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平成14年門審第130号
件名

漁船寿代丸プレジャーボート美波衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年2月25日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(西村敏和)

副理事官
小俣幸伸

受審人
A 職名:寿代丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:美波船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
寿代丸・・・損傷ない
美 波・・・右舷前部に破口

原因
寿代丸・・・動静監視不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
美 波・・・見張り不十分、注意喚起信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は、寿代丸が、動静監視不十分で、前路で揚錨作業中の美波を避けなかったことによって発生したが、美波が、見張り不十分で、注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年2月14日16時00分
 鹿児島湾口

2 船舶の要目
船種船名 漁船寿代丸 プレジャーボート美波
総トン数 4.0トン 2.1トン
全長   7.07メートル
登録長 9.45メートル 6.34メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 180キロワット 52キロワット

3 事実の経過
 寿代丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.46メートル船尾0.87メートルの喫水をもって、平成14年2月14日06時30分鹿児島県指宿漁港を発し、同漁港南南西方約7海里の神瀬付近の漁場に向かった。
 ところで、神瀬は、鹿児島湾口のほぼ中央部に拡延する最浅部の水深が約1.5メートルの暗岩で、たいなどの好漁場となっていることから、同日もその周辺に漁船やプレジャーボート十数隻が錨泊するなどして釣りを行っており、また、最浅部の南南西方約500メートルのところに鹿児島湾口神瀬灯浮標(以下「神瀬灯浮標」という。)が設置されていた。
 A受審人は、鹿児島県山川港沖を南下して、07時00分神瀬灯浮標の東南東方約550メートルの漁場に到着し、薩摩長崎鼻灯台(以下「長崎鼻灯台」という。)から140度(真方位、以下同じ。)2.7海里の水深約80メートルのところに錨を投じ、錨索を約200メートル伸出して船首のたつに取り、黒色球形形象物を掲げ、スパンカを展帆して錨泊し、一本釣り漁を始めた。
 A受審人は、錨泊したまま釣りを続けていたところ、15時を過ぎたころから北西風が強くなってきたことから、15時30分ごろたいなど約15キログラムを漁獲したところで操業を切り上げて揚錨したものの、餌(えさ)が少し残っていたので、そのまま船首を北西風に立てて漂泊し、船尾甲板でいすに腰を掛け、釣竿を出して一本釣り漁を再開した。
 A受審人は、しばらく漂泊して釣ってはみたものの、全く釣れなかったので、釣道具を船尾甲板上に引き揚げて操業を止め、15時54分黒色球形形象物を降ろしてスパンカを縮帆し、発進するに先立って操舵室から進行方向を確認したとき、北西方に向いた自船の右舷前方約600メートルのところに、同じく船首を北西方に向けた美波を初めて視認し、その船首が波を切っているように見えたことから、同船は北西方に航走しているので接近することはないものと思い、同時55分前示錨泊地点付近を発進し、指宿漁港に向けて帰途に就いた。
 A受審人は、操舵室で立って操船に当たり、指宿漁港沖合に向けるため右回頭していたところ、左舷側から波浪を受けて船体が右舷側に大きく傾斜し、船尾甲板上に置いていた釣道具などが散乱したので、風浪の影響が少ない陸岸寄りの進路をとることにし、15時56分長崎鼻灯台から138.5度2.7海里の地点において、指宿漁港北北東方の知林ケ島東端に向く、針路を019度に定め、機関を回転数毎分600の微速力前進にかけ、4.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で進行した。
 定針したとき、A受審人は、正船首500メートルのところに、黒色球形形象物を掲げ、船尾にスパンカを展帆して錨泊中の美波が存在し、その後、同船に向首したまま衝突のおそれのある態勢で接近したが、発進前に美波は北西方に航走しているように見えたので、前路に他船はいないものと思い、甲板上に散乱した釣道具を片付けるため、定針後間もなく自動操舵に切り替えて操舵室を離れ、左舷船首から打ち上げる波しぶきが掛からないように操舵室の右舷後方でいすに腰を掛け、船首方を向いて前屈みの姿勢をとり、操舵室によって前方の見通しが妨げられた状態で釣道具の片付けを始め、美波に対する動静監視を十分に行っていなかったので、このことに気付かず、同船を避けることなく続航した。
 こうして、A受審人は、美波に向首したまま進行し、15時58分長崎鼻灯台から136度2.6海里の地点に達したとき、同船に250メートルまで接近し、さらに、同時59分揚錨を終えて船首を北東方に向けた同船に125メートルにまで迫ったが、釣道具の片付けに気を取られ、依然としてこのことに気付かず、同船を避けないまま続航中、16時00分長崎鼻灯台から133度2.53海里の地点において、寿代丸は、原針路、原速力のまま、その船首が、美波の右舷前部に後方から26度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力4の北西風が吹き、潮候は上げ潮の初期で、視界は良好であった。
 また、美波は、FRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、釣りの目的で、船首0.3メートル船尾0.9メートルの喫水をもって、同日09時00分指宿漁港を発し、神瀬付近の釣場に向かった。
 09時20分B受審人は、神瀬灯浮標の北東方約750メートルの釣場に到着し、水深約80メートルの前示衝突地点付近で重さ20キログラムの錨を投じ、直径14ミリメートルのナイロン製錨索を約130メートル伸出して船首クリートに止め、船尾のスパンカ用マストに黒色球形形象物を掲げ、スパンカを展帆して船首を北西風に立てて錨泊し、船尾甲板で釣竿を出して釣りを始めた。
 15時30分ごろB受審人は、北西風が強くなって付近で釣っていた漁船なども帰航し始めたので、たいなど約12キログラムを釣ったところで釣りを止めて帰航することにし、周囲を見回して接近するおそれのある他船がいないことを確認したうえで、スパンカを縮帆して形象物を掲げたまま、同時35分船首甲板で揚錨用ローラを使用して錨索の巻き揚げを始めた。
 B受審人は、錨索が残り約80メートルとなって水深とほぼ同じ長さとなったとき、錨が海底に引っ掛かって揚錨できなくなったので、一旦錨索を船首クリートに止め、機関を前進にかけて外すことにし、15時45分ごろ機関を少しの間前進にかけて錨索を緊張させたところ、錨が外れたので、機関を中立運転として漂泊し、船首甲板で船首方を向いて揚錨作業を再開した。
 15時56分B受審人は、船首を045度に向けて漂泊していたとき、右舷船尾26度500メートルのところに、自船に向首した寿代丸を視認し得る状況となり、その後、衝突のおそれのある態勢で接近したが、揚錨作業に気を取られ、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かなかった。
 こうして、B受審人は、バウスプリット上に立って錨を引き揚げていたところ、15時58分寿代丸が250メートルのところに接近し、さらに、同時59分錨の揚収を終えたとき、同船が125メートルのところに迫っていたが、依然としてこのことに気付かず、電気ホーンを吹鳴して注意喚起信号を行うことも、中立運転中の機関を使用して移動するなどの衝突を避けるための措置をとることもせず、作業を終えて操舵室に戻るため左舷側の通路を通っていたとき、美波は、船首を045度に向けて漂泊中、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、寿代丸は、損傷がなかったが、美波は、右舷前部に破口を生じたほか、キャビンの窓ガラスを破損したが、のち修理された。

