日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成14年門審第62号
件名

油送船第一栄邦丸漁船明幸丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年2月20日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(橋本 學、上野延之、西村敏和)

理事官
今泉豊光

受審人
A 職名:第一栄邦丸船長 海技免状:三級海技士(航海) 
B 職名:明幸丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
栄邦丸・・・船首及び右舷前部に擦過傷
明幸丸・・・左舷中央部を圧壊
船長が頸部を捻挫

原因
栄邦丸・・・見張り不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
明幸丸・・・動静監視不十分、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第一栄邦丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る明幸丸の進路を避けなかったことによって発生したが、明幸丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aに対する懲戒を免除する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年5月20日13時00分
 山口県相島北東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 油送船第一栄邦丸
総トン数 2,920トン
全長 103.20メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 2,942キロワット
船種船名 漁船明幸丸
総トン数 4.7トン
登録長 11.75メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 80

3 事実の経過
 第一栄邦丸(以下「栄邦丸」という。)は、専ら石油製品の輸送に従事する船尾船橋型鋼製油送船で、A受審人ほか10人が乗り組み、空倉のまま、船首2.85メートル船尾4.85メートルの喫水をもって、平成13年5月19日13時00分石川県金沢港を発し、山口県徳山下松港へ向かった。
 A受審人は、平素、船橋当直を甲板部職員及び部員による2人当直4時間交替3直制に定め、自らが入直することはなかったものの、翌20日貨油ポンプ室内を全面塗装する予定であったことから、同日08時00分島根県沖で昇橋して前直の一等航海士と交替したのち、同人に、船橋当直者を含めた甲板部総員で貨油ポンプ室内の塗装作業に従事するように命じて、単独で船橋当直に当たった。
 12時00分A受審人は、当日の正午位置である高山岬灯台から349度(真方位、以下同じ。)9.5海里の地点で、針路を232度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進に掛け、12.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
 定針後、間もなく、A受審人は、昼食を食べるため、食事交替要員として昇橋した甲板員と交替して、一旦、降橋したものの、12時25分昼食を済ませたのち、再び昇橋して、引き続き、単独で船橋当直に当たって続航した。
 そして、12時49分少し前A受審人は、萩相島灯台から030度13.8海里の地点に至ったとき、右舷船首40度2.0海里のところに、南下中の明幸丸を視認できる状況となったが、食後のコーヒーを飲みたくなったことから、船橋右舷後部の湯沸かし器が置かれている棚まで移動して、コーヒーを入れることに気をとられ、見張りを十分に行わなかったので、同船に気付かないまま進行した。
 こうして、12時54分少し過ぎA受審人は、萩相島灯台から028度12.8海里の地点に達したとき、明幸丸が、前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で、同方位1.0海里まで接近したが、依然として、見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、同船の進路を避けることなく続航中、13時00分萩相島灯台から026度11.7海里の地点において、栄邦丸は、原針路、原速力で、その船首が、明幸丸の左舷中央部に後方から59度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、視界は良好であった。
 また、明幸丸は、主に延縄漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.4メートル船尾1.1メートルの喫水をもって、同月19日02時00分山口県萩漁港を発し、同港北方沖合25海里付近の漁場へ向かった。
 05時00分B受審人は、前示漁場に到着して夕刻まで操業を行ったところ、いつもより漁獲が多かったことから、燃料を節約するため沖泊まりして翌日も操業を行うこととし、付近海域で錨泊を行って翌20日早暁まで仮泊したのち、同日05時30分再び操業を開始した。
 B受審人は、前日と同様に夕刻までの予定で操業していたところ、10時ごろ妻からの携帯電話連絡で友人の訃報を知らされたことから、しばらくして、操業を中止して発航地へ向けて帰途に就き、11時30分見島灯台から052度12.6海里の地点で、針路を173度に定めて自動操舵とし、機関を半速力前進に掛け、8.0ノットの速力で進行した。
 そして、12時45分B受審人は、萩相島灯台から021度13.5海里の地点に至ったとき、左舷船首81度2.7海里のところに、栄邦丸を目視により初認したものの、未だ距離が遠かったことや自船に較べてかなり速いように感じたことから、同船は、自船の船首方を無難に航過するものと思い、その後、昼食の用意に取り掛かり、その動静監視を十分に行わないまま続航した。
 こうして、12時54分少し過ぎB受審人は、萩相島灯台から024度12.3海里の地点に達したとき、栄邦丸が、同方位1.0海里まで接近して衝突のおそれがある状況となったが、昼食の用意をすることに気をとられ、依然として、動静監視を十分に行わなかったので、このことに気付かず、その後、同船が間近に接近しても、機関を使用して行きあしを停止するなどの衝突を避けるための協力動作をとることなく進行中、明幸丸は、原針路、原速力で、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、栄邦丸は、船首及び右舷前部に擦過傷を生じ、明幸丸は、左舷中央部を圧壊したが、のちいずれも修理された。また、B受審人が頸部を捻挫するに至った。

(原因)
 本件衝突は、山口県相島北東方沖合において、栄邦丸及び明幸丸の両船が、互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、西行する栄邦丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る明幸丸の進路を避けなかったことによって発生したが、南下する明幸丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、山口県相島北東方沖合を西行中、単独で船橋当直に当たる場合、他船を見落とすことがないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、食後のコーヒーを飲みたくなったことから、船橋右舷後部の湯沸かし器が置かれている棚まで移動して、コーヒーを入れることに気をとられ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する明幸丸に気付かず、その進路を避けることなく進行して衝突を招き、自船の船首及び右舷前部に擦過傷を生じ、明幸丸の左舷中央部を圧壊させるとともに、B受審人の頸部を捻挫させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して、同人の三級海技士(航海)の業務を1箇月停止するところ、多年にわたり船員としてその職務に精励して海運の発展に寄与し、平成8年7月20日運輸大臣から永年勤続表彰された閲歴に徴し、同法第6条を適用して同人に対する懲戒を免除する。
 B受審人は、山口県相島北東方沖合において、漁場から発航地へ向けて帰航中、左舷前方に栄邦丸を視認した場合、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、未だ距離が遠かったことや自船に較べてかなり速いように感じたことから、船首方を無難に航過するものと思い、その動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近することに気付かず、間近に接近しても、機関を使用して行きあしを停止するなどの衝突を避けるための協力動作をとることなく進行して衝突を招き、前示の損傷などを生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:21KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION