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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成14年函審第56号
件名

プレジャーボートエム・マツハシプレジャーボートティーエス衝突事件
二審請求者〔理事官千手末年〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年3月19日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(古川隆一、安藤周二、工藤民雄)

理事官
千手末年

受審人
A 職名:エム・マツハシ船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
C 職名:ティーエス船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:エム・マツハシ操縦者

損害
マツハシ・・・左舷中央部に破口等
操縦者が左橈骨骨折等、船長が頚椎捻挫等、同乗者が頚椎捻挫
ティーエス・・・右舷船首部船底に破口等、転覆

原因
マツハシ・・・船員の常務(避航動作)不遵守
ティーエス・・・見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守

主文

 本件衝突は、エム・マツハシとティーエスの両船が近距離でほぼ同時に発進して衝突のおそれが生じた際、エム・マツハシが、衝突を避けるための措置をとらなかったことと、ティーエスが、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aの四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Cの四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年8月12日15時00分
 北海道札受漁港東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート プレジャーボート
  エム・マツハシ ティーエス
全長 3.15メートル 2.86メートル
機関の種類 電気点火機関 電気点火機関
出力 55キロワット 89キロワット

3 事実の経過
 エム・マツハシ(以下「マツハシ」という。)は、最大搭載人員3人のFRP製水上オートバイで、平成13年8月12日11時45分北海道礼受漁港東方の水上オートバイ遊走区域(以下「遊走区域」という。)に陸送された後、A受審人が操縦に当たり、後部座席に弟のB指定海難関係人や家族を乗せて遊走していた。
 B指定海難関係人は、海技資格を有していないことを自覚していたものの、何度かA受審人と同乗のうえ操縦経験があったことから、単独で操縦したくなってその旨を同受審人に願い出た。
 その際、A受審人は、無資格のB指定海難関係人に単独で操縦させてはならないことを自覚していたが、これまで自ら指揮をとって操縦させていたから大丈夫と思い、マツハシに乗り組んで操縦の指揮をとることなく、同人の願いを受け入れた。
 B指定海難関係人は、マツハシに単独で乗り組み、14時40分海岸を発進して遊走区域で遊走し、同時59分30秒家族のいる海岸近くに戻って停留したのち、海岸線に平行に進行して礼受漁港の防波堤付近で沖に向かうことにした。
 マツハシは、船首0.10メートル船尾0.15メートルの喫水をもって、14時59分38秒留萌灯台から203度(真方位、以下同じ。)2.7海里の礼受漁港北防波堤北端部に位置する灯柱(以下「灯柱」という。)から072度410メートルの地点を発進し、同漁港に向く212度の針路に定め、スロットルレバー3分の1開の6.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
 B指定海難関係人は、操縦席にまたがって立った姿勢で操縦に当たり、発進したとき、左舷船首16度104メートルに、船首を沖に向けて操縦席に1人が乗りその後方に1人が乗り込もうとしているティーエスを初めて視認し、ごく低速力で進行し始めた同船の動静を監視しながら続航した。
 その後、B指定海難関係人は、ティーエスと衝突のおそれがある態勢で接近し、14時59分53秒灯柱から077度375メートルの地点に達したとき、2人がティーエスに乗り込み、左舷船首14度52メートルに近付いたが、自船に気付いているだろうから相手船が停留するものと思い、直ちに右転して沖に向かうなど、衝突を避けるための措置をとらずにスロットルレバーを2分の1開として13.5ノットの速力で進行した。
 14時59分59秒B指定海難関係人は、ティーエスが左舷前方至近に迫ったときハンドルを右一杯に切って体重を右に移しスロットルレバーを全開にしたものの効なく、15時00分00秒灯柱から083度340メートルの地点において、マツハシは、船首が237度を向き、速力が21.6ノットになったとき、その左舷中央部にティーエスの右舷船首部が後方から63度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の北北西風が吹き、潮候は低潮時にあたり、視界は良好であった。
 また、ティーエスは、最大搭載人員2人のFRP製水上オートバイで、C受審人が友人から借り受け、同日11時ごろ遊走区域に到着してティーエスをトレーラーから下ろし、家族を後部座席に乗せて同区域で遊走したのち海岸に戻り、次に友人を後部座席に乗せて遊走を行うことになった。
 ティーエスは、C受審人が先に1人で操縦席に乗り組み、船首0.00メートル船尾0.30メートルの喫水をもって、14時59分37秒灯柱から086度365メートルの海岸を300度の方向に向けて発進した。
 発進直後、C受審人は、右舷船首76度104メートルに、自船の船首方に向けて進行を開始したマツハシを視認できる状況で、その後、機関の始動操作をして機関が少しの間かかっては止まりながら友人が乗り込むのを待ち、平均速力2.0ノットのごく低速力で、マツハシと衝突のおそれがある態勢で接近していたが、機関の始動操作に熱中し、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、これに気付かなかった。
 C受審人は、14時59分53秒友人を後部座席に乗り込ませ、灯柱から084.5度350メートルの地点に達したとき、マツハシが右舷船首78度52メートルに近付き、自船の船首方向に向け増速し始めたものの、行きあしを止めてマツハシが通過するのを待つなど、衝突を避けるための措置をとることなく、そのまま続航した。
 14時59分57秒C受審人は、灯柱から084度348メートルの地点で、機関がかかり、スロットルレバーを少し押して速力を6.0ノットに上げ、同じ針路のまま進行中、右舷至近に迫ったマツハシを初めて認め、同レバーを放したものの、原針路、原速力で、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、マツハシは、左舷中央部に破口等を生じ、ティーエスは、右舷船首部船底に破口等を生じて転覆し、B指定海難関係人が左橈骨骨折等を、C受審人が頚椎捻挫等を、及び同乗者が頚椎捻挫をそれぞれ負った。

