(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年10月30日04時08分
長崎県壱岐島郷ノ浦港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船満漁丸 |
漁船厚生丸 |
総トン数 |
6.6トン |
4.60トン |
全長 |
15.00メートル |
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登録長 |
13.40メートル |
9.70メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
110 |
35 |
3 事実の経過
満漁丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.3メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成13年10月30日04時00分長崎県壱岐島郷ノ浦港本居地区船だまりを発し、同県長島西方沖合の漁場に向かった。
ところで、郷ノ浦港には、東部の鎌埼沖から北西部の玉埼沖にかけて、東側から順に郷ノ浦港鎌崎防波堤(以下、郷ノ浦港各防波堤の名称については「郷ノ浦港」を省略する。)、中防波堤及び西防波堤が築造され、鎌崎防波堤西端には郷ノ浦港鎌崎防波堤灯台(以下「鎌崎防波堤灯台」という。)が、中防波堤の両端には簡易標識灯(黄灯)が、更に西防波堤東端には簡易標識灯(緑灯)がそれぞれ設置され、各防波堤間の開口部が示されていた。
A受審人は、操舵室右舷側で立って手動操舵に当たり、マスト灯、両舷灯及び船尾灯を表示し、機関を微速力前進にかけて鎌崎防波堤と中防波堤との開口部に向かい、04時05分同開口部を通過し、そのころ壱岐島烏帽子埼とその南方にある原島との間(以下「原島北方」という。)から郷ノ浦港内を東行して、鎌埼北部の入江にある魚市場に向かう漁船が多い時刻帯に当たっていたので、原島北方の状況を確認したところ、漁船などを認めなかったことから、同時06分少し過ぎ鎌崎防波堤灯台から245度(真方位、以下同じ。)180メートルの地点において、針路を256度に定め、機関を回転数毎分1,500の半速力前進とし、15.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、原島北方に向けて進行した。
A受審人は、原島北端の鉾埼から北方約300メートルまで拡延した岩礁に接近しないよう、壱岐島南西方の大島と長島との間に架けられた珊瑚大橋の道路照明灯を船首目標として郷ノ浦港内を西行していたところ、04時06分半鎌崎防波堤灯台から246.5度310メートルの地点に差し掛かったとき、右舷船首24度620メートルのところに厚生丸の白、紅2灯を視認し得る状況となり、その後、その方位に明確な変化がなく、前路を左方に横切り、衝突のおそれのある態勢で接近したが、船首目標や左舷船首方にあたる原島北方を東行する漁船の有無を確認することに気を取られ、右舷前方の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、右転するなどして厚生丸の進路を避けることなく続航した。
こうして、A受審人は、左舷前方の見張りを行いながら船首目標の道路照明灯に向けて進行し、04時07分半鎌崎防波堤灯台から252度765メートルの地点に達したとき、厚生丸が同方位210メートルのところに接近したが、依然として、このことに気付かず、同船の進路を避けないまま続航中、04時08分鎌崎防波堤灯台から253度1,000メートルの地点において、満漁丸は、原針路、原速力のまま、その右舷船首が、厚生丸の左舷後部に後方から63度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力4の北東風が吹き、潮候は高潮時で、視界は良好であった。
A受審人は、衝撃を受けて衝突したことを知り、事後の措置に当たった。
また、厚生丸は、刺し網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人及びC指定海難関係人が乗り組み、刺し網を揚網する目的で、船首0.3メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、同日03時55分小崎漁港を発し、同漁港南南西方約2.5海里の金城岩西方の漁場に向かった。
B受審人は、操舵室で立って操船に当たり、前部マスト灯、両色灯及び船尾灯を表示し、機関を極微速力前進にかけて同漁港防波堤入口に向かい、間もなく操業時に使用する投光器の点灯試験を行うことを思い立ち、日ごろから海技免状を受有していない息子のC指定海難関係人とともに出漁しており、同人が漁場に至る海域の水路事情を良く知っていて、操船にも慣れていたことから、同人に操船を委ねることにし、魚市場に向かう漁船が多い時刻帯であったので、同人に対して周囲の見張りを十分に行うことなどを指示して操船を委ねた。
操船を引き継いだC指定海難関係人は、前部甲板右舷側にある揚網用ローラの後方で、同所に設置された操舵及び機関遠隔操縦装置に就いて操船に当たり、03時56分小崎浦南防波堤を通過して郷ノ浦港内に入り、間もなく、B受審人が、操舵室右舷後部で投光器の操作盤を操作して点灯試験を始め、同室上部右舷側に設置している投光器を右舷側の陸岸や養殖いかだなどに向けて照射していたので、極微速力のまま郷ノ浦港内を西防波堤と中防波堤との開口部に向けて南下した。
04時03分少し前C指定海難関係人は、郷ノ浦港小崎浦南防波堤灯台から157度580メートルの、開口部まで約170メートルの地点において、B受審人が点灯試験を終えたので、針路を193度に定め、原島北方を東行して魚市場に向かう漁船が多い時刻帯であることと、夜間でしかも港内であることから、用心のため、機関を回転数毎分1,000の微速力前進として、6.0ノットの速力で進行した。
04時04分少し前C指定海難関係人は、開口部を通過したところで、周囲の状況を確認したところ、接近するおそれのある他船を認めなかったものの、しばらく微速力のまま南下することにし、月明かりでうっすらと視認できた金城岩を船首目標として、右舷前方にあたる原島北方に注意を払いながら続航した。
一方、B受審人は、開口部を通過したところで、自らも周囲の状況を確認したところ、接近するおそれのある他船を認めなかったことから、引き続きC指定海難関係人に操船を委ね、自らは操業の準備に当たった。
04時06分半C指定海難関係人は、鎌崎防波堤灯台から268.5度895メートルの地点に差し掛かったとき、左舷正横後3度620メートルのところに満漁丸の白、緑2灯を視認し得る状況となり、その後、その方位に明確な変化がなく、前路を右方に横切り、衝突のおそれのある態勢で接近したが、右舷前方の原島北方を東行する漁船の有無を確認することに気を取られ、左舷側の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、同じ針路及び速力で続航した。
こうして、C指定海難関係人は、右舷前方の見張りを行いながら船首目標の金城岩に向けて進行し、04時07分半鎌崎防波堤灯台から258度950メートルの地点に達したとき、満漁丸が同方位210メートルのところに接近したが、依然として左舷側の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、満漁丸に対し、有効な音響による信号を行うなり、投光器を照射するなどして注意喚起信号を行うことも、同船が間近に接近して行きあしを止めるなどの衝突を避けるための協力動作をとることもせずに続航中、厚生丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突し、B受審人及びC指定海難関係人が海中に投げ出された。
衝突の結果、満漁丸は、船首部に破口を生じ、厚生丸は、左舷後部に破口及び操舵室に損傷を生じ、機関室に浸水したので、地元漁船に横抱きされて着岸し、消防車により排水作業が行われ、のちいずれも修理された。また、B受審人及びC指定海難関係人は満漁丸に引き揚げられたが、同受審人が42日間の入院加療を要する頭部打撲などの重傷を負ったほか、満漁丸乗組員1人が4箇月の入院加療を要する左腸骨翼骨折などの重傷を、他の乗組員1人が左胸部打撲などの軽傷を負った。
(原因)
本件衝突は、夜間、長崎県壱岐島郷ノ浦港において、両船が互いに進路を横切り、衝突のおそれのある態勢で接近中、西行する満漁丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る厚生丸の進路を避けなかったことによって発生したが、南下する厚生丸が、見張り不十分で、注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人等の所為)
A受審人は、夜間、長崎県壱岐島郷ノ浦港において、漁場に向けて西行する場合、接近する他船を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、船首目標としていた道路照明灯及び左舷船首方にあたる原島北方を東行して魚市場に向かう漁船の有無を確認することに気を取られ、右舷前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を左方に横切り、衝突のおそれのある態勢で接近する厚生丸に気付かず、同船の進路を避けることなく進行して衝突を招き、満漁丸の船首部に破口を、厚生丸の左舷後部に破口及び操舵室に損傷をそれぞれ生じさせ、B受審人に42日間の入院加療を要する頭部打撲などの重傷を、満漁丸乗組員1人に4箇月の入院加療を要する左腸骨翼骨折などの重傷を、他の乗組員1人に左胸部打撲などの軽傷をそれぞれ負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同受審人を戒告する。
C指定海難関係人が、操船に従事した際、原島北方を東行する漁船の有無を確認しようとして右舷前方ばかりを注視し、左舷側の見張りを十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
以上のC指定海難関係人の所為に対しては、海難審判法第4条第3項の規定による勧告はしないが、操船に従事するときには、接近する他船を見落とすことのないよう、前方のみならず、周囲の見張りを十分に行い、安全運航に努めなければならない。
B受審人が、郷ノ浦港内で無資格のC指定海難関係人に操船を委ね、同指定海難関係人の見張りが不十分で、本件衝突に至ったものであるが、同指定海難関係人に操船を委ねるに当たり、周囲の見張りを行うよう指示しており、かつ、同指定海難関係人が、入港船が多い時刻帯であり、夜間の港内航行であったことから、用心のため微速力で航行しながら、入港船の有無を確認しようとして、前方の見張りに専念していたことに徴し、同受審人が、港内で同指定海難関係人に操船を委ねたこと、又は、見張りについての指示が十分に徹底していなかったことをもって、本件発生の原因とするまでもない。
よって主文のとおり裁決する。