(原因)
 本件衝突は、鹿児島湾口の神瀬付近において、鹿児島県指宿漁港に向けて帰航する寿代丸が、動静監視不十分で、前路で揚錨作業中の美波を避けなかったことによって発生したが、美波が、見張り不十分で、注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、鹿児島湾口の神瀬付近において、漁船など十数隻が錨泊するなどして釣りを行っている状況下、操業を終えて漁場を発進するに当たり、進行方向に船首を北西方に向けた美波を認めた場合、衝突のおそれの有無について適切に判断することができるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、美波は北西方に航走しているように見えたので、前路に他船はいないものと思い、定針後間もなく自動操舵に切り替えて操舵室を離れ、船尾甲板上に散乱した釣道具の片付けに気を取られ、同船に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、前路で黒色球形形象物を掲げて揚錨作業中の美波に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、寿代丸は損傷がなかったが、美波の右舷前部に破口を生じたほか、キャビンの窓ガラスを破損させるに至った。
 B受審人は、鹿児島湾口の神瀬付近において、漁船など十数隻が錨泊するなどして釣りを行っている状況下、揚錨作業を行う場合、接近する他船を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、揚錨作業に気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、自船に向首接近する寿代丸に気付かず、電気ホーンを吹鳴して注意喚起信号を行うことも、中立運転中の機関を使用して移動するなどの衝突を避けるための措置をとることもせずに、同作業を続けて同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。


参考図





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