台から125度3.0海里の地点で、前路の他船を替わすつもりで操舵を手動に切り替え、針路を186度に転じて続航した。
 針路を転じたところ、A受審人は、右舷船首81.5度430メートルのところに愛廣丸の白、白、紅3灯を視認でき、その後、その方位に変化のないまま、同船が前路を左方に横切る態勢で接近する状況となったが、愛廣丸が自船を追い越す船で、いずれ自船の進路を避けるものと思い込んでいたので、速やかに愛廣丸の進路を避けることなく進行した。
 18時03分少し前A受審人は、その方位に変化のないまま、衝突のおそれのある態勢で接近する愛廣丸に対し、汽笛による短音7回ないし8回を数回繰り返して吹鳴するとともに、作業灯2個を点灯して自船の存在を明示し、愛廣丸が自船の進路を避けるのを待った。
 18時04分A受審人は、神島灯台から131度3.1海里の地点に達したとき、同方位160メートルに接近した愛廣丸を視認する状況となったが、依然、同船が追越し船だから自船を避航するものと思い、速やかに機関を停止して行きあしを止めるなど、愛廣丸の進路を避けないまま進行し、同時05分わずか前衝突の危険を感じて左舵15度をとったが、及ばず、18時05分神島灯台から134度3.2海里の地点において、原針路、原速力のまま、日昌丸の右舷船尾部に、愛廣丸の左舷船首部が後方から26度の角度をもって衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の西北西風が吹き、潮候は上げ潮の初期にあたり、視界は良好で、日没は17時32分であった。
 また、愛廣丸は、主として鋼材の輸送に従事する船尾船橋型貨物船で、船長N及びB受審人ほか2人が乗り組み、空倉のまま、船首1.3メートル船尾3.1メートルの喫水をもって、同日15時00分名古屋港を発し、大阪港に向かった。
 ところで、愛廣丸の船橋当直は、単独4時間制とし、0時から4時までを一等航海士、4時から8時までを次席一等航海士及び8時から0時までを船長が行うようにしていた。
 N船長は、出港操船に引き続いて船橋当直に就き、15時47分ころ愛知県常滑(とこなめ)港の西方沖合で、B受審人に当直を引き継ぎ、降橋して休息した。
 当直を引き継いだB受審人は、伊勢湾を南下し、17時37分ころ神島灯台から338度2.4海里ばかりの地点で、伊勢湾第3号灯浮標の南東方に、伊良湖水道航路に向かって南下する日昌丸を初認し、同時42分操舵を手動に切り替えて同航路に入航したとき、左舷船首12度580メートルのところに日昌丸がおり、その後、自船と徐々に接近する状況で、同航路右側を南下した。
 17時52分半B受審人は、神島灯台から088度1.3海里の地点で、伊良湖水道航路を航過したとき、針路を155度に定め、機関を全速力前進にかけ、12.0ノットの速力とし、航行中の動力船が表示する灯火を掲げ、操舵を自動に切り替えて進行した。
 B受審人は、日昌丸の船尾灯を視認しながら続航し、18時00分半神島灯台から125度2.5海里の地点で、針路を160度に転じ、同時02分半神島灯台から129度2.8海里の地点に達したとき、左舷船首72.5度430メートルのところに、日昌丸の白、白、緑3灯を視認し、その後、同船が自船の前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったが、日昌丸が横切り船なので、いずれ自船の進路を避けて行くものと思い、針路、速力を保ったまま進行した。
 18時03分少し前B受審人は、日昌丸の汽笛音を聞き取ることはできなかったものの、汽笛と連動した灯火が点滅しているのを認め、それが自船に日昌丸の進路を避けることを促しているものと理解はしたものの、依然、日昌丸が自船の進路を避けて行くものと思い、警告信号を行うことも、更に接近したとき、衝突を避けるための協力動作をとることもなく、針路、速力を保ったまま直進した。
 18時04分B受審人は、日昌丸がその方位に変化のないまま160メートルに接近し、その後、同船が自船の前路を塞ぐ態勢となったので、同船との衝突の危険を感じ、同時05分わずか前機関を中立にするとともに、右舵一杯としたが、及ばず、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、日昌丸は、右舷船尾部に凹損を生じ、愛廣丸は、左舷船首部を圧壊したが、のち、いずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、夜間、三重県神島南東方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中、日昌丸が、前路を左方に横切る第八愛廣丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第八愛廣丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、三重県神島南東方沖合において、右舷方に白、白、紅3灯を表示して南下する第八愛廣丸を視認し、同船と著しく接近する態勢であるのを認めた場合、前路を左方に横切る態勢で接近する同船の進路を避けるべき注意義務があった。しかるに、同人は、第八愛廣丸が追越し船で、自船を避航して行くものと思い込み、第八愛廣丸の進路を避けなかった職務上の過失により、原針路、原速力のまま進行して同船との衝突を招き、自船の右舷船尾部に凹損を生じ、第八愛廣丸の左舷船首部を圧壊させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、夜間、三重県神島南東方沖合において、左舷方に白、白、緑3灯を表示して南下する日昌丸を視認し、同船と著しく接近する態勢であるのを認めた場合、前路を右方に横切る態勢で接近する同船に対し、警告信号を行い、更に接近したとき、衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、日昌丸が横切り船なので、いずれ自船の進路を避けるものと思い、日昌丸に対し、警告信号を行わず、更に接近したとき、衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により、原針路、原速力のまま進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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