(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年6月22日08時30分
千葉県犬吠埼東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第三十三伊東丸 |
漁船第三十三不動丸 |
総トン数 |
315トン |
305トン |
全長 |
58.60メートル |
59.18メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,154キロワット |
1,154キロワット |
3 事実の経過
第三十三伊東丸(以下「伊東丸」という。)は、網船の第五十一伊東丸ほか2隻と船団を組み、大中型まき網漁業に運搬船として従事する鋼製漁船で、A受審人ほか7人が乗り組み、さば・いわし漁の目的で、船首2.60メートル船尾3.20メートルの喫水をもって、平成12年6月22日00時05分、千葉県銚子港を船団とともに発し、同県犬吠埼東方沖合の漁場に向かい、02時ごろ犬吠埼東方約10海里の地点で魚群の探索を開始した。
ところで、同漁場では、魚群が出現する狭い水域で多数のまき網船団が蝟して操業していたので、各船団は、互いの操業状況を確認するため、付近の他船の動静監視を十分に行う必要があり、また、まき網船団間の取り決めのひとつとして、他の船団の網船が網を投入したのち、運搬船等が魚群の追込作業のため急旋回を開始したとき、他船はそれらの船の旋回圏を避けることにしていた。
伊東丸は、船団とともに魚群の探索を続け、同日08時ごろには犬吠埼東方約9海里の海域で探索をしていたが、08時20分網船から投網したとの連絡を受けた。
A受審人は、08時25分犬吠埼灯台から090度(真方位、以下同じ。)8.8海里の地点を基点とし、基点から142度730メートルの地点に達したとき、網船に接近するため、針路を270度に定め、機関を回転数毎分380の極微速力前進にかけ、3.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、手動操舵により進行した。
A受審人は、定針したとき右舷船首10度390メートルのところに、船首を南西に向けて航走する第三十三不動丸(以下「不動丸」という。)を初めて視認し、その後同船が右急旋回を開始したことを認め、同船が追込作業中であることを知ったが、付近に展張されていた他船団のまき網の状況をレーダーで確認することに気を取られ、同船の動静監視を十分に行わないまま続航した。
08時28分少し過ぎA受審人は、基点から164度590メートルの地点で、右舷船首18度320メートルのところに、右急旋回中の不動丸が存在し、このまま同船が右急旋回を続けると衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったが、依然不動丸の動静監視を行っていなかったので、このことに気付かず、同船の旋回圏を避ける針路に変更するなど、衝突を避けるための措置をとることなく進行した。
08時30分わずか前A受審人は、右舷船尾至近に接近した不動丸を認めたが、どうするいとまもなく、08時30分、犬吠埼灯台から092度8.8海里の地点において、伊東丸は、原針路、原速力のまま、その右舷後部に不動丸の左舷船首が後方から30度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力3の北風が吹き、視界は良好であった。
また、不動丸は、網船の第二十一不動丸ほか1隻と船団を組み、大中型まき網漁業に運搬船として従事する鋼製漁船で、B受審人ほか10人が乗り組み、さば・いわし漁の目的で、船首2.60メートル船尾4.20メートルの喫水をもって、同日00時00分、銚子港を船団とともに発し、犬吠埼北東方沖合の漁場に至って、魚群の探索を開始した。
B受審人は、08時15分基点から050度1.5海里の地点に達したとき、網船から投網したので追い込みを開始するよう指示を受け、針路を220度に定めて機関を回転数毎分500の半速力前進にかけ、10.0ノットの速力で、手動操舵により進行した。
B受審人は、定針したとき左舷船首7度約1.5海里のところに、伊東丸を初めて視認し、その後同船を左舷正横に約350メートル離して航過した。
08時25分少し過ぎB受審人は、基点から174度540メートルの地点に至って、追込作業にとりかかることとし、右舵一杯をとり、機関を回転数毎分450の8.0ノットに下げ、右急旋回を始めた。
08時26分少し過ぎB受審人は、基点から197度460メートルの地点で、船首が045度に向いたとき、右舷船首60度520メートルのところに、西行する伊東丸が自船の旋回圏に向かって直進してくるのを認めたが、同船は同業船なので、操業中の取り決めを知っており、いずれ追込作業中の自船の旋回圏に入るのを避けるものと思い、伊東丸の動静監視を十分に行わないまま2周目の右急旋回を続けた。
08時28分少し過ぎB受審人は、基点から197度490メートルの地点にて、船首が315度に向いたとき、右舷船尾60度320メートルのところに、西行する伊東丸を認め、このまま右急旋回を続けると同船と衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったが、依然、伊東丸の動静監視を十分に行っていなかったので、このことに気付かず、追込作業を中止するなど、衝突を避けるための措置をとることなく、右急旋回を続行した。
08時29分少し過ぎB受審人は、船首が225度に向いたとき、左舷船首43度80メートルのところに接近した伊東丸を認め、衝突の危険を感じ、機関を全速力後進としてバウスラスタを右回頭としたが、及ばず、船首が240度に向首し、速力が2ノットとなったとき、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、伊東丸は右舷後部外板及び右舷船橋ウイング外板を凹損し、不動丸は船首楼甲板左舷側の錨固定台及び錨をそれぞれ損傷したが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件衝突は、千葉県犬吠埼東方沖合において、まき網船団の網船が、魚群の追込作業のために、運搬船等の急旋回を開始させたとき、同作業の支障とならないよう、他船はその旋回圏に接近しないという船団間の取り決めの下で操業を行う際、西行中の第三十三伊東丸が、動静監視不十分で、前路で追込作業のため右急旋回中の第三十三不動丸を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、第三十三不動丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、千葉県犬吠埼東方沖合において、まき網船団の網船が、魚群の追込作業のために、運搬船等の急旋回を開始させたとき、同作業の支障とならないよう、他船はその旋回圏に接近しないという船団間の取り決めの下で、前方に追込作業のため急旋回する第三十三不動丸を認めた場合、同船の旋回圏を避けるよう、同船の動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、付近に展張された他船団のまき網の状況をレーダーで確認することに気を取られ、第三十三不動丸の動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、針路を変更して同船の旋回圏を避けるなど、衝突を避けるための措置をとらないまま進行して、第三十三不動丸との衝突を招き、自船の右舷後部外板及び右舷船橋ウイング外板に凹損を、第三十三不動丸の錨固定台及び錨に損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、千葉県犬吠埼東方沖合において、自船が行っている追込作業の旋回圏に第三十三伊東丸が接近するのを認めた場合、同船の動静監視を十分に行わず、追込作業を中止するなど、衝突を避けるための措置をとらなかったことは、本件発生の原因となる。しかしながら、以上のB受審人の所為に対しては、まき網船団の網船が、魚群の追込作業のために、運搬船等の急旋回を開始させたとき、同作業の支障とならないよう、他船はその旋回圏に接近しないという船団間の取り決めがあった点に徴し、職務上の過失とするまでもない。
よって主文のとおり裁決する。