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平成14年広審第119号
件名

旅客船第五天祐丸かき養殖筏衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年2月27日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(竹内伸二)

理事官
平野浩三

受審人
A 職名:第五天祐丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
天祐丸・・・船底に擦過傷
かき養殖筏・・・一部が損傷等

原因
天祐丸・・・船位確認不十分

裁決主文

 本件かき養殖筏衝突は、船位の確認が十分に行われなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年8月14日21時18分
 広島湾 似島地獄鼻沖合

2 船舶の要目
船種船名 旅客船第五天祐丸
総トン数 16トン
全長 14.72メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 257キロワット

3 事実の経過
 第五天祐丸(以下「天祐丸」という。)は、海上タクシーと呼ばれる旅客定員40人のFRP製旅客船で、レーダーを装備し、愛媛県温泉郡中島町宇和間を基地として、広島湾や安芸灘で不定期旅客輸送に従事していたところ、平成14年8月14日広島県厳島港沖で行われた宮島水中花火大会を見物する目的で、A受審人が一人で乗り組み、定員を超える花火見物客51人を乗せ、船首0.5メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、同日18時40分広島県呉港を出航し、19時40分宮島北岸の厳島港沖合に到着して花火見物を行ったのち、20時55分同地を発し、往航とほぼ同じ経路を反対に航行して帰路に就いた。
 ところで、広島湾には随所にかき養殖漁業区域があり、同区域内に海面上の高さが約30センチメートルのかき養殖筏が多数敷設され、同区域の要所に光達距離が2ないし6キロメートルの標識灯が設置されていた。そして、似島南岸の地獄鼻沖合から箕浦鼻沖合にかけて南北約450メートル東西約1,800メートルのかき養殖漁業区域(免許番号、区第185号)があり、その南東端、南西端及び北西端のほか南側境界中央部に、平均水面上2.6ないし3.6メートルで、太陽電池を電源とし毎4秒に1閃光を発する光達距離6キロメートル以上の黄色標識灯がそれぞれ設置されていた。
 A受審人は、毎年8月に行われる宮島水中花火大会の際、見物客を乗せて広島湾を航行していたので、似島沿岸のかき養殖筏群とその標識灯についてよく知っており、海図第142号を操舵室の収納棚に置いていたものの、同海図を見ることはほとんどなかった。
 厳島港沖を発進したときA受審人は、レーダーの電源を入れてスタンバイ状態としたが、花火見物を終えて一斉に航走を始めた数百隻の小型船が互いに接近して航行する状況下、操舵室内では前後左右の他船の接近状況を把握しながら操船することが難しいので、コード付き遠隔操縦装置を持って船首部に赴き、機関と舵の操作を行いながら、約7ノットの対地速力(以下「速力」という。)で大野瀬戸東部を東行した。
 A受審人は、地獄鼻南方沖合のかき養殖筏群から十分離れて航行するつもりで、厳島東方沖合の安芸絵ノ島灯台や、月明かりでうっすらと見える江田島、西能美島、似島及び大奈佐美島の各島影を見て進行方向を推定し、21時03分同灯台から325度(真方位、以下同じ。)1.9海里の地点に達したとき、江田島最高峰の熊ケ岳(標高400メートル)に向けて針路を114度に定め、機関を回転数毎分1,800の前進にかけ、コンパスを見ないまま、折からの潮流によって約1度左方に圧流されながら、16.0ノットの速力で、周囲至近を航行する多数の同航船とともに大須瀬戸に向けて進行した。
 定針後A受審人は、多数の小型船が輻輳(ふくそう)し、ときどき近づいてくる同航船のため直進することが困難な状況下、潮流の影響を受け、これらの船を避けて左右に転舵を繰り返しながら航行するうち、次第に当初の予定針路から外れて地獄鼻南方のかき養殖筏南西端付近に向首するようになった。そして、21時13分大奈佐美島東端を左舷側1.7海里に航過したとき、予定針路から400メートルほど北に寄り、ほぼ船首方向と左舷船首方向の、それぞれ約2,000メートルのところに、かき養殖漁業区域南西端と北西端を示す2個の標識灯を視認することができたが、周囲の島影を見ただけで、かき養殖筏群の南方に向かっているものと思い、早めに減速若しくは一時停船し、操舵室のレーダーを見て似島南岸のかき養殖筏群の位置を確かめるとか、注意深く同標識灯を探すなどして船位の確認を十分に行わなかったので、このことに気付かず、また、前路の同航船の灯火や、江田島町大須及び幸ノ浦の人家等の明かりを背景に点滅していた同標識灯にも気付かないまま、もう少し航行してからレーダーを見るつもりで、周囲の島影で進行方向を判断し、同じ針路のまま続航した。
 21時17分A受審人は、周囲の同航船が少なくなり、似島南岸に近づいたのでレーダーを見てかき養殖筏を確認することとし、そのころかき養殖漁業区域南西端の標識灯が正船首少し右200メートルに点滅していたが、同灯火は左舷船首方向にあるものと思い込み、左右の同航船に気を奪われて同標識灯に気付かないまま、機関を停止して惰力で進行しながら操舵室に戻り、0.75海里レンジのレーダー画面を見たものの、感度調整が不良でかき養殖筏を確認できないまま、同時18分少し前機関を回転数毎分1,500の前進にかけて間もなく、21時18分安渡島灯台から025度1.2海里の地点において、天祐丸は、原針路のまま、約13ノットの速力で、南西端の標識灯から50メートル北側のかき養殖筏に衝突して同筏に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、潮候は上げ潮の初期にあたり、絵ノ島付近には北方に流れる弱い潮流があり、月齢は6.2であった。
 衝突の結果、天祐丸は、船底に擦過傷が生じるとともに、推進器が曲損して航行不能となったが、間もなく広島海上保安部の巡視艇に救助され、のち修理された。また、かき養殖筏の一部が損傷するとともに多数の養殖かきが落下紛失するなどの損害が生じた。

(原因)
 本件かき養殖筏衝突は、夜間、広島湾において、花火見物のあと、厳島港沖合から帰航する多数の船舶とともに、似島西方沖合を大須瀬戸に向け航行中、船位の確認が不十分で、同島地獄鼻南方沖合に敷設されたかき養殖筏群に向首したまま進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、広島湾において、花火見物客を乗せ、船首部で機関と舵とを遠隔操縦しながら、花火見物を終えた多数の船舶とともに似島西方沖合を大須瀬戸に向け航行中、ときどき近づいてくる同航船を避けて転舵を繰り返しながら同島地獄鼻南方のかき養殖漁業区域に接近する場合、早めに減速若しくは一時停船し、レーダーを見てかき養殖筏群の位置を確かめるとか肉眼で注意深く標識灯を探すなどして船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、周囲の島影を見ただけで、かき養殖筏群の南方に向かっているものと思い、早めに減速若しくは一時停船し、レーダーを見てかき養殖筏群の位置を確かめるとか肉眼で注意深く標識灯を探すなどして船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、予定針路の北に寄り、かき養殖筏群に向首していることに気付かないまま進行して同筏との衝突を招き、船底に擦過傷を生じさせ、推進器を曲損させるとともに、かき養殖筏の一部を損傷して多数の養殖かきが落下紛失するなどの損害を生じさせるに至った。





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