日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成14年門審第133号
件名

漁船第三十六大福丸プレジャーボート剛丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年2月28日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(米原健一、河本和夫、西村敏和)

理事官
今泉豊光

受審人
A 職名:第三十六大福丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:剛丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
大福丸・・・推進器軸及び同翼などに損傷
剛 丸・・・左舷船尾外板及び操舵室などを圧壊、のち廃船
船長が第2腰椎圧迫骨折

原因
大福丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
剛 丸・・・見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第三十六大福丸が、見張り不十分で、漂泊中の剛丸を避けなかったことによって発生したが、剛丸が、見張り不十分で、避航を促す有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年5月2日08時35分
 山口県萩港

2 船舶の要目
船種船名 漁船第三十六大福丸 プレジャーボート剛丸
総トン数 13トン 2.16トン
登録長 15.88メートル 9.26メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力   66キロワット
漁船法馬力数 150  

3 事実の経過
 第三十六大福丸(以下「大福丸」という。)は、船体中央から少し船尾寄りに操舵室を有し、8隻から構成された中型まき網船団に所属する運搬船及び灯船を兼ねたFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、同船団の作業員3人を乗せ、氷を積む目的で、船首0.55メートル船尾1.00メートルの喫水をもって、平成14年5月2日08時20分山口県大島漁港を発し、僚船に続いて同県萩港中小畑浦地区に向かった。
 ところで、大福丸は、船首部の船倉に氷や漁獲物などを積み込まないで航走を始めると次第に船首部が浮上し、速力が10ノットを超えると船首構造物に遮られて前方の見通しが妨げられ、操舵室右舷寄りに立った状態では正船首から左舷15度及び右舷5度の範囲に死角が生じることから、A受審人は、平素船首を左右に振ったり、レーダーを活用するなど、前方の死角を補う見張りを行っていた。
 A受審人は、大島漁港港外に出たあと機関を全速力前進から少し落とした回転数毎分1,800にかけて20.0ノットの対地速力で、操舵室右舷寄りに立ち、左手で同室ほぼ中央の舵輪を、右手で右舷側壁際の機関操縦レバーをそれぞれ持った姿勢で操船に当たり、船首部の全ての船倉を空にしていたので、時折船首を左右に振るなど、前方に生じた死角を補う見張りを行いながら山口県越ケ浜半島北端の虎ケ埼灯台西方沖合に向けて南下した。
 A受審人は、08時30分ごろ虎ケ埼灯台西方沖合に至り、その後越ケ浜半島に沿ってゆっくり左転し、同時34分少し前同半島南西岸と九島間の、長さ約120メートル可航幅約50メートルの水道(以下「九島水道」という。)北口の、萩港小畑浦沖防波堤灯台から307度(真方位、以下同じ。)1.16海里の地点で、針路を同水道東西両側端に設置された灯標の中間を通り、同水道に沿う130度に定め、引き続き20.0ノットの対地速力で、手動操舵により進行した。
 定針したとき、A受審人は、九島水道の可航幅が狭く、同水道通航中には船首を振って前方の死角を補う見張りを十分に行うことができないので、0.25海里レンジとしたレーダーで同水道内及び南口付近に他船がいないことを確認したのち、右舷側の窓から同水道西側端に設置された灯標を注視して船位を確かめつつ続航した。
 A受審人は、08時34分わずか過ぎ九島水道を通過し、そのころ先航していた僚船が右舷船首方の中小畑浦地区入口付近に達したのを認め、同船が越ケ浜半島南岸沿いの海域を無難に航行したので、同海域に他船はいないものと思い、その後船首を左右に振るなど、前方の死角を補う見張りを十分に行わず、間もなく同地区に向けて右転するつもりで、右舷方に視線を向けたまま同じ針路で進行した。
 08時34分少し過ぎA受審人は、萩港小畑浦沖防波堤灯台から306度1.13海里の地点に差し掛かったとき、正船首500メートルのところに漂泊中の剛丸を視認でき、その後同船に衝突のおそれがある態勢で接近するのを認め得る状況であったが、依然越ケ浜半島南岸沿いの海域に他船はいないものと思い、前方の死角を補う見張りを十分に行っていなかったので、この状況に気付かず、同船を避けることなく続航中、08時35分萩港小畑浦沖防波堤灯台から305度1,400メートルの地点において、大福丸は、原針路、原速力のまま、その船首が、剛丸の左舷船尾に前方から63度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の東南東風が吹き、潮候は上げ潮の初期に当たり、視界は良好であった。
 また、剛丸は、船体後部に操舵室を有する木製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、きす釣りの目的で、船首0.50メートル船尾0.90メートルの喫水をもって、同日07時05分萩港松本川東岸の係留地を発し、同時20分前示衝突地点付近に至り、機関を停止して漂泊し、釣りを始めた。
 B受審人は、折からの微弱な潮流によって西方にゆっくりと圧流されることから、潮のぼりを行い、08時30分3回目の潮のぼりを終えて前示衝突地点付近に戻り、北方に向首して機関を停止し、右舷船尾に置いた回転いすに腰を掛け、右舷船尾方を向いて竿釣りを始めた。
 08時34分少し過ぎB受審人は、船首が013度を向いていたとき、左舷船首63度500メートルのところに九島水道を通過した大福丸を視認でき、その後同船が剛丸に向首したまま、衝突のおそれがある態勢で接近するのを認め得る状況であったが、接近する他船が漂泊中の自船を避けるものと思い、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、この状況に気付かず、所有していた笛を吹くなど、避航を促す有効な音響による信号を行わず、更に接近したとき機関を使用して移動するなど、衝突を避けるための措置をとることなく漂泊を続けた。
 B受審人は、08時35分わずか前機関音に気付いて左舷方を振り返ったところ、至近に迫った大福丸を認め、衝突の危険を感じてその場に伏せた直後、剛丸は、船首を013度に向けたまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、大福丸は、剛丸を乗り越えて推進器軸及び同翼などに損傷を生じたが、のち修理され、剛丸は、左舷船尾外板及び操舵室などを圧壊し、修理費の都合で廃船処理された。また、B受審人が35日間の入院加療を要する第2腰椎圧迫骨折を負った。