(原因)
 本件衝突は、北海道礼受漁港東方の水上オートバイ遊走区域において、マツハシとティーエスの両船が近距離でほぼ同時に発進して衝突のおそれが生じた際、マツハシが、衝突を避けるための措置をとらなかったことと、ティーエスが、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。
 マツハシの運航が適切でなかったのは、船長が乗り組んで操縦の指揮をとらなかったことと、海技資格を有していない操縦者が船長の指揮を求めずに単独で操縦したこととによるものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、礼受漁港東方の水上オートバイ遊走区域において、B指定海難関係人から単独でマツハシを操縦したい旨の願い出を受けた場合、同人が海技資格を有していなかったから、無資格の単独操縦とならないよう、マツハシに乗り組んで操縦の指揮をとるべき注意義務があった。ところが、同受審人は、これまで自ら指揮をとって操縦させていたから大丈夫と思い、マツハシに乗り組んで操縦の指揮をとらなかった職務上の過失により、B指定海難関係人が、左舷船首近距離のところから発進してごく低速力で接近するティーエスを認めた際、衝突を避けるための措置をとらずに進行して同船との衝突を招き、マツハシの左舷中央部に破口等を、ティーエスの右舷船首部船底に破口等を生じさせ、B指定海難関係人が左橈骨骨折等を、C受審人が頚椎捻挫等を、及びティーエス同乗者が頚椎捻挫をそれぞれ負うに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 C受審人は、礼受漁港東方の水上オートバイ遊走区域において、沖合に向け発進してごく低速力で進行する場合、右方近距離のところから発進したマツハシを見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、機関の始動操作に熱中し、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、マツハシと衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、行きあしを止めて同船が通過するのを待つなど、衝突を避けるための措置をとらずに進行してマツハシとの衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B指定海難関係人が、礼受漁港東方の水上オートバイ遊走区域において遊走する際、有資格者に操縦の指揮を求めなかったばかりか、単独でマツハシの操縦に当たり、左舷船首近距離のところから発進してごく低速力で接近するティーエスを認めた際、右転して沖に向かうなど、衝突を避けるための措置をとらなかったことは本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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