(原因)
 本件衝突は、山口県萩港の越ケ浜半島南岸沖合において、同港中小畑浦地区に向けて南下中の大福丸が、見張り不十分で、前路で漂泊中の剛丸を避けなかったことによって発生したが、剛丸が、見張り不十分で、避航を促す有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、山口県萩港の越ケ浜半島南岸沖合において、同港中小畑浦地区に向けて南下する場合、操舵室右舷寄りに立って見張りに当たると、船首浮上により、前方に死角を生じる状態であったから、前路の他船を見落とすことがないよう、船首を左右に振るなど、前方の死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、右舷船首方を先航する僚船が越ケ浜半島南岸沿いの海域を無難に航行したので、同海域に他船はいないものと思い、前方の死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で漂泊中の剛丸に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、大福丸の推進器軸及び同翼などに損傷を、剛丸の左舷船尾外板及び操舵室などにそれぞれ圧壊を生じさせ、B受審人に35日間の入院加療を要する第2腰椎圧迫骨折を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同受審人を戒告する。
 B受審人は、山口県萩港の越ケ浜半島南岸沖合において、漂泊して魚釣りを行う場合、接近する他船を見落とすことがないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、接近する他船が漂泊中の自船を避けるものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で接近する大福丸に気付かず、所有していた笛を吹くなど、避航を促す有効な音響による信号を行わず、更に接近したとき機関を使用して移動するなど、衝突を避けるための措置をとることなく漂泊を続けて衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、自らも負傷するに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同受審人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:36KